敵襲
レオーナと共に部屋を出ると、城内は慌ただしい雰囲気に包まれていた。
盛山はわけもわからずレオーナの後を駆けていく。
廊下ですれ違う女たち(剣士や魔法使い風の人たち)は皆、険しい表情をしていた。
「状況は?」
レオーナが隣のシャオルに訊ねる。
「2階の大広間で敵と交戦。その後は姿をくらましています。こちら側の負傷者は5名、幸い死者は出ていません」
「侵入者の数は?」
「確認しているだけで2人。詳しい数はまだ把握できていませんが、おそらく5人程度かと」
「えらく少ないな。念の為城外の守りを固めておけ」
「はっ! ――レオーナ様は?」
「私は王の元へ行く」
「お一人で?」
「案ずるな。敵が何人いようと関係ない」
少数精鋭で侵入――。
玉砕覚悟で王の首を狙っている可能性もある……。
部下に自信を見せながらも、レオーナの表情が曇る。
「ご武運を」
指示を受けたシャオルが姿を消す。
「ぼ、僕はどうすればいいんでしょうか?」
これから危険な場所へ向かうであろうことを察知した盛山が問う。
「貴様は召喚獣だろう? 一時的に姿を消すことぐらいできるんじゃないのか?」
「いえ、それが僕は召喚される専門でして。一度姿を現してしまうと僕にはどうにも……」
徐々に人型召喚獣としての立ち振る舞いをこなせるようになってきた盛山。
言葉に詰まれど、咄嗟の返しとしては及第点である。
「仕方ない、ついてこい」
レオーナの顔には、足手まといになるがやむを得ないと書いてある。
盛山は藁にもすがる思いでレオーナの後に続いた。
「伏せろッ!!」
1階の廊下を走っていた時だ。
突然、盛山の頭を押さえてレオーナが叫んだ。
同時に、廊下の窓ガラスが割れる。
何ヶ所割れたのかもわからないほどのけたたましい音。
「な、な、なんですかコレ!!」
うずくまり、頭を抱える盛山。
周辺に大量のガラス片が散らばっている。
「動くな、そこでじっとしていろ」
と、レオーナ。
よく見ると、窓ガラスどころか廊下の壁も抉れている。
銃のようなもので攻撃されたのか、はたまた魔法での攻撃なのかはわからない。
「やったか?」
「いや、外しちまった」
割れた窓の向こう、中庭から2人の男の声がする。
やがて姿を現す2人組。
その姿は黒ずくめで、どこかの軍の特殊部隊のようだと盛山は思った。
口元を隠し目元しか見えないものの、その体躯はまさしく屈強な男といった感じ。
「やはりな、当たりだ」
吊り目の男がそう呟き、
「姫を発見。ただちに応援を頼む」
と、太眉の男の方が耳元を抑え仲間に連絡をとる。
口元のマスクをずらし、煙草に火を点ける太眉。
2人はレオーナと盛山の元へ近づいて来る。
「なんなんですか! あの人たち!」
「黙ってろ」
盛山がたまらず訊ねるも、レオーナは答えず臨戦態勢に入る。
「レオーナ姫、だな?」と、吊り目。
「だったら?」
不敵に笑うレオーナ。その余裕が盛山を少しばかり安堵させる。
「じきに仲間が到着する。数は少ないが、いずれも精鋭ばかりだ。大人しく投降してくれればこちらも助かるんだが――」
太眉は言い淀み、「そうはいかねぇか」と煙草の煙を吐き出す。
「そうか、ここに全員が集まるのか。なら、好都合だな」
どうやら、狙いは王ではなくレオーナのようだ。
彼らが魔女と敵対しているという非魔法使い側の連中なのだろうと盛山は思った。
「ずいぶん余裕だな。――で、そいつは?」
吊り目が盛山を一瞥する。
「こいつは関係ない」
「驚いたな。まさか、こっち側の人間がこんな場所にいるなんて。ペットか? もしかして、その形で女ってことはねーよな?」
吊り目が笑いながら言う。
「黙れ。関係ないと言っている」
「こりゃ失敬。魔女は元来美人ばかりと聞いていたもんで」
吊り目の高笑いは止まらない。
「レオーナさん、この人たちって……」
盛山は訊ねる。
「貴様は、本当になにも知らないんだな」
レオーナはため息をついた後、「メイズだ」と吐き捨てるように言った。
「私たちがもっとも忌むべき人種――〝男〟だ」