レオーナ姫と秘密の部屋
薄暗い地下室を出ると、強烈な日差しが盛山を襲った。
廊下の窓から指し込む光は、盛山のいた世界と変わりはない。
違うのは、建物やそこにいる人たちの風体である。
中世のヨーロッパの雰囲気、というよりは漫画やアニメでお馴染みのファンタジーの世界というべきか。
大きな城内を歩いているのだろう。廊下は学校と同じくらい、いやそれ以上の長さがある。
盛山の前を、レオーナは早い歩幅で歩いていく。
もちろん、二人の間に会話はない。
「あのぉ……」
沈黙に耐えかねて、盛山が口を開く。
「…………」
「ちょっと、いいですか?」
「喋っていいと、私が言ったか?」
「いえ……」
「なら黙っていろ。喋ることを許可した覚えはない」
忠告を無視して盛山は続ける。
「そうかもしれませんが、なにぶん――召喚? されてはみたものの、右も左もわからないものでして……。差支えなければどこに向かっているのか、僕はなにをすればいいのかだけでも教えていただければ……」
ふいに、立ち止まるレオーナ。
「いやあの、レオーナ様に失礼があってはならないと思いまして……」
とっさに〝様〟をつける辺り、盛山もこの世界に順応してきているのかもしれない。
「貴様はただ私の指示通りに事をすませればいい。余計なことは口にするな」
「はい……」
やはりダメか……。
盛山が委縮していたその時――、
「レオーナ様!」
甲高い声が上がった。
レオーナの前に、剣士のような格好をした女が立っている。
「き、貴様ッ! なぜこんな所に!!」
「ヒィッ!」
盛山を見るや否や、腰に携えた剣を抜き飛び掛かって来る女。
「よせ、シャオル」
制止するレオーナに、シャオルと呼ばれる女が食い下がる。
「なぜ止めるのです!?」
「此奴はメイズではない」
「い、いったいどういう――」
「姿形は奴らそのものだが、人型の召喚獣だ。特別害はない」
シャオルは戸惑っているようだったが、やがて「これが例の……」と呟き落ち着きを取り戻す。
「もし我々に危害を加えるようなら、その時は私がこの手で処刑する。それとも、私がメイズ一人ごときにやられると思ったのか?」
「まさかそのようなことは……」
恐縮するシャオルに、レオーナは口元に笑みを浮かべる。
その微笑みに、盛山の背筋が凍る。
「失礼しました。では、私はこれで」
シャオルが頭を下げて去っていく。
どうやら、レオーナはこの城内において相当位の高い人間のようだ。
しかし、度々会話にあがる〝メイズ〟とは何を指しているのだろう。
今わかっていることは、レオーナたちはメイズを憎んでおり、盛山がメイズそっくりであるということだけだ。
「いくぞ」
二人は再び歩き始める。無論、一定の距離を保って。
長い階段を上り、これまた長い廊下を歩く。
盛山はふと窓の外を眺めた。眼下に、先程の女剣士と似たような風体の数人が稽古をしているのが見える。いずれも女のようだ。
いくら戦争中だとはいえ、女性にあんな激しい稽古をさせるものなのか?
いや、現実世界だって戦時中は女性に竹やりの訓練させてたっていうしな……。
「痛っ――」
そんなことをボーっと考えていた盛山は、なにかにぶつかり足を止める。
〝なにか〟とは、外ならぬレオーナである。
「貴様……」
「す、すいませんッ!」
小さくため息をついて、怒りを収めるレオーナ。
「おかえりなさいませ、レオーナ姫」
二人が立っていたのは、とある部屋の扉の前。
その隣に、メイドさんが頭を下げて待っていた。
姫と呼ばれているということは、王の娘かなにかだろうか。
「準備は整っております」
「そうか、ご苦労」
メイドを労い、扉を開けるレオーナ。
「ここは……?」
「私の部屋だ」
広い室内。その真ん中に、ひときわ目を惹く天蓋ベッドがある。
「おじゃま、します……」
レオーナの後をそろりそろりとついてゆく盛山。
やがて、ベッドの前で立ち止まるレオーナ。
「少し、後ろを向いていろ」
「?」
言われるがまま、盛山は後ろを向く。
なんなんだ一体? まさか、背後からナイフでブスリなんてこと――。
「振り向いても……いいぞ」
恐る恐る視線を戻すと、そこには下着姿のレオーナが立っていた。
以降は平日一話更新を目安に投稿していきたいと思っております。
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