就職先は異世界!?
目の前には、たわわに実ったおっぱいが二つ。
夢か? 幻か??
盛山がそう思うのも無理はない。
「うむ」
と、まじまじと盛山を覗き込むおっぱい――もとい、若い女。
彼女は現代に似つかぬ服装をしている。露出度の高い、二次元でよく見るような魔導士風のそれだ。
赤色のロングヘア―に、少し吊り上がった大きな瞳。
まごうことなき美女である。
「なるほど、これが人型召喚獣か……。それにしても奴らにそっくりだな。忌々しい」
言っていることの半分は理解できなかったが、なにやら嫌悪感を抱かれていることだけはわかった。
「そう仰らずに。自我はあれど、精巧に造られた人形だと思っていただければ差支えないかと」
女の隣にいるのはローブを纏った人物。
声や背丈的に老婆だろうか。フードを深く被っており、その顔は見えない。
話の内容から察するに、盛山は人ではなく人形ということなのだろう。
人形……?
「しかし本当に、奴らそのものだな」
〝奴ら〟がなにをさしているのか、盛山には理解できない。ただ、目の前の光景に目を見開いている。
さっきまで田舎の整体院にいたはずだ。それが今や、石壁で固められた薄暗く湿った場所にいる。
どうやら地下室のよう。部屋の四隅には松明がたかれていて、足元には魔法陣が――。
魔法陣……?
「あ、あの……なにか御用でしょうか……?」
女と見つめ合うこと数秒、盛山は恐る恐る口を開いた。
「不快だな。喋るのか」
女は眉間に皺を寄せながら盛山を睨みつける。
「左様。姿かたちや口調はメイズそのもの。しかしながら、先程も申した通り彼は人形――いや、奴隷だと思って頂ければ結構。私情は無用でしょう」
「仕方ないな。国の為だ」
混乱する盛山にかまわず、女と老婆の会話が繰り広げられる。
「レオーナ様!」
どこからか、別の女の声がした。
部屋奥にある扉の小窓が開かれ、そこから顔を出す声の主。
「お取り込み中の所、申し訳ございません。国王様がお呼びです」
「すぐに行く」
どうやら、巨乳の若い女はレオーナというらしい。
使いの女の元へ颯爽と歩いていく。
「私が戻るまでにちゃんと躾けておいてくれ」
「御意」
老婆に伝え、去っていくレオーナ。
置いてけぼりの盛山は口をぽかんと開けたままだ。
老婆と二人きりの室内に沈黙が漂う。
やがて、老婆がゆっくりと近づいて来る。
「……な、なんですか?」
〝奴隷〟や〝躾け〟というワードから、不穏な空気を感じ取る盛山。
「ちょっ! 近づかないでくだ――」
「しっ!」
近づいた老婆は、人差し指を唇の前に立てて言う。
「あまり大きい声出すなよ」
その声と口調があまりにも老婆とはかけ離れていて、盛山は思わず口をつぐむ。
「その顔、まだ現実を受け入れてられてない感じやな」
驚いたことに、鼻で笑う口調は成人男性そのものであった。しかも関西弁。
「まぁ、無理ないか。誰だってそうなる」
言いながら、老婆がフードを脱ぐ。
現れたのは、20代くらいのごく普通の青年であった。
「……え? ……は? えぇっ!?」
「アホ! デカい声出すなて!」
手のひらで口を封じられる盛山。
「ふ、ふいふぁへん(すいません)……」
「ったく」
解放され小さく深呼吸する盛山。
「俺は吉田。簡単に言うとあんたの案内人や」
盛山は部下が待っているという鏑木の言葉を思い出した。
「色々と言いたいことはあるやろうけど、面倒やから端的に言うで。薄々感づいてるとは思うけど、ここは俺たちが住んでた世界やない――異世界や」
「異世界!?」
食い気味に盛山が反応する。
「よくアニメとか漫画とかで流行ってる、あの!?」
「しーっ! せやから声デカいて!」
盛山を落ち着かせ、改めて向き直る吉田。
「その通りや。ほんで、アンタの仕事はこの異世界で整体師として働くことや」
「異世界で!? 整体師!!??」