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整体師もりやまの受難

初連載です。読んでいただけたら嬉しいです。


盛山直輝(もりやまなおき)さん37歳、ねぇ……」


 白衣姿の老人は、履歴書を片手に渋い表情を浮かべる。


「ところで、なぜウチみたいな田舎の小さな整体院に?」


「えーっと、それはですね……」


 問われた盛山は、それ以上言葉を(つな)ぐことなく黙ってしまう。

 片田舎の(さび)れた整体院、その一室で面接を受けているスーツ姿の盛山。

 相対するは、かぶらぎ整体院の院長である鏑木(かぶらぎ)である。


「いや、ちょっと気になりましてね。あなたのような都会の大きな病院に勤務していた方が、どうしてわざわざ――」


「実は病院の方針に嫌気がさしてまして……」


「ほう」


 嘘である。本当の理由はリストラだ。

 なにも、盛山の勤務態度に問題があったわけではない。整体師としての、単なる技術力不足であった。

 手に職があるとはいえ、アラフォーの転職はそれなりに厳しいものがある。

 おまけに整体師としての腕がなければなおさらだ。


 37歳無職、独身の一人暮らしとなるとそれなりに生活は逼迫(ひっぱく)していた。

 転職活動中に失業手当はとうに使い果たしている。

 最後の望みとして訪れたのが、このかぶらぎ整体院であった。


「大学病院は、なにかと利権争いやなにやらで大変でして、はは……」


 雇われの整体師にそんなことが関係あるはずもない。

 盛山が見え透いた嘘をつく理由は単純で職に就く為である。

 技術不足で解雇とあっては、同業種での就職が困難であることは明白だった。


「ふむ」


 鏑木はたくわえたあごひげをさすりながら一息つく。


「少し腕を見せてもらえるかね?」


「……腕? 整体の実演、でしょうか?」


 ドキッと、盛山の心臓が跳ね上がる。


「いやいや、少し手のひらを見せてほしいだけじゃよ」


「はぁ」


 言われたとおりに、盛山は手のひらを差し出す。

 鏑木は盛山の手のひらに触れ、まじまじと見つめる。


「なるほど。君を採用しよう」


「えっ!?」


 その反応も無理はない。

 面接時間は5分も満たない、履歴書を一瞥(いちべつ)し手のひらを見つめただけで採用とはこれいかに。


「本当にいいんですか?」


 一抹(いちまつ)の罪悪感を感じる盛山。根は真面目なのだ。


「もちろんだとも。しかし条件がある」


「条件?」


「君には特別な()()についてもらいたい」


「任務……ですか。治療ではなく?」

 

 首をかしげる盛山に構わず、鏑木は続ける。


「ついてきたまえ」

 


 * * *



 つれてこられたのは建物の奥、薄暗い廊下の先にある扉の前だった。


「これを着なさい」


 どこから持ってきたのか、鏑木が白衣を渡してくる。


 扉の先に治療室がある雰囲気はない。言われるがまま、上着を脱ぎ白衣に袖を通す盛山。


「さっそくじゃが、君にはある仕事をしてもらう」


「はぁ」


「この仕事は普通の整体師では務まらん。君にしかできない任―—仕事なのじゃ」

 

 〝任務〟という言葉が妙に引っかかる盛山。


「さぁ、早くドアを開けたまえ」


「…………」


 ドアノブに触れるも、不安を(ぬぐ)いきれない盛山。


「一つ訊いていいですか?」


「なんじゃ?」


「仕事――じゃなくて、僕の任務とはいったいなんなんですか?」


「君にしかできない大事な仕事じゃよ。それを達成すれば、給料も今までの5倍、いや10倍……」


 そんなうまい話があるか? と盛山は(いぶか)しむ。

 面接は即合格、さらには給料も弾むとなれば誰だってそうなる。

 しかし、盛山の現状を考えれば背に腹は代えられない状況だ。

 虎穴(こけつ)に入らずんばなんとやらである。


「ドアの向こうでわしの部下が待っておる。詳しいことは彼から聞いてくれ」


「わかりました」


 深呼吸をし、ドアノブを握る手に力を入れる盛山。


「健闘を祈る」


 鏑木の言葉を背に、盛山がドアを開ける。


「――ッ!?」


 足を踏み入れるや(いな)や、突然真っ白な光が盛山の視界を襲った。

 反射的に目をつむっても、まぶたの裏は白い世界のままだ。

 意識を失いかけそうになるも、恐る恐る目を開けてみる。


 …………

 ………

 ……

 …


 そこには、それはそれは大きく実った乳房(ちぶさ)――おっぱいがあった。


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