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仮定の剣闘士  作者: 田園風景
中位ランク
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 人生全てをこのコロッセオで生きてきたが、所詮は下位ランクの範囲でのみ。中位ランクのエリアに入るというのは初めてだ。俺が知っている世界が広がる。これだけでも、目標を持ち、追い始めた価値があったというものだ。

 目標は『この青空の先、コロッセオの外の世界を見る』ことだ。俺たち奴隷剣闘士が外に出るには死ぬか、『観客に買われる』しかない。観客が俺たちを買う理由は色々あるだろうが、指針の一つとして強くあることだろう。強さの証明として『より上位を目指す』ことだ。

 運営の者が通路の鉄格子を開けた。この先が中位ランクのエリアということだろう。俺とヒガンがその後ろについている。


「ヒガン……なんでお前が出てるんだ?」

「別にいいじゃろ。ここだと移動は少ないから、短くても道中を楽しむ事が出来るのじゃ」


 神からの使いである少女、ヒガン。赤眼、赤髪が楽し気に揺れている。

 ま、確かにその通りだな。この廊下も今まで居た下位ランクの廊下と変わらない。窓も無いので景色が変わっているかも分からないが、それでも気分的に違ってくるものだ。


「ここから先、一人になれる状況があるまで、なるべく出てくれるなよ」

「なんでじゃ?私はお前以外に見えないんだから、出てもいいじゃろ?」

「居ると思わず話しかける事もあるだろ。下位ランクでは気狂いの話も出てきたんだからな。ここからは、そんな汚名は付けられたくない」


 ヒガンはつまらなそうな表情で、口先を尖らしている。


「ふ~ん」

「あのな。哀れみの視線を向けられて気を使われたり、ヒーラーに見てもらうよう勧められるってのは、結構辛いんだよ」

「わかった、わかった。部屋に入ったら暫くは引っ込んでおくわい」

「助かる」


 ヒガンにはこれまで助けてくれたし、これからも世話になるだろう。後で機嫌を取ったほうが良いだろうな。とは言っても、何ができるか……褒めるぐらいしかできないか。ま、後で考えよう。

 鉄格子を抜けた後、少し歩くと大部屋に着いた。入口の見た目は下位ランクと何も変わらない。中は違うのか?


「ここが中位ランクの大部屋だ。この後どうすれば良いかは、中に居る適当な奴に聞け。皆、同じように案内してきたから答えるはずだ」

「わかった。ところで、大部屋はここだけなのか? 下位ランクは大部屋いくつかあったよな」

「ああ。大部屋はここだけだ。その辺りも、中の奴に聞けばいい。以上だ」


 大部屋が一つしかないのか。中位ランクの人数は少ないのだろうが、なんか扱いが下位ランクより悪い気がするな。

 案内してくれた運営の者と別れて、大部屋の扉を開く。

 中位ランクの大部屋は……心持ち、下位ランクより清潔感があるな。それと思ったより人が少ない。今、この部屋には十人程度しかない。何かの用でここに居ない奴が居ることを考えても、少な過ぎるな。


「なんぞ、少ないの」

「そうだな。誰かに聞けばその辺の事情も分かるかもしれないな」


 ざっと見て、昔に下位ランクで見たことのある顔が何人か居るが、対戦経験のある奴や特に親しく話した事のある奴は居ない。仕方ない、適当に捕まえて聞くか。


「んでは、私はそろそろ引っ込んでおく。何か面白いことがあったら、教えるのじゃぞ」

「ああ、またな」


 瞬きの間に、ヒガンは消えていた。何時も突然現れては、わーわー好きに言って、唐突に消えるな。なかなか慣れないものだ。さて、全く知らない奴より、顔に覚えのある奴に話を聞いた方が良いだろうな。隅でぼーっと座っている彼奴に聞いてみよう。昔、下位でちょっと見かけたことがある。

 俺が一方的に見ただけで、中位ランクの奴らは俺を知らない可能性がある。最初っから険悪になることも無いだろうし、警戒されないよう視界に入りながら近づく。なんか、俺の事見えているのか?あんまり、反応があるようには見えないが。


「なあ、ちょっと話を聞かせて貰って良いか?」

「……」

「おーい。聞こえているか?」


 奴はようやく反応した。辺りをゆっくり見回してから、聞かれているのが自分だと分かったのだろう。眠たげな眼を俺に向ける。


「……ああ、済まない。半分寝てた。何か用か?」

「眠い所済まないな。下位ランクからこの中位ランクに上がってきた所なんだが、ここについて、教えてほしい」


 奴は座り直し、大きく伸びをした。しなやかな筋肉を付けているな。パワーで押すタイプではなく奇襲タイプだろう。ここにいる全員が下位ランクから選ばれて上がってきたんだ。弱いわけが無いだろうな。


「ああ、良いよ。とは言っても、大まかな所は下位ランクと左程変わらない。適当な所で寝れば良いさ。大丈夫。縄張りやルールなんて無いからさ」

「ふむ。思ったんだが、大部屋はここだけなんだよな? にしては、人数少なくないか?」

「……少し前に上の方で纏めて買われてな。それで順位繰り上げがあって、空きが出来た。それと、個人部屋で住んでいる奴が居るんだ……」


 おお、個人部屋だと! 有ると良いなと思っていた。奴隷の身分で個室なんてと思いつつ、上に行けばと期待はしていたんだが、こんなに近くにあるとは意外だったな。


「個人部屋ってのは、俺にも用意されているのか?」

「……いや、無い。個人部屋に入れるのはランクナンバーを貰った奴だけだ。ま、大部屋に慣れ過ぎて、ナンバー貰っても大部屋で寝てる奴も居るけどさ……」

「ランクナンバー? なんだそりゃ?」


 少なくとも、下位ランクには無かった。どんなに強かろうと弱かろうと、新米や年長でも、全員同じ扱いだったからな。


「……説明しておこう。中位ランクは大きく分けて二つに分けられる。中位の中で勝ち続けている奴から順に十番目までの奴に対して、ナンバーを付けられたのが『ランクナンバー』だ。もう一つが『ナンバー無し』、中位ランクナンバーの予備だ。上がってきたばかりのお前や俺が、そのナンバー無しだ……」

「ランクナンバーになるには、どうすれば良いんだ?」

「……下位ランクと同じで勝ち続ければ運営の目に留まって、ランクナンバーと対戦が組まれる。それに勝てばランクナンバーだな。他には、ランクナンバーが『買われ』たら、その空きを埋めるために繰り上げられる……」


 なるほど。基本は同じで、勝ち続けることが必要なんだな。勝ち続けるには単純に力量を上げるだけじゃない。運営から与えられた武器の中でどう戦うか、考えることも必要だろう。


「なるほど、わかった。細かい所は都度聞くとして……ここ以外に使って良い場所を案内してくれないか?」

「……嫌だよ、眠いし。勝手にうろちょろすればいいよ。どうせ、行ってはいけない所は鍵が掛かってるし、上がりたての奴がうろついているのはいつもの事だから、誰も気にしない……」


 そういえば、下位ランクでの新米の扱いも似たようなものだったな。おし、なら少し探検と行きますか。


「色々教えてくれてありがとうな。そういえば名前言ってなかったな。俺はガイリトス。」

「俺はヒウマ。いってら……あふ、寝る……」


 ヒウマはもううつらうつらしている。余程疲れているのだろう。さて、目新しいのがあると良いのだけどな。

 

 言われた通りうろちょろとしている。一人で歩くのもあれなので、ヒガンも一緒に歩いていた。


「代り映えしないの。もう少しこう、遊び心というのは無いものか」

「奴隷用の部屋に何期待してるんだよ」


 俺たちは商品だから粗末にはされない。だがやっぱり奴隷なのだ。不必要なものは用意されない。生まれてずっとここで生活している俺には、外から来た奴隷仲間の話以上の知識は無い。だからかな。遊び心のあるものと言われても、想像が付かない訳なのだが。

 水場、中庭と歩き、なんと小さいが食堂があることを発見した。下位ランクでは与えられた食事を大部屋で食べていた。偶に床を汚す奴が居て、その跡と匂いに嫌な気分になったものだが、食堂があればそんなことも無いだろう。そういえば、中位ランクになったのだから、食事の質も期待出来そうだ。

 期待から少し腹が減ったと感じながら、他に何か無いか食堂を出たところで、見知った奴と出会った。


「どこかで見たと思ったら、ガイリトスさんじゃないですか」

「よう、久しぶりと言うべきか」


 俺が目標を持った時の対戦相手、ソイネスだ。

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