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仮定の剣闘士  作者: 田園風景
中位ランク
18/40

18.対アックネン

 目が覚めると、目に入ったのは見知った天井。つまり、俺の個室であった。

 俺はレザーアーマーではなく、シャツとズボンに着替えさせられており、頭に包帯が巻かれている。

 あの後どうなったのだろうか? 普通に考えれば気絶して負けたのだろうな。

 横にはヒガンが居た。体に痛みが無いことから察するに、治療魔法を掛けてくれたのだろう。っと、誰か来たようだ。


「あら、ようやく気が付いたのですね」


 長くは経ってないはずだが、何故か懐かしい気がした。


「どうしてこんな所に居るんだ、セレン?」


 そう。見慣れた医療服に身を包んだ下位ランクヒーラーのセレンが、医療器具を持って俺の個室を訪ねてきたのだ。例によって、セレンのすぐ後ろには護衛のセムも立っている。


「私はリンさんや何人もお休みが重なったので代理です。最近、下位ランクでは大怪我をする人が少なくて平和なのですが、貴方は見る度に大怪我をしていますね。趣味なのですか?」

「趣味な訳ないだろ。君には良い所を見せたい所だが、なかなか上手く行かないな」

「相変わらずのようで、安心しました。治療後も問題無いようですね」


 久しぶりなので、セレンをナンパしてみようと思ったのだが、相変わらずの冷たい目線である。




 イヴァンとの対戦の後を俺は覚えていなかったので話を聞いたが、思ったより酷かったようだ。頭蓋骨が割れ、意識は無く痙攣が続いていたそうだ。直ぐに治療魔法をかけられたが、流石に脳に関するダメージがどれほど回復するかは判らなかったそうな。

 治療は完了したはずだが意識が戻らず、とりあえずは個室に寝かして、数日経過したしたとのこと。

 ヒガンを見ると「しー」としていたので、後回しにしておこう。


「確認しますが、眩暈や吐き気等はありませんか? 視界も異常があれば言ってください」

「ああ、大丈夫だ。何も問題ない」

「では、記憶はどうですか? 適当に昔の事を思い返して、思い出せなかったり不鮮明だったりしませんか?」

「う~ん。君との思い出は無くしてないさ」

「異常無しですね」


 ああ、昔に何度も似たようなやり取りを繰り返したものだ。セレンは俺から包帯を外し、傷跡が無いかの確認を行った。


「では、問題無しのようですので上に報告しておきます。では」

「ああ。ありがとうな」


 セレンとセムが立ち去った後、ヒガンから話を聞いた。治療は直ぐにでも行えたのだが、ヒーラーが俺に注視している中では、流石に異常と取られると思い、命に別状は無いので、暫く放置していたようだ。ただ、無視出来ない話をヒガンが聞いたそうだ。


「ジーアンが対戦で死亡したと、お前の体の世話をしていたヒーラーが言っておったのじゃ」

「ジーアンが!?」

「相手はアックネン。一度勝った相手じゃな」




 話を聞くべく、アックネンを探し回った。狭いエリアなので直ぐに見つかる。個室で寛いでいた所を見つけた。


「ガイリトスか。イヴァンに殴り殺されてりゃ、俺の手間が減ってたんだが。ま、あの時の仕返しが自分で出来るって考えれば良いか」


 俺が尋ねて来たにも関わらず、見かけるなりニヤニヤしながらこの言葉。かなり調子に乗っているようだ。


「アックネン……聞きたいことがある。ジーアンのことだ」

「ああ、ジーアンか。確かに俺が殺してやったぜ。お前が文句あるのかよ?」

「対戦でか?」

「対戦の観客と運営の見ている前でだ」


 暫く睨み合いが続いたが、不意に俺はため息を吐いた。


「そうか。次は俺との対戦なんだろ? 遺恨無くやろう」

「次はお前だぜ」


 もはや用は無いと、俺は引き上げた。

 帰りの途中でヒガンが声を掛けてくる。


「おい、お主はあんなにあっさりと引いて良かったのか? 言いたいことがあるじゃろうに」

「確かにジーアンを殺したことについて、色々と思うことや言いたいことはあるさ。けどな、あくまで対戦の結果なんだ」


 アックネンの事だ。ジーアンがまだ快復仕切らない時に強引に対戦を行わせたとかはあるかもしれない。それでも……


「怪我が対戦に影響したとか卑怯な戦法を使ったとかあるかもしれないが、それを対処できない本人の問題だ。アックネンが暗殺とかじゃなく、対戦でやってくれたのを、俺は有難くすら思うな」

「そういうものなのか?」

「ああ。俺たち奴隷剣闘士が出来る唯一の事だからな」


 外から見れば異常なのかもしれないが、特に俺はこのコロシアムの中だけで生きてきたからな。他の常識をよく知らないんだ。

 が、顔見知りの敵討ちぐらいは考えるさ。覚悟しておけよ、アックネン。




 俺の気持ちを煽るかのような日中の熱気、そして観客のざわめきが満ちる決闘場。俺が入場した時、既にアックネンはニヤけた顔で待ち構えていた。

 入場する時、前のように不意打ちがあるかと身構えていたが、そんな事は無かった。これは俺程度はと、油断してやがるな。


「よう、ガイリトス。お仲間への別れの挨拶は済んでいるか?」

「アックネン。今回は前のような状況じゃない。きっちりと決着を付けてやる」

「笑わせるぜ! 一対一ならお前なんて俺の敵じゃないんだよ」


 確かにアックネンは強い。多数の武器を操り、遠近共に隙は無い。高速機動するジーアンを追いかけながら手傷を負わせるような、機動戦もやれる程だ。

 しかし、負ける気がしない。増長や油断ではない。明確な根拠があるわけではない。本当に、ただそう思ったのだ。


「それでは、対戦開始です!」


 いつも通り、アナウンスと銅鑼が対戦の開始を告げる。


 アックネンはすかさず、矢を浴びせてきた。距離のある内は、遠距離攻撃に徹するのは当たり前だ。俺には無いので、一方的に攻撃を受けることになるな。

 だが叩き落とす!


「っち」


 更に射かけるアックネン。俺は矢を剣で叩き落とし、盾で逸らしながら、一歩一歩詰め寄る。

 矢が無駄と分かると、投げナイフを俺の足先に投げる。

 良い攻撃だ。投げナイフは真面に当たらなければ致命傷とはなり難い。であれば、防ぎにくい手先足先を狙い、気勢を削ぐのだ。

 これも弾く!


「てめぇ!」


 投げ物も効果無しとみて、アックネンは槍を手にした。急ぎはしない。安定した足取りで、確実に距離を詰めていく。

 槍による刺突! 鋭い切っ先はフェイントを交えながら襲い掛かってきたが、剣で弾き、盾で逸らす。

 槍を繰り出しながらアックネンが手を引いた。良く見ると糸を持っている……っとなると。さっき弾いたナイフが紐に引かれ、俺の太腿を傷つけた。

 アックネンは笑みを浮かべて、槍を繰り出しナイフを投げ糸を引いてナイフを操る。


「おっと、なかなか良い一撃が入らねぇな」


 致命的な一撃は防いでいるが、同時に繰り出してくる末端への攻撃は防ぎきれず、俺の各所が傷だらけで流れる血に染まった。それを見てアックネンは良い気になっているようだ。

 俺は構わず間合いを詰め、とうとう、アックネンの目の前に立つ。


「てめぇ……ジーアンの事でも恨んでいるのか?」

「いや。やり方は何であれ、対戦の中でやったんだ。そこに文句は無い」

「なら、なんだよ。その文句を言いたげな顔は?」

「只の個人的な感傷だよ!」


 抜き打ちの如く、剣を切り上げる。しかし小盾で止められた。そして、いつの間にかに持ち替えた二刀のロングソードが俺の脇腹と肩口に叩きこまれる。


「ま、なんでも良いけど……死んどけや!」


 アックネンは俺の剣を弾き飛ばし、勝利を確信して剣を振り上げる!


「死ぬかよ!」


 俺の全力、遠慮なしの拳がアックネンの顔面ど真ん中に突き刺さり、アックネンは鼻血を流しながら錐もみで吹き飛んだ。吹き飛んだ後は気絶したようで、体をぴくつかせながら倒れ伏す。


「……あくまで個人的な気持ちだからよ。この一発でお仕舞にしてやるよ」


「ア、アックネンが倒れました! 気絶しているようですね……ガイリトスの勝利と判定します!」


 一方的な状況から、一撃逆転の展開に観客と司会はついてこれなかったようだが、ようやく状況を飲み込み、この逆転に歓声を送った。

 この声援が聞こえているか、ジーアン。この声が遅らせばながら、俺からの手向けだ。

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