15.対ジャグ、アックネン、ジーアン1
「悪かったって、謝ったじゃろ。いい加減に機嫌を直せ」
先日のフイガンとの対戦で顔がボコボコになったのだが、それを見たヒガンが爆笑し俺は不機嫌になっていたのだ。
「治してくれているのにはいつも感謝しているが、俺も好きで負傷してる訳じゃないんだぞ……たく、もういいよ」
「ほれほれ。詫びに私を愛でて良いぞ」
ヒガンは俺の腕にくっ付いたが、スタイルが良いわけではないので子供が甘えているようにしか感じない。
その時、ふと腕に違和感を感じた。
ただ、これは知っている違和感だ。フイガンと戦う前にあった違和感。
対戦で受けた負傷はヒーラーであるリンの治療を受けた後の数日後に、ヒガンから治療魔法を受けて完治させている。なので違和感も無くなると思っていたのだが……治療魔法と思っていたが、実際は違うのかもしれないな。ま、重傷が治るなら何でも良いか。
リンから「治るのが異常に早いですね」と言われつつ、治療が終わったと診断された後、個室で寝ようかと思っていた所でジーアンに呼び止められた。
「ガイリトスや、巻き込んでスマン」
「ん? 何かあったのか?」
話を聞くと、勉強会の件らしい。
運営側に着いた奴に止められ、ジーアンの執り成しで解散したわけだが、あの後、色々と絡まれたらしい。最終的には複数人の乱戦を受けることになってしまったとのこと。
「あいつは儂のランクを狙っていたようでな。かといって、通常の対戦では勝ち目が薄いと見たようで、ひねり出したのが、目障りになってきたお主を巻き込んでの乱戦を仕掛けたという訳じゃな」
「ランクナンバーで乱戦なんて特殊な対戦を、良く話が通ったもんだな。あいつが運営側ってのは判ってるが、要望を通せるもんなのか?」
「あ奴も、運営側について長いからの。間の悪いことに、ナンバー5のファフが買われることが決定したから、自分のランクも安心出来なくなって、必死なんじゃろて」
俺が今、ランクナンバー6だから繰り上がって5になる訳か。ジーアンがナンバー2で、あいつがナンバー3としたら……
「まだナンバー4が居るだろ?」
「ナンバー4はあ奴の手下じゃ」
「あ、なるほどな」
ナンバー2~5の乱戦だが、実際は2と5、3と4のタッグ戦になる訳か。これを良い方向に捉えよう。これに最後まで勝ち残れば一気にナンバー2だ。
「大体分かった。俺は良いぜ。ジーアンは気にするな」
「助かる」
「で、その乱戦は何時だ?」
「明後日になるじゃろ。正式には運営から通達が来るじゃろうから、それを待ってくれ」
乱戦の日までに、相手の事を聞いておいた。運営側についている奴の名はアックネン。魔撃は使わないが、ロングソードの二刀流、投げナイフ、弓と小盾、槍まで持つ武器庫みたいな奴だな。ただ、状況に応じた武器の選択と、その持ち替えの匠さはナンバー3の地位に見合うものらしい。
ナンバー4の名はジャグ。アックネンのおこぼれで着いた地位で小物らしいが、風塵と風刃の魔撃使いで、放置すると厄介な相手らしい。実はジーアンと魔撃の相性が悪いらしく、一対一であればなんとか勝てるが、アックネンの相手をしながらでは、対処できないと踏んでいるとのこと。
協力する関係上、ジーアンがどのように戦うかも教えて貰えた。何でも高速で決闘場を飛び回って遠距離から純魔撃を放つから、衝突と射線に気を付けて欲しいと……高速で飛び回るってのは、なんなんだ。
ここまで教えて貰ったので、俺の戦い方についても教えざるを得ないな。ま、あくまでこれまでの戦い方だけどな。全てを教えないのを悪く思うなよ。
そして当日。怪我は残ってないし、体調も上々だ。
控室には俺とジーアン。そしてヒガンが出ている。
「なんとなく……口調が被っておるの」
ヒガンはジーアンを眺めている。心配するな。姿と性格は全然違うからな。
ジーアンが居るので、ヒガンとの会話は控えておく。
作戦は無いが、ジーアンがアックネンを抑え、その間に俺がジャグを可能な限り早く落とす。という算段だ。
その後は流れ次第。最後はジーアンとの戦いになるが、どうなるかね。
「さって、そろそろ行こうか、ジーアン」
「ああ。偶には悪ガキ共にお仕置きをしておかないとな」
ジーアンからは見えない位置で、ヒガンに「行ってくる」のハイタッチを交して、決闘場に向かう。
薄暗い控室から日中眩しい決闘場に入ると、前に見えるは槍だった。
「は?」
反応出来たのは成長の結果だろうか。眼前に迫った槍を、咄嗟に小手で弾き飛ばす事が出来た。弾き飛ばした槍は、後方で地面に刺さる。一体、なんだったんだあの槍は?
「いや、わりーわりー。槍投げでそっちの壁まで投げられるか、この広い決闘場で試したくなってよ。……始める前に死ななくて、良かったぜ」
アックネンが、凄く悪い笑みを浮かべながら近づいてきた。
「失敗して良かったな」
「あ?」
「不意打ちで負傷した相手に負けたら、良い恥さらしになるじゃねぇか」
は、良い顔で睨み返してくるじゃねえか。こういう相手は久しぶりだな。
アックネンは俺を睨みつつ、槍を回収して戻っていく。戻った先にローブ姿が居た。あいつがジャグという奴だな。
「ガイリトス、手負いはないか? 剣闘士らしかぬ手を使いよって」
「ああ、問題無い。ああいうことをするってことは、俺の事を邪魔に思ってくれているんだろうさ」
「打合せ通り、あ奴は儂が引き受ける。二人を引き離すから、ジャグを頼む」
「ああ、分かった。ジーアンも気を付けろよ」
一応、この対戦は乱戦という事になっているが、立ち位置から殆どタッグ戦だな。恐らく観客もそう見てるだろう。
「さて、今回は高レベルな乱戦です。熟練の高機動魔撃士ジーアン! 多彩な武具を繰り広げる武具の申し子アックネン! 風を自在に操るジャグ! そして挑戦者で連勝を重ねる不死身のガイリトス! 豪華な面子で戦いの宴が繰り広げられます。 存分にご観覧ください!」
いつにも増して熱のこもったアナウンスから、戦闘開始の銅鑼が鳴り響く。
早速ジーアンは、アックネンとジャグの間に純魔撃をこれでもかと放つ。二人はこちらの思惑通り、左右に避けた。
「では、ジャグの方を頼む。なるべく早く片付けてくれると、儂が楽なんじゃがな」
「ああ、任せろ」
そう言うとジーアンの体が浮き上がり、アックネンに文字通り飛んで行った。飛行しながら純魔撃をアックネンに放ち、さらに二人が離れるよう、巧みに誘導する。
「外の世界にはあんな奴が居るんだろうな……おっし、俺の役目を果たしますかね」
ジャグは慌ててジーアンを必死に追っている。不意打ちがどうだとか、先程言った気がするが、今は既に乱戦中だ。
背後からジャグに忍び寄る。声なんか出して注意を引いたりなんかしたら勿体ないしな。
「!? お前か!」
「お、流石に気が付いたか。けど、ちょっと遅い!」
既に剣の間合いだ。鎧を着て無いので速さを優先して胸から肩を狙って切り上げる。
ジャグの胸に切っ先が入った所で、空気が爆発した。
「風塵か!?」
切っ先が入った程度でジャグには大したダメージになっていない。俺は、空気の圧力で俺は後ろに飛ばされ……ない!背中に盾を展開して、空気の激流に耐える。
再度、ジャグを斬ろうとしたが、視界の端に何かが見えたので其方を落とす。同時に盾を解除して間合いを確保した。
「アックネンのフォローか」
飛んできたのは矢だった。アックネンはジーアンを追いながら、ジャグの危険を察知し、此方に矢を放ったのだろう。器用な奴だ。
「ジャグ、何やってる! 俺の手を煩わせるな!」
「す、すみません!」
ジャグの周りに砂埃が舞い、姿がぼやける。こっちが風塵の魔撃の本来の使い方なのだろう。あの砂嵐を抜けてジャグに近接するのは危険が伴いそうだ。
ジャグはアックネンの取り巻きで、ちっと頼りなさそうだが全くの無能ではなさそうだな。すまんなジーアン。少し手間取るかもしれん。