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仮定の剣闘士  作者: 田園風景
中位ランク
14/40

14.対フイガン

 あの後、別の所で続けることもできたが、中位ランクの生活エリアも広いわけではないので、再び奴とかち合う可能性は高い。なので、今日の所は素直に解散することとなった。五人の何もない日が重なる日はそうそう無いので、勉強会を再開する目途は立ちそうにないがな。

 ジーアンが埋め合わせとして、魔撃について個人的にアドバイスしてくれた。


「お前さんの盾は直接受け止めるのに向いていないのは確かじゃが、だからといって、盾として使えない訳じゃない。お前さんの場合、柔軟性と多様に使えるという事を忘れない事じゃ」


 これまででも柔軟に使っていたつもりであるが、まだ捻れる余地があるようだな。また、柔軟である事に拘り過ぎても駄目だろう。

 構想は出来たし、個室や中庭でこっそり練習も出来たが、これが有効かどうかは対戦で分かるだろう。




「勉強会で絡んできた奴は、結局何だったのじゃ?」


 個室でアレコレと盾をどうしようかと考えている時に、ヒガンがふと聞いてきた。


「前に俺が運営の側につかないか、誘われた事があっただろ?」

「そういえば、下位ランクの時にそんなこともあったの」

「恐らくだが、それが今回の奴って訳だ」


 主な役目は、奴隷剣闘士の監視と反乱防止ってとこだろう。同じ奴隷剣闘士がその役目を負うことで、内側に目が行き届き易いし、同じ身分でも完全に安心できないという不和も狙うことが出来る。見返りは、食事や生活環境等の優遇、運営への要望、後は粗暴な態度のお目こぼしかな。


「俺は皆を見張るって柄じゃない」

「そうじゃの。お主はそのままで育つのじゃぞ」


 なんか頭を撫でられている訳だが。馬鹿にされている気がする。




 腕の治療の為、少しの間ゆっくりとした時間を取ることが出来た。その時間を使って、イアガン達と鍛錬を行い、盾をどう使うか考える。

 しかし、腕をくっ付けて完治するのに一週間足らずで終わるというのは、凄いことのような気がするな。完治したとは言っても、まだ違和感が残っている。この感じが無くなるのはもう少し時間がかかるだろうな。

 そして、完治したとヒーラーに判断された次の日には早速対戦が組まれていた。相手は順番的に考えて、寡黙な魔撃使いフイガンだろう。




 控室で、レザーアーマーと小手を身に着ける。数日程度なのに、身に着けるのが久々な気がするな。


「腕に痛みとかは残って無いかの?」


 ヒガンが、治った俺の腕をぺしぺしと叩いてくる。そういえば、重傷をヒガンに治して貰わなかったのはこれが初だな。毎回急速に治るというのも、それはそれで体に悪い気がするし、偶には良いか。


「ああ。痛みは無くなったよ。ちょっと鈍ってしまったかもと思う程度に大丈夫だ」

「なら良かった。頑張ってくるのじゃぞ」

「おうよ」


 ヒガンとハイタッチを交して、昼下がりの熱気が残る決闘場へと出た。




「入場してきたのは数日振りのガイリトス! 不死身は暫し休業だったようで、復帰となるこの戦いに影響は無いのでしょうか!?」


 アナウンスが紹介してくれたので、健在ぶりをアピールしておこう。手を振って、観客に不敵な笑顔を振りまく。まぁ、これぐらいのサービスはしておかないと、不死身として高まった知名度が落ちてしまっては、勿体ないからな。


「対するは、一人要塞フイガン! その安定した戦いに不安の影はありません! ガイリトス連勝を止める壁となるか!?」


 あれ……フイガンだよな? 俺の前には鉄の塊が立っていた。一部の露出も見えないフルプレートアーマーに、自身を覆うほどの大楯。盾の底辺に棘が見えるが、あれは転倒を防ぐための杭なのだろう。見た目は、まさに小さな鉄砦だ。


「よう。フイガンだよな?」

「ああ、ガイリトス。俺だ。先日ぶりだな。よろしく、頼む」

「勉強会が途中で中止になったのは残念だが、またやれば良いさ。今日は勝たせて貰うがな」


 とりあえずブロードソードを構えるが、困ったな。刃が通る所、有るか? 首か脇の隙間にねじ込むしかないか? 俺が迷っている間に、開始が告げられた。


「それでは、対戦開始です!」


 俺が攻めあぐねている間に、フイガンは大楯の棘を地に突き刺し、空いた手を大楯の脇から俺に向ける。


「死んでくれるなよ」


 破壊を引き起こす線が空に描かれる。

 早い! と思った瞬間に、線は俺の胸前にまで届いていた。

 身を捻り何とか躱す。追撃が無い所を見ると、挨拶代わりのようだな。

 あの線が純魔撃というやつだろう。癖が無く速い良い魔撃だ。


「さて、次だ……」


 フイガンから、次々に純魔撃が放たれる。


「こりゃヤバいな!」


 攻撃密度が高く、とても近寄れない。側面に回って回避するが、フイガンは棘を中心に体を回して常に俺を真正面に捕らえ、純魔撃を際限無く放ってくる。

 このままでは撃たれる一方だ。フイガンの周りを回りながら徐々に距離を詰める。

 距離が詰まった分だけ、純魔撃が避け辛くなった。

 どうしても回避が無理な一撃を小手で弾いたが、受けた感じ、一撃で死ぬような威力は無い様だ。防具で受ければ連続は危険としても、2,3発は耐えられる。


「いっくぞ!」


 ある程度近づけた所で方向を変えて、一気に距離を詰める。

 純魔撃が腹に、足に、腕にと刺さるが上手くレザーアーマーに当てて致命を避けながら、剣を振りかぶった。

 まずは手を貰う! 指先までアーマーに覆われているが、斬れないとしても衝撃は伝わるだろ。だから、力いっぱい叩きつける!


「って、マジかよ!」


 剣が手に届く前で止まる。盾だ。それも俺の盾とは比較にならない強度があるな。


「言ったろ。強度には少し自信があると」


 フイガンの表情は分からないが、なんとなく勝ち誇られた気がするな。

 近距離で放たれた純魔撃を肩に受ける。肩に痛みは走ったが、まだ骨も肉もやられてはいない。丁度良いので、受けた衝撃を利用して距離を開けた。

 フルプレートアーマーが全ての攻撃を弾き、大楯が向けられた先の攻撃を阻み、死角や隙を強固な盾の魔撃でカバーする。

 機動力は皆無ではあるが、その完璧と言えるほどの防御力の突破は困難だ。隠し持っている破砕の魔撃を使えば、その防御を突破できると思うが……


「それじゃ、心のどこかで負けてしまっているからな。今回も、最後までこのブロードソードで乗り越えて見せるさ」


 フイガンと真正面から対峙する。盾の魔撃を更に使いこなせるか、ここでやる!


「止めだ……早めに倒れろよ」


 放たれる純魔撃が、俺の頬を掠めて過ぎ去る。


「? ズレたか?」


 再び連射して放たれる純魔撃。だが全て脇を通り過ぎるに終わった。

 ゆっくりと、一歩一歩視界を揺らさない様にしながら距離を詰める。その間にも純魔撃は何度も放たれるが、全て逸れるに終わった。


 俺の前に、スロープ状の盾を純魔撃に沿うよう展開し、少しずつ方向をずらすことで、攻撃を捌く。この盾の使い方は以前にもやっていたので、新しい使い方という訳ではない。盾の展開に意識を集中することで、どんな強い攻撃でも、数で攻めてこようとも、全て逸らすイメージを描いたのだ。

 欠点は、極度に集中するので歩くこと以外出来ない。視界が揺れる程度で、逸らすことに失敗する点だ。今回はフイガンが移動しないので問題無い。


「……素晴らしい盾だ。硬度は足りないが、それを補う柔軟性がある」


 褒めてくれるので答えたいところだが、まだ慣れていないので喋るとその間に撃たれる恐れがある。


「なら、私もそれを破ることで応えよう。受け取れ!」


 純魔撃の線がフイガンの手先からではなく、周囲から発現し集まる。線は螺旋を描き、さながらドリルのように放たれた!

 対する俺のイメージは、描かれる螺旋に沿ったレールだ。

 螺旋がレールに乗り、レールに沿って逸れ……ない! まだ俺のイメージが甘かったか、フイガンの螺旋が想定以上に強固だったか。イメージの展開を諦めて螺旋を避けるが、避け切れなかった手の一部がもみくちゃに破壊された。手甲は紙切れのように破壊される。

 手痛いダメージを負ったが、折角詰めた距離を無駄にしたくない。痛みを堪えながら、一気に駆け出す。

 フイガンはあの螺旋を連続しては出せ無い様で、通常の純魔撃で迎え撃ってくるが、ここまで詰まれば!


「いっくぞぉぉ!」


 俺の狙いは大楯の棘。それを強烈に打ち据えることで棘を……折れるよな? その後転倒を狙うつもりだったが……


「ぶべ!?」


 板状の何かが当たり、勢いが止まってしまった。


「この盾で相手の動きを止めるのはお前のやり方だったな。使わせて貰った」

「後で使用料、貰うからな!」

「ああ。俺の夕飯でも少し分けてやるさ」


 そう言うと、フイガンは俺の顔に手を向け、複数の純魔撃を放った。

 俺の顔面で炸裂した純魔撃を受け、意識が飛びそうになるが、ここで食いしばる!


「ぉぉおお!」


 純魔撃をまともに受けながら、なおも詰めてくる俺に、止めの螺旋を放とうとするが、


「そこが隙だ!」


 螺旋の純魔撃は非常に強力だが、放たれるまで少し時間が掛かる。純魔撃が螺旋を描く脇を通り抜けたが、大楯が行く手を阻む。

 大楯の前に盾で階段を作り、一気に駆け上がって大楯を乗り越えた。下に見えるはフイガンの兜。純魔撃を撃とうしていたせいで、盾の展開は間に合わないようだ。


「歯ぁ食いしばれ!」


 兜目掛けて、落下の勢いと渾身の力を込めて剣を振り下ろす。

 まるで鐘が突かれたような甲高い音が鳴り響いた。

 フイガンは……まだ倒れない! ふら付いてはいるが、足腰はまだしっかりしている。とはいえ、密着してしまえばこちらのモノだ。

 背後から組み付き、兜と鎧の間に腕をねじ込み、首を絞める。


「ぐっ!……」


 暫くフイガンは耐え、必死に俺を振り落とそうとするが、そうは行かない。半ば潰れた手もひっかけてへばり付いて、絞め続ける。

 俺の血がフイガンのフルアーマーに赤い斑を作った頃に、ようやくフイガンが気絶したようだ。


 俺はふら付きながらも離れて立ち上がり、手を挙げる。


「接戦の末、勝利をもぎ取ったのは、不死身のガイリトスだ! この剣闘士は、負けそうで負けない! どこまで連勝を重ねるか見ものですね」


 俺の勝利を告げるアナウンスを聞いて、俺は安心してぶっ倒れた。

 控室に担ぎ込まれて、リンの治療を受けるのだが、顔に受けた純魔撃で腫れあがっており、それを見たヒガンの爆笑が響く。 

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