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仮定の剣闘士  作者: 田園風景
中位ランク
13/40

13

「魔撃について色々と教えて欲しい」


 そう言ってサーミに教えを請いたのだが「折角だから」と言うことで、中位ランクで魔撃を使う全員に声を掛けて、対戦で魔撃をどう使うかの勉強会という話になってしまった。

 下位ランクでは戦い方や使える魔撃を隠すものだが、中位ランクでは戦い方は大抵知られているので隠す必要は薄い。なので、全員ではないが、上位のランクナンバーも参加している。単に暇という理由もあるようだが。


 勉強会に参加するにあたって、

・知られたくないことを黙っていたり、誤解を訂正する必要は無いが、嘘は言わない。

・勉強会の参加者以外に、知ったことを無暗に話さない。

 という念押しをしている。守られるかどうかは分からないし、守られなくても大した問題にはならないがな。




 勉強会の場所は食堂。対戦が無い夕食後の時間に間借りさせて貰った。参加者にソイネスが居ると思っていたのだが居なかった。サーミに聞いてみると、そもそも居なかったようで、参加していたランクナンバーの話だと勝ち続けて、なんと上位ランクに上がって行ったらしい。


「対戦したが、ああ言うのを天才というのだろうな」


 俺も勝ち続けているが、注目されているのはソイネスらしい。買い手が出てこないのが不思議なぐらいだ。

 それと、久しぶりな奴がいた。メイネレスだ。


「よう、メイネレス! お前も中位ランクに上がってきたんだな」

「ちょっとぶりだな、ガイリトス。順調に勝っているようだが、怪我も絶え間ないようだな」


 切断された俺の腕は既に繋がっているが、完全な結合まで時間をかける必要がある。なので、俺の腕は包帯でキツク固定されているのだ。まだ動く度に痛みが走るが、斬られた腕が平然と繋がるのは、このコロシアムのヒーラーが優秀と言うことだろう。


「強い奴が多いからな。補強が必要と思ったんで、こうやって教えて貰おうと思ったのさ」

「そうか。まぁ、生きていて何よりだ。その内追いついて今度は勝つから、覚悟しておけよ」

「わかった。期待してるぜ」


 下位ランクで見知った奴と再会できるってのも、嬉しいものだな。サーミを中心に囲い、思い思いの体勢で寛ぐ。何か飲む物なり食べ物なりあると良いのだが、そこまで俺たちの待遇は良くない。あるのは水のみだな。


「ランクナンバーも居るけど、ここは俺が司会させて貰うぜ兄弟。異論があるなら言ってくれ。ジーさんも良いな」

「ジーアンだ。老人と呼ばれるには、まだ早いわ! お前さんが司会で良いぞ。」


 ジーアンと名乗った初老の人物とは対戦したことが無いので、恐らく上位のランクナンバーなのだろう。初老とは言っても、それは顔の皺からのイメージであって、揺らぎもしない背筋は戦い続けた剣闘士だ。他にもう一人、対戦したことない奴が居る。サーミも含めて、合計5人で勉強会だ。


「この勉強会の発案者である、そこのガイリトスに合わせて、基礎的な所から説明しよう。魔撃とは何か? 所説は様々あるが、一番有力とされているのが『深層心理の具現化』て説明されている。場合によっては、単に素質って説もあるな」


 俺以外の皆が頷いている。こうなると焦ってくるが、この際だ。無知をひけらかして聞くとしよう。


「早速ですまんが、その『深層心理』って所を教えてくれるか?」

「ん? ああ、深層心理ってのは『それぞれ考えている心の奥底にある、行動原理となる無意識の考え』を指している。ただ、言葉で表されることは無く、炎や風などイメージとして表されるんだ。イメージは似たり寄ったりな所もあるが、各人それぞれ違うので、それが使える魔撃の差として現れるわけだな」

「ん? となると、俺のように魔撃を受けたことで使えるようになった場合はどうなんだ?」


 サーミは難しい顔をして「ん~?」と悩みだした。そこにジーアンが助け船を出す。


「正直な所、有力な説すら出ていないのが現状じゃな。魔撃を受けることで深層心理に影響を受けるというのが、理解しやすいのだが、そんな簡単に影響されるはずもないという反論も、理解できる。素質の伝播又は変質というのもあるかもしれん」


 俺の場合はヒガンから貰ったモノだが、例外っぽいので言わないでおこう。


「その答えが出ていないって訳だな。少し本筋からズレたか。すまないサーミ、本筋を進めてくれ」

「ああ、分かった。えっと、魔撃は深層心理の具現化であるが、その具現化のために呪文を唱えたりだとか、特定の動作が必要だったりはしない。ただ、魔撃の発動毎に、具現化として心に思い描く必要があるので、長い時間、連続して放つというのが難しいな」


 短い間なら動きながらでも出来るが、長時間ってのは確かに難しいな。その内、イメージが無茶苦茶になって、失敗するのが落ちだ。


「次に分類だ。大きく分けて二つ。一つが火や純魔撃、盾等外に表される魔撃だな。もう一つは治療や飛行、身体強化等、身体の中に直接影響させるものだ。理屈は同じ魔撃なんだが、便宜上、こちらは魔法と呼ばれている。」

「魔撃にはどんな種類があるんだ?」

「使い手が多いのは火、ついで純魔撃だな。他には風や雷、衝撃や爆発、光ってのもある。兄弟の使う盾の使い手はそこそこ居るな」


 今まで俺以外に使う奴を見たこと無いが、全体的にはそう珍しいものでもないのか。


「どの魔撃も一長一短があるから、そこを理解し工夫することで強くなっていけると思うよ。あ、氷と水は別だな」

「なんで氷と水だけは別なんだ?」

「魔撃の特性の問題だ。しっかりとした重さがあるものは具現化出来ない。氷や水なんかは重さがあるだろ? だからそれらは出来ない。仮に水を用意して、それを凍らせるとしたら、どれだけの冷たさが必要なんだって話になるだろう。もし凍らせたとして、その氷を投げるぐらいなら、弓や石を投げる方が早いに決まっているさ」

「もし、一瞬で凍らせることが出来るなら、それを接触させるだけで強いんじゃないか?」

「それが出来るぐらい強いならな。他の種類も含めてそれぐらい強力な魔撃を使う奴は聞いたことが無い……そういえば、このコロシアムに非常識な程強い魔撃の使い手が一人居たって聞いたことがあるんだが。ジーさんなら、知ってるんじゃないか?」


 それまで水をちびちびと飲みながら聞いていたジーアンが、ふむと頷いた。


「儂は対戦したことは無いし、そんな強力な魔撃が使われた対戦があったという話も聞いたことが無いな。相当な昔の話か、早々に買われたのではないか?」


 確かに、強力な魔撃の使い手であれば、買い手は多いだろう。俺も、買われるために破砕も含めて魔撃を派手に使うべきだったのかもしれないな。


「とにかく、氷や水関係の魔撃は弱いという認識だ。使い手もかなり少ないんで、研究も進まないっぽいしな。基礎的な話として、後は……成長性の話もしとくか」

「魔撃の成長か。何かコツでもあるのか?」

「いや、魔撃は成長しないんだ」

「は?」

「理由はまだ判っていないが、魔撃は発現出来た瞬間が一番強力で、時が経つごとに弱まる傾向にあるんだ。その弱体化の程度は個人毎に異なるだけどさ。その代わり、発現の柔軟性は上がってくるな。俺みたいに火炎を複数に分けて発現したりとか、兄弟にように盾の形を細かく形を変えたりとかな」


 この辺りに、盾の新しい使い方を見いだせるかもしれないな。盾の強度を探るよりも、より柔軟な発想を持つ必要があるだろう。


「魔法については俺も詳しく知らないし、使うのは……まぁ、少ないから今回は省略させて貰うけど、良いよな?」

「ああ、構わない。必要があったらヒーラーに聞いてみるさ」

「なら、基礎的な話はこんな所だ。次に応用の話だな。一つずつ考えていくとして、兄弟の盾からで良いか?」

「ああ。俺の盾は正直な所、強度は頼りないが、形と角度は結構自由に変えられるし、数も結構いける」


 発現できる距離はその時の調子に影響されるが、3m前後と言った所。ま、これは言わない様にしておこう。話したくないことは言わなくて良いって条件だったしな。


「俺以外に盾を使える奴は居ないのか? できれば俺と比べてどうなのか、聞きたい所なんだが」

「……俺が使える」


 今まで一言も喋らなかった奴が手を挙げる。背は高くないが、かなりの筋肉を付けているのが特徴的だ。


「その人はフイガン。多分、兄弟の次の対戦相手になると思うよ」


 サーミが紹介してくれる。


「そうか。宜しく頼む」

「ああ宜しく。それで、俺の盾だが、お前のように細かく変えるのは苦手だ。だが、強度には少し自信がある」


 成程。俺とは性能が反対なんだな。強度があるのは羨ましいな。俺の盾は弓矢でも工夫しないと防げないからなぁ。


「じゃぁ、この盾をどういった応用が考えられるか、意見無いか?」

「例えば、盾を重ねたり連結は出来ないか? 強度が増したり、防ぐ範囲が広がったりしそうじゃないか?」


 メイネレスが早速意見を述べてくれる。


「重ねた事は無いが、出来そうではなるな。ただ、それで強度が上がるかは分からない。ちょっと試して……」


 どういう風に重ねるか考えたとき、粗野な大声を出す奴が食堂に入ってきた。


「おぅおぅ! そんな所で顔を付け合わせて、何をべっちゃくってやがる!」


 初めて見る奴だ。中位ランクに上がりたての奴か、ランクナンバーなのだろう。髪はぼさぼさで、如何にも山賊っぽい雰囲気を持っている。俺たちが対戦中以外は持てないはずの武器……木刀だが、持って威嚇するかのように肩に乗せていた。


「俺たちは、魔撃の使い方を話し合っていただけだ」

「ほ~う。本当かねぇ」


 値踏みするように、俺たちを睨んでくる。

 ああ、そうか。こいつは……運営側についた剣闘士か。


「くっだらねぇお喋りなんてしてるんじゃねぇ! 散れや!」

「兄弟落ち着いて。仲良くしようぜ」


 サーミが前に立ち諫めようとするが、木刀が振るわれ打ち据えられる。流石にサーミはイラついたようだが、逃げはしない。


「わかったわかった。じゃ、俺らは場所を変えるとするよ」

「俺は散れって言ったんだ。散れや!」


 再び打ち据えようとしたが、ここに居るのはいずれも歴戦の剣闘士だ。俺が木刀を受け止め、メイネレスとフイガンがサーミを庇っていた。


「アックネン。お前さんがそうすることの意図は知っているよ。ここは解散するから、お前さんもここまでにしておけ」

「ジーアン……その内、お前のナンバー奪ってやるから、覚悟しておけや!」

「サーミ、それとお前たちも。儂に免じて今日の勉強会をここまでにしてくれるか。埋め合わせは後日する」


 奴の目的が何であれ、確かにこれ以上の騒ぎになると問題だ。互いに睨み合っていたが、此方からゆっくり食堂を出ていく。

 俺はふんっと、受け止めていた木刀を押し返してから皆と一緒に去っていった。折角の機会を無駄にしてくれたお礼は対戦で返すから覚えていろよ! 

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