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仮定の剣闘士  作者: 田園風景
中位ランク
10/40

10.対ナイガアス

 ランクナンバーになったことで、俺に優遇が図られた。

 まず初めに、武器防具である。下位ランクで対戦したイエローシャットの鉄弓や、前に対戦したゴズのナックルと鎧等のようなものだ。特殊過ぎたり高級なものでない限りは用意される。


 俺が願い出たのはブロードソードと手甲、そしてレザーアーマーである。

 ブロードソードはこれまで使っていたものと同じ武器だ。成長の必要性を感じたばかりだが、長年使い続けた武器を変えるというのは不安がある。なので、そのままとさせて貰ったのだ。ただ、今までの頑丈なだけの量産品ではなく、それなりの品質のものを用意してくれるようだ。

 手甲は、鉄と布を組み合わせた柔軟且つ堅牢なもので、手の甲から肘近くまでを保護している。厚手の下地は、ある程度の衝撃吸収も期待出来そうだ。手持ちの盾は使う予定が無いので、緊急時は手甲で捌くことになるだろう。

 レザーアーマーは、防御力より動き易さを優先した選択だ。俺の攻めは柔軟な動きによるものがメイン。防御力は勿論欲しい所だが、だからと言って、飛んだり跳ねたりが出来なくなるのは意味がない。レザーとは言っても、今までの裸腰巻より遥かにマシだし、軽い斬撃や衝撃ぐらいは防いでくれそうだ。結構、侮れない。

 用意してくれた武器防具を装備して、練習してみたい所ではあるが、そこはやはり奴隷の身である。一回の試着と具合確認の機会以外は、対戦の直前まで触ることが出来ない。ただ、普段着用として簡素な白いシャツとズボンを支給してくれた。

 生まれてこの方、殆ど時間を腰巻だけで過ごしてきたので、シャツが思ったより馴染まない。なんかガサガサして違和感がある。脱いでズボンだけになろうとしたら「ランクナンバーの品位のために」と着用を強要されたのである。不自由なのは下でも上でも変わらないようである。


 もう一つの優遇が、待ちに待った個室である。

 大部屋も賑やかで良いのだが、個人的な事情なんてものは全く隠せないのである。俺はそれが当たり前だったので不都合は感じなかったのだが、外から来た奴らは嫌がることが多かった。そういった奴らの話を聞き続けた結果、俺も個室というのを持ってみたいと思った訳だ。


「そうか、これが個室という奴なのか。随分と狭苦しいものなのだな」


 狭い通路から繋がる個室の入り口は鉄格子だった。これは、見えない所で奴隷が不穏なことをしない様にするためだろう。横は分厚い壁があるが、正面からだと部屋の中が丸見えだ。

 部屋の中にはベッドと机、椅子がある。その3点だけで部屋が占められて開いている床は2,3人が立てる程度しかない。窓は無いが、細長い穴が採光のために設けられている。外の様子は殆ど判らないが、日中か夜かぐらいは判別できるだろう。


「これは普通、牢屋というやつじゃ。いや、一般的な牢屋より狭いかもしれんの」


 呆れた声を掛けながらヒガンが出てきた。


「牢屋というのは聞いたことがあるな。犯罪人が閉じ込められる所なんだろ? えらく汚い所って聞いた気がするが、広さについては聞いたことがなかったな」

「確かに、狭くはあるが汚くは無いの。ベッドのシーツも使い古された感じはあるが、綺麗なものじゃ」

「どれどれ。ちょっと寝心地でも確かめてみるか」


 鉄格子を開けて中に入り、ベッドに寝っ転がってみる。おお、確かにこれは良いな。中庭の草むらで寝てみた事があるが、全然寝心地が違う。ベッドのシーツも柔らかく、俺を包んでくれるようだ。

 目を閉じれば直ぐにでも寝れるのではないだろうか? おお、良い感じ……ぐぇ! 何かが俺の腹に乗っかってきた。目を開けると、ヒガンが俺の腹に乗っている。


「こら、ガイリトス。こういう時は、レディーファーストということで、先に私を寝かせるべきじゃろ」

「レディーファースト? 初めて聞いた言葉だが、外の言葉なのか?……ここ、俺の部屋だし」

「では、私も寝かせてみるのじゃ!」


 ベッドは小さいわけではないが、大きいわけではない。俺の体は特別大きいわけではないが、筋肉はちゃんと付いているので、横幅はそれなりにあるのだ。よって、ベッドの空いている所は狭い。そこにヒガンは無理やり入り込んできた。


「せ、狭い。ほれ、もっと詰めるのじゃ」

「だー、くっ付くな!」


 別に女が苦手という訳でも恥ずかしいと言うつもりは無い。が、仮にも(恐らく)美少女の分類に入るヒガンがベッドの上で密着するというのは、何かマズい気がする。いや、ヒガンは俺以外には誰にも見えないし触れないのだから、不都合があるという訳でもないが……とにかく、マズい気がする!


「ほら、お前も女なら、むやみにくっ付くんじゃない!」

「ほぉ。私とくっ付いて、照れる気持ちは理解できるがの。ほれほれ」


 まぁ、俺もまんざらではない気になっていたようだ。突っついてくるヒガンをなんとか捕まえて、ベッドから降ろそうと、じたばたしていたのだが、部屋に誰かが近づいてきたのに、全く気が付いていなかった。


「……何をはしゃいでいるのですか」

「あ、いや、これはだな」


 係の者が来ていたようだ。格子の向こうから俺を覗いている。ヒガンは見えないだろうから、俺が一人ではしゃいでいた様子に見えたのだろう……恥ず!


「ゴズとの対戦であれだけの重傷を負ったにも関わらず、この元気……傷が治る代償か……いや、今はいい。通達する。明日、対戦だ」

「お、おう。判った……」


 何か、哀れんだ視線が気になるが、これ以上指摘しないのは、アイツなりの優しさだろうか。勘違いされた原因のヒガンは笑いを堪えながら眺めてやがるし。変なあだ名を付けられないよう、気を付けなければ。



 翌日の昼。対戦の為に控室に入った。そこには希望通りの武器防具が揃えられていた。これから、これが俺の戦闘での相棒となるわけだ。

 レザーアーマーは、体に柔らかく密着し、俺に安心感を与えてくれる。手甲も同じように手と腕を包む。試しに叩いてみるが、信用できる強度があると感じられた。そしてブロードソード。傷一つ無い刀身に、彫り込まれた僅かな装飾模様は、美しさすら感じる。

 軽く剣を振ってみると、これまでと比べて軽い気がする。逆に体は手甲にレザーアーマーを着込んだせいだろう。違和感がある。慣らしは出来ないので、戦いながら調整していくしかないな。


「それなりに、様になっておるではないか」


 ヒガンが俺の周りをぐるぐると回りながら、俺を眺める。


「俺も結構気に入っている。どう扱うかは、これからだな」

「これからが本番じゃ。中位ランクぐらい、駆け抜けて上がるのじゃぞ」


 挙げたヒガンの小さな拳に、こつんと俺の拳を合わせる。


「ああ。今日も勝ってくるさ!」


 昼の日差しが降り注ぐ決闘場へと赴く。ゴズで判った通り、相手の実力は皆、俺と同じか上だ。かといって、負けるつもりでは戦わない。全て勝つつもりだ。精々、俺が高値で売れるための踏み台になって貰うとしよう。



「入場してきたのは、不死身のガイリトス! 数日前に死闘を繰り広げた同じ人間とは思えない、この健在ぶりです!」


 俺は掛けられる声援に、剣を掲げて答える。俺への注目度が高まっているようで、良い傾向だ。


「対するのは、銀の閃光ことナイガアス! 彼の槍は今回も相手を貫くだろうか!」


 ナイガアス。肌の露出が少ない重装甲な鎧を着て、槍を持つか。見た目で考えるなら、下手に回避せず攻撃に専念されると厄介だ。攻めるなら、露出がある関節部分。重装甲でも前後には素早いかもしれないが、切り返しや旋回は緩慢になるだろう。

 攻める道筋を想像する。想定外がある事を頭の片隅に置いておくべきだ……よし。


「それでは、対戦開始です!」


 開始を告げる銅鑼が鳴る。今回は俺から詰め寄った。


「ナイガアス。今日は胸を借りるぞ!」

「……こい」


 ナイガアスの持つ槍の切っ先が揺らめくと、閃光と称されるほどの突きが放たれた。

 ……恐るべき速さだった。回避できたのは警戒を重ねていた賜物か、単なる偶然だろう。とにかく、回避できたのだ。この隙に詰め寄る。が、ナイガアスはあっさりと後ろに下がった。槍を払い、近寄らせないよう注意も払っている。

 マズいな。槍の射程を確保されると、一方的になる。我武者羅に突っ込んでも槍の餌食だろうし、盾での行動制限もアイツの後ろまでには届かない。ナイガアスは槍が届くか届かないかの位置で攻撃を仕掛けてくる。


「ナイガアス! こう一方的だと、胸を借りれないんだが」

「……知らん」


 このままではジリ貧だ。勝負に出る必要があるな。

 剣を下段に構え、真正面から突っ込む。勿論、俺の胸元目掛けて槍が繰り出されるが、その狙いが予測通りだ!

 斜めに発生させた盾により槍が僅かにブレ、更に手甲で押し上げて槍を上に泳がせた。ナイガアスはすかさず後ろに下がるが、逃がしはしない! タックルをかまして縺れ合いながら転倒する。


「貰った!」


 重い鎧なら、転倒から容易には立ち直れないだろう。だが、俺の足に激痛が走った!ナイガアスは槍を短く持ち替えて、俺の足を突き刺したのだ。

 しかし、このチャンスを逃してはいけない。顔をしかめながら、僅かに空いた隙間……脇に剣を刺した。

 鎧が邪魔してこれ以上は差し込めなかった。だが、もう槍は扱えないだろう。不意打ちに注意しながら首筋に剣を当てた。脇の負傷に加え、重い鎧を着た状態での転倒。更にこれで積みだ。


「……降参する」


 よかった。この状態で俺ごと飛び上がって体勢を立て直すとか、非常識な事も考えていたが、そんなことは無かったようだ。


「銀の閃光が敗れた! ガイリトスの勝利です! 足を負傷しているようですが、不死身ならこの場で治るのでしょうか?」


 んな訳ないだろ。俺は至って普通の奴隷剣闘士だ。


「一か八かが上手くいった。もし次もやることがあったら、また胸を借りるぜ、ナイガアス」

「……次は勝つ」


 ナイガアスの負傷も直ぐには問題にならなそうだ。係の者が鎧を外すべく取り掛かっている。俺は勝利を讃えてくれる声援に応えながら退場する。

 今回の戦闘で判ったが、新しい装備でも、これまで通り違和感無く使うことが出来た。この装備で出来ることを色々と考えていくことにしよう。

読んで下さり、ありがとうございます。


何とか継続して書くことが出来ています。


折角の年末なので、1月1日2日も15時投稿する予定です。

もしご時間あれば、暇つぶしがてらお読みください。


それでは、良いお年を。


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