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◇◇◇





 舞踏会の日から三年が経過いたしました。

 私も少し落ち着いてきた(・・・・・・・・・)ことですし、あの日起きたことやその顛末などを少し振り返ろうと思います。




 あの日、謎の光が王国を覆いました。

 光に包まれた国民は意識を失いました。それは城内にいた者達も例外ではなく、皆様が目を覚ましたときには混乱の極みであり、城内は一種のパニック状態だったと言えましょう。

 ただそれも王城でのことであり、さらには王の前であったこともあってか、比較的早く、皆様も冷静さを取り戻されました。


 するとどうでしょう、皆様の中心におられるのは、誰もお知りにならない五人ではないですか。

 彼らは一様に、「私は第一王子だ」とか「私を誰だと思っているのですか」だとか「僕はシャルパンティエだ!」や「父上!」だとか騒ぎ始めました。


 けれど、第一王子は別におられますし、『誰だと思っている?』と言われた方に至っては周りの皆様全てが『はて、どちら様でしょうか?』といったご様子をされてますし、シャルパンティエの系譜を叫ばれた方を見ても、あの様な方は記憶にございません。大きな身体の男性が『父上』と叫ばれましたが、彼の視線の先の騎士団長は首をひねっておられる次第であります。

 彼ら五人によって再び起こされた喧騒の最中、彼らが護るようにして囲んでいた小柄で小動物の様な少女が、周りの声に負けぬ様に叫びました。


「私は、この国の第一王子たるベテルギウス様の将来の妃なのよ。それなのにこんな……みんな不敬よ!」


 周囲から失笑が漏れました。


 ベテルギウス?

 誰なのそれ?

 謎の自称第一王子とその将来の妃?

 どこかの舞台役者達が気でも触れて思い込んだのでは?


 誰かがそれを口にすると、貴族方から一際大きな笑い声が起きました。

 身分を偽っても上手くいくわけがございませんのに、どうして彼らはそのような浅薄なことをなされるのでしょうか?

 それこそ気でも触れていない限り、ありえないことでしょう。

 多くの者がそう思ったに違いありません。

 それと同時に、多くの方の頭の中に、城を覆った光は彼らの仕業なのではという考えが浮かんだ様でした。


 結局のところ、この場所では真偽がどのようなものかわからないということで、騒ぎ続ける五人を騎士団が拘束し、連れて行ってしまいました。



 その日はもう夜も遅く、彼らは地下牢に放り込まれたそうですが、それでもあの光が何であったか、彼らは何者なのか、どこかの間者ではないのかといったことが、国の上層部によって夜通し議論され、長らく紛糾されたのでした。



 さて、ここからが、不思議なことなのですが、翌日になって兵士が牢を見廻りにくると、気絶したように眠りこける牢番と、空っぽになった牢が発見されたのでした。


 彼らの行方は依然として知れず。

 また、謎の光の正体も、彼らとの因果関係も、何もかもが判明しておりません。


 わかったことと言えば、牢の中にいた彼ら五人を救出し、どこかへと運び出した者がいたということです。


 それは彼らの仲間なのか? どういった意図で彼らを救出したのか? 警備の厳しい王宮にどのように忍び込んだのか? だとか、疑問は増す一方でしたが、依然として何も判明しておりません。





 実は、私がとある筋より耳に挟んだ話がございます。


 彼らは救出に来た者に従い、命からがらすぐさま用意された馬車に乗り込みました。馬車の中には、村人の服が用意されており、彼らは「いつか再び元の立場に戻るまで、生き延びないといけないでしょう」と諭され、やむなく服を着替えられたそうです。


 女子一人に、男四人でしたが、皆様、信頼し愛しあう方々なのです。何も問題はないでしょう。


 馬車の旅は王宮を脱出してからも、長い間続きました。

 彼らも『もうそろそろいいんじゃないか?』と何度も話し合ったそうですが、その都度、彼らを逃がす者が『追手が近付いています』『捕まれば王族を騙った罪で皆様は死罪となります』と彼らを説得し、旅は続いたのでした。

 それは、一月(ひとつき)二月(ふたつき)か、時には街を転々とし、時には野宿し、彼らは見えない追手から逃げ続けたのでした。



 そして、その日は来ました。

 馬車が最南端の辺境に辿り着いたとき、彼らを牢から救い、馬車の旅を手伝った者が、五人を馬車から下ろしました。

 彼は「これで貴方達ともお別れですね。長い間お疲れ様でした」と告げ、五人に袋いっぱいに入った銅貨銀貨を渡して、もと来た道を引き返したのでした。



『それから彼らはどうなったのか?』ですか。

 安心なさってください。

 彼らの話は、まだ終わりではありません。


 まだ話の途中なのですが、王宮内がやけに騒がしくなりましたね。

 どうしてしまったのでしょうか。

 部屋を出ると、兵士の方に呼び止められました。

 彼らが言うには、賊が王宮内に侵入したとのことで、危険だから近衛と共に部屋に戻るようにとのことでした。

 彼らに、賊がどのような方か尋ねたところ───


 私は、兵達を説き伏せて、侵入者達の元へと向かうことにしました。






◇◇◇





 既に拘束され牢へと繋がれたのは、賊とされた三名でした。

 彼らはその辺の平民にも劣る、まるでスラム暮らしの方のようなみすぼらしい衣服を身に纏っていました。


 彼らの衣服───くたくたになった布には、汚れなのか何なのか判明できない染みが至るところにこびりついており、また元は白かったであろうはずなのに垢で黒ずんでおりました。


 彼らに近付くと、強烈な刺激臭に眉を顰めてしまいました。

 獣に似た皮脂の臭いと、生ものが発酵したときのような臭いが混じり合い、兵達も含めた皆が、鼻を布で覆いました。


 じり、という私の足音が牢に響きました。

 すると三人の内の一人が、私へと勢いよく顔を向けました。

 すると光を失った瞳を輝かせ、大声を上げました。


「クリス姉様!! 僕です!! シャリクです!! お久しぶりです!! お姉様!! 会いたかったです!! お姉様!! どうか僕を助けてください!! お姉様!! ああ!! 会いたかったです!! 何か食べ物をいただけませんか!! 僕もうお腹が空いて空いて───」


「申し訳ございません。私のことを『お姉様』だと言われましたが、貴方様はいったいどちら様でしょう? 私には弟は一人しかおりません」


 放っておいたらいくらでも話しそうな彼に、私は尋ねたのでした。


「お姉様! その弟が僕じゃありませんか! お姉様の弟であるシャリク・ハインドリー・フォン・シャルパンティエをお忘れですか?!」


「お忘れも何も、私の弟はただ一人、昨年生まれたラウダだけですわ。シャリク様? と仰りましたか? 恐らくは誰かと間違えられてるのではないでしょうか?」


「ラウダ……?」


「私のかわいいかわいい弟ですわ。彼が大きくなればシャルパンティエ家も安泰でしょう」


 つつつと涙を流された彼に、一応の注意を。


「私だから良かったものの、普通なら貴族を騙った罪で死罪になりますので、お気をつけくださいませ」


 私の言葉に、シャリクと名乗る男性が肩を落として崩れ落ちました。溜め息を()いて、彼らに背を向けようとした私に───





 




最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

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