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◇◇◇





 もう少しだけお付き合いくださいませ。





◇◇◇




 私はいつからか、ベテルギウス様達から性悪であると罵られるようになりました。

 彼らから何度となく直接的にそう言われますと、非常に哀しくて胸が痛くなってしまいます。


 けれど、残念ながら私の性格が悪いというのは事実かもしれません。なぜなら私は、ロゼ様を憎く思っているからです。


 ロゼ様はされてもいないことをされたと偽っても、罪悪感を抱かないのでしょうか?

 悲しくもないのに涙を流し、笑顔で人を陥れていて自分自身が酷いことをしていると鑑みないものなのでしょうか?

 多人数で一人を貶めても何も感じないのでしょうか?

 婚約者のいる男性を侍らせて、彼らの仲を引き裂いても罪悪感を覚えないのでしょうか?

 人非人(にんぴにん)なのはそちらではなくて?

 彼女に対する強い言葉ならばいくらでも思いつきます。



 けれど、誰にもわかってもらえないかもしれませんが、それでも構いません。私は理性的であるように努めてまいりました。


 私はいつだって感情よりも理性を優先してきました。

 これまで私は、己の内にある好悪の感情だけで物事を判断したり、行動に移したりといった浅薄なことは、一度たりともしたことがございません。


 もちろん、それはロゼ様に対しても例外ではありません。

 彼女に対する悪感情はいくらでも湧いてきますが、それでも、その感情を言葉にしたり、行動にしたり、表に出したりといったことはこれまでに一度たりともございません。


 この世を見守られているという神様に誓って真実です。


 それに、これはそもそもの話です。

 思考するだけなら、何を思おうと構わないと思いませんか?


 それを表に出さないのであれば、ああ疲れたと、内心で溜め息を()きながら仕事をしてもいいじゃありませんか。


 軋轢を生まないために苦手なスイーツを好きですと偽っても構わないとは思いませんか?


 同様に、どれだけ嫌いな相手でも、それを態度に出さずに応対すれば、内心での好悪なんて関係ないのではないでしょうか?

 ただ、これはあくまでも私の考えです。


 少し愚痴のようになってしまいましたね。

 それでは少し話を変えて、私の家の話をさせて頂くことにします。

 

 私の家であるシャルパンティエは王国の中でも比較的新しく公爵家に叙爵された家でございます。

 他の公爵家の様に、王家の血を汲むこともございませんし、過去に王家と共に国を興したという歴史もございません。


 だからこそ、他の公爵家や有力貴族の方は「成り上がり」だとか「歴史を持たない癖に」だとか「白色公爵家」だとか仰るのでしょう。


 しかし、それが言い掛かりであることも私は知ってます。

 シャルパンティエといえば王国のみならず、世界中で知られるほどの魔術の大家でございます。

 私達シャルパンティエの者が、王家から公爵の位を頂いたのは、それ相応の、いえ、それ以上の功績を残したからに他なりません。


 

 今や魔道具は皆様の生活に欠かすことが出来ないものとなりました。街や家内を照らす灯り、食品の冷蔵に、魔導馬車と、それはそれは数え上げれば枚挙に暇がないほどです。


 民の生活に完全に普及した魔導具でありますが、当然ながら魔力が必要になります。魔力を持たない者も多く、また温冷風機などの長時間運用が前提の物もあるので、およそほとんどの魔導具はエネルギーとして魔石を用いることとなります。


 私達は一度便利さを知ってしまえば、その便利さを手放すことは出来ません。それは仕方ありません。そういう生き物ですから。


 ただそれはそうとしても、物事に問題は付き物でして、魔導具に関しても問題は否応なく発生しました。

 それはおよそ半世紀ほど前のことだったそうです。

 魔導具の普及したことが原因で、エネルギー源としての魔石の枯渇という問題が生じたのでした。

 可能性はずっと議論されていたそうですが、その当時、不安は現実のものになろうとしていたそうです。


 当時の研究者が日夜血眼になり、エネルギー枯渇問題を解消すべく研究に勤しんでおられました。

 私のお祖父様もその内の一人でした。

 そして、解決策を見出したのもお祖父様でした。


 お祖父様の研究はあまりにも画期的なものでした。

 彼は雲よりも遥か上空には自然と魔力溜まりが発生するのではないかと推測されました。そして検証を重ねた結果その推測は正しく、それならばとお祖父様は魔力エレベーターなるとてつもない建造物をお創りになられたのでした。


 魔力エレベーターを用いて大量の空の魔石を上空へと運ぶと、数分もすれば魔力を回復し、ほぼ新品同様にすることが出来ます。


 言うは易く行うは難しではありますが、簡単に説明するとお祖父様の残した功績はこういったものでありました。

 今では、この世界中のいたる所にお祖父様の開発した魔力エレベーターが設置され、常に大量の魔石を充填していられるのです。


 こうしてお祖父様は自国のみならず、世界を救った英雄として公爵籍を叙爵されたのでした。

 もちろん、お祖父様の発明による特許によって我が家は、お金に不自由したことはございませんし、何なら多くの貴族のみならず、王家にも支援をしているのでありました。


 また、そうしたお祖父様の才を受け継いだ私は、勉強と王妃教育を除いた空き時間の全てを魔術の研究に費やしておりました。

 もちろん私も、これまでにいくつかの発見をしており、今現在取り掛かっている研究テーマもつい最近ようやく完成を迎えた次第でございます。


 私の研究のテーマは人の記憶でございます。

 端的に説明いたしますと、魔術で人の記憶に干渉できるか否か、また干渉できた場合、それによって生じた欠落や矛盾などの不具合がどのようになるのかといったことでした。

 結論から言いますと、魔術による記憶の干渉は可能でした。

 それに人間とは誠に不思議な生き物で、魔術によって干渉されたことで生じた記憶の不具合は、個々人の間で自然とそれらしい理由付けがなされ、大きな違和感を抱くことはない───ということも判明しております。


 ただ、これらの研究を発表してしまえば、かなりややこしいことになりますので、シャルパンティエ家の禁呪庫に入れられるのではと考えております。



 はしたなくも、少しお話が横道に逸れてしまいました。

 つまるところ、魔導エレベーターなどの発明だけでなく、今私が言ったように常々魔術の研究に勤しみ、新たなる発見をもたらし続けるシャルパンティエ家でありますので、その力は王家にとっても垂涎物だったのでしょう。

 だからこそ、私とベテルギウス様の婚約には、英雄の家系と王家との結びつきを強固にするという意味があったのです。


 もちろん私達の婚約は政略結婚でありました。

 そこに愛がなくても仕方ありません。

 けれど、私達には、これからも国を良くしていこうという同じ志があるはずでしょう?

 それはか細い絆かもしれませんが、二人で育むことが出来れば、何も問題はない、私はそう信じておりました。



 その思いがあったからこそ、私は何年にも及ぶ厳しい王妃教育にも耐えることが出来ました。

 私は貴方との婚約が決まってからというもの、王妃教育を一日たりとも欠かしたことはありません。長いときであれば、一日の半分を王宮にて過ごすこともございましたが、それでも、それこそが貴族の義務であり、貴方様のためになるのならと、必死にそれらをこなしてまいりました。

 

 ですが、それも全ては水の泡となってしまいました。

 けれど、今考えると仕方のないことだったかもしれません。

 





 私の用いた魔法の光が収まれば、王国全ての人の記憶から貴方達のことは完全に消滅するでしょう。

 そうなれば誰も貴方達のことを覚えていない。

 貴方様達は、王族、貴族、平民に関わらず、全ての王国民の記憶から消えることで、ようやく貴族としての全てを完全に捨て去ったことになります。


「真実の愛さえあれば、私達は何だって乗り越えていける」とベテルギウス様は仰いました。


 貴方様は王族としての義務を捨ててまで、大切にしたいと思えるものを見つけられたのです。

 ならば、私は貴方様の意志を尊重し、行先を見守るべきなのでしょう。





 


  

 





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