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元ヤンレディース総長は異世界でも相変わらずのようです

作者: あづま ひろ

ほぼ満席の電車で隣に座った、美人でさっぱりした雰囲気のヤンキー系のお姉さんを見て書きました。

作者が寝落ちているうちに、いつの間にか作者の前に立っていて、隣を見たら妊婦さんが座ってました。

かっけぇ。

あの時から、彼女は作者の心の姐さんです。

彼女に惜しみない尊敬の意を込めて。

ぱっ


どさっ


は?


えっ、なに、なになになになに。何が起こってんの?


俺、広谷高巳(ひろたにたかみ)は路地裏にいたはずだ。なんかちょっとガラの悪いおにーさんたちに胸ぐら掴まれて、暗い、狭い、行き止まり、という最悪も最悪の状況下で「ジャンプしてみろよ」とか「何笑ってやがんだ?」とか言われて殴られそうだったはずだ。


いつもはそういう人に出会っちゃいそうなときは絶妙な感じに目線そらしてさり気なく離れて難を逃れるのだが…。


へらへら笑って時間を稼いで、なんとか逃げ道を探していたら、突然足元が光って気づいたらこれである。


高巳は状況を把握しようとあたりをぐるりと見回す。

遥か高くに円形に咲いた花みたいなステンドグラスの天井があり、後方にはコンサートホールとかにあるみたいな、でかくて重そうな扉。そこから自分の前の2段ほど高いところまで赤い絨毯が敷かれている。

前を見ると、ふかふかそうな豪奢な椅子に、いかにも王さま然とした年のいった男性が座っている。


……なになになになになになになになに、ほんとなに?

悪いけど1ミリも状況把握できない。


呆然とした顔ながらも鋭い目つきで隣に居るのは同じクラスの女子、元ヤンの早瀬さんである。

長く伸ばした髪は金に近い明るい茶色に染められ、制服のセーラー服のスカートの裾はくるぶしまである。

左右の耳にはピアスがバチバチにつけられ、切れ長でキツめの目で、整えられた眉をひそめながら俺同様周りを見る。くちびるには、真っ赤な口紅をスッとひいている。元ヤンとは思えないほど、傷跡も痣もない白い肌。以前は学校に来ることすら少なく、テスト期間にしか姿を見せないことで有名だった。

レディースの総長を張っていたと噂されている。


それは事実なんだが、実際の話は学校のみんなが想像しているものとは少し違う。

曲がったことが嫌いなだけの、強くて優しい女の子だ。

え?なんでそんなこと知ってんだって?ちょっと長くなるので今は割愛する。


彼女は高巳のバイトしているスーパー近くでチンピラに絡まれていた。もしかしたら以前つるんでいた人たちなのかもしれない。喧嘩はもうしない、という彼女を、チンピラさんたちは無理やり引っ張って暗い路地裏に連れ込んでいったので、慌てて追いかけたら、結果はまあ、冒頭のとおりである。


「えー、ごほん、遠き場所からよくぞ参った。ここはアニエス王国。儂はその国王、ロイ・アニエスである。そなたらは我らの世界の救済のために召喚された勇者、そして聖女だ。」


えーっと、なんていうドッキリですか??

異世界召喚??そんなん、ラノベでしか見ないぞ。

勇者?俺が?笑っていいレベルだろ、それ。

そういうのを喜ぶ年齢は、ちょっと前に過ぎてしまったんだなあ。


「早速だが、これからそなたらに魔物討伐を頼みた…なんだ?オットー。ん、なんじゃと…?違う?スキル鑑定…?してみよと申すか…」


王が話している途中で、執事らしき人が耳打ちした。すると王の顔は怪訝そうに歪められた。なんか、雲行きが怪しくなってきたぞ。


「あー、ごほん、そなたらにスキル鑑定を頼みたい。そこの水晶に向かって手をかざすだけでよい」


王は強引に話を方向転換させると、先程の執事が持ってきた水晶玉を示す。

高巳はわけも分からず、ただ言われた通りにするほかない。

ちらっと早瀬さんの方を見るが、水晶玉をめちゃめちゃ睨んでいたので高巳はすぐさま目をそらした。


「では先に、そなたからでよいな?」


王が示したのは高巳の方だった。とりあえず、手をかざす。一瞬ぴかっと光ったような気がしたが、反射しただけだと言われたら納得するようなそんな反応が返ってくる。


しかも、それを見た王の顔が、ものすごくめんどくさそうになる。え、感情表に出しすぎやしませんか?


「次、その方、ここへ参れ」


そう言った王に、早瀬さんはそれはそれはきっつい目線を向ける。だが、意外にも、何も言わずに言われたとおりにする。


その早瀬さんが手をかざすと、水晶玉からは眩いほどの光があふれ、暗闇から突然明るい場所に出たときのように目がシパシパする。


「おおお!」


王は俺のときとは打って変わって、すばらしいっ!というような顔になる。マジなんなんお前。


鑑定結果は俺たちには分からないが、反応を見る限り早瀬さんがすごくて、俺がショボいのだろう。

さっきの耳打ちした執事さんは、それは想定していたことだったのか、うんうんと頷いている。見ると、その執事さんの手元にはホログラムのスクリーンが浮かんでいる。アニメとかで自分のスキルを確認するために主人公とかが出す、あれだ。


「タカミ・ヒロタニ、そなたには失望したよ。なんだね?このスキルは。れじうち…?しかも、他の項目はと言えば、魔力・並、体力・並、学力・並。平均も平均の凡才ではないか。」


あー、なるほどね…。そうね。俺、バイトはスーパーのレジ打ちですからね…。

貧乏暇なし。放課後、月曜日から日曜日まで、日夜レジを打って打って打って打ってしてきましたから。

でもさあ、この世界にはどう見たってレジなど存在しないだろう。何のためのスキルだよ…。


うん、あとね?俺に勇者的な資質を求められても困る。そんな自分のために努力する暇があったら、その前に一円でも多く稼いで兄弟たちを食わせなきゃならない。学校だって、これでも有名私立の特待枠、めちゃくちゃがんばって入ったわけ。そうじゃなければ、私立なんて逆立ちしたって入れない。奨学金のお力を持ってしても、ムリ。それを、並並並並うるさいよ。ええそうですよ、俺には分不相応な学校ですよ。


「そなたのような箸にも棒にもかからんような奴はいらん。が、もとの世界に返すこともできん。当面の生活費だけ渡してやる。新しいのを呼ぶから、そなたは出ていけ。」


はいはい。よくあるパターンね。うんうん。おとなしく出ていきますとも。お前みたいな王が治める国なんて、どうせろくでもないんだろ。つーか、帰れないとか普通にクソ。


「トール・ハヤセ、君は正真正銘の聖女のようだ。滅多におらぬ光魔法の使い手。加えて魔力・体力は最大値。学力も、平均以上だ!」


続いて早瀬さんに視線を向けるアニエス王。俺の時とは打って変わって機嫌のよさそうな表情になる。てか早瀬さん、大丈夫か?この国はどうもまともなようには思えない。もしかして、一生閉じ込められるとか、国のために働かされるとか、あるかも…。


「それに、目つきや、奇怪な衣装は別にしても…、おぬしはどうやらずいぶんと…、うむ。よいのぉ…。ぜひ国に残って、一生を捧げてこの国を護ってほしい…!ここに残れば、心も体もわしが快楽を教え込んでやるぞ」


アニエス王は早瀬さんの体を上から下までゆっくりと舐めまわすように見る。その目線が、早瀬さんの豊かな胸の谷間や細い腰のあたりにねっとりと向けられるのを見て、高巳はものすごく気分が悪かった。仮にも一国の王が、二回り以上年が離れている女性に対してなんて台詞を言うんだ。バカか?お前。それ、俺たちの居た世界で言ったら社会的に死ぬぞ。てかこっちの世界の階級社会においても普通に死ぬだろ。もみ消してんのか?


高巳はとりあえず視線を遮るため、早瀬さんの前に出ようと足を踏み出す。

が、それとほぼ同時に、今まで沈黙を貫いていた早瀬さんが口を開いた。


「断る。私は広谷と一緒に出ていく。聖女も新しいやつを呼ぶんだな」


めちゃめちゃドスがきいた声に、アニエス王が怯んだようにのけ反る。

しかしめげずになおも何か言おうと口を開く。


「だ、だが!それでは・・・」


そのとき、早瀬さんはつかつかと王の椅子の元へ向かうと、肘掛けにダン!と足をおいた。


「なにか文句があるって顔だなあ。なんだよ、言ってみろや。それともそのきっしょい顔二度と外に出せなくしてやろうか」


決して大きくはないのだが、静かに迫ってくるようなよく通る声。その目つきは鋭く、真正面からあの目を見たら、本能的な恐怖で大抵のものは逃げ出すだろうと思う。高巳は一瞬息を飲んだ。しかしこの王に慈悲の心がカケラも起こらないので、ついでに高巳も王を睨んでおく。


「ひっ!いや、何もない…!わかった!そなたもヒロタニと共に出ていってもらって構わぬ!」


王は椅子の上で腰を抜かしたのか、椅子に座った体勢のまま微動だにしない。いや、震えてはいるが…。


その日のうちに高巳は早瀬さんとともに城内から出された。今は門の前に立っている。

王には2週間分の生活費と言われて、銀貨の入った袋を渡された。一泊もさせて貰えないとは。よっぽど怖かったんだろうな。まあ、城下町にも宿くらいあるだろうし。


「悪い。ついカッとなって…私がこの国の王にあんな態度を取ってしまったせいで…、」


早瀬さんが、落ち込んでいる…だと!?


「なんだ、その鳩が豆鉄砲食ったような顔は。私だって反省くらいする。」


高巳の顔から驚いたのを読み取ったのか、早瀬さんはちょっと睨みながらそう言う。でも、その目つきには先程アニエス王に向けていたような刺々しさはない。


「いや、たしかに驚いたけど。別に早瀬さんが謝ることじゃないでしょ。あのままだったら、俺が「早瀬さんは俺と一緒に出ていきます」って言っただろうし。あの場所に早瀬さんを置いていったりできないし。あのエロじじい、完全に早瀬さんをそういう目で見てたの、気づいてた?」


そう問うと、早瀬さんは驚いたように目を瞠って、首を横にふる。


「全然わからなかった…。そんなことに気づくだなんて、広谷はすごいな。あの王、広谷のこと何も知らないのに、ぺらぺらとバカにする言葉を吐くもんだから、つい腹が立ってしまった…。もう、あんなやり方はしないと決めたのに。」


しょんぼり肩を落とす早瀬さん。可愛い。


「これじゃ、広谷の恋人だなんて、口が裂けても言えん…。」


俺は公言してもらってもいいんだけどな。


「透、口が悪くても、目つきが怖くても、俺が好きなのは透だし俺の恋人も透だ。というか俺は、透が嫌ってるその目も声も全部好きなんだからな?そこを間違ってもらっちゃ困る。」


名前を読んでそう言うと、彼女は耳まで真っ赤になって俯く。あの王に透の名前の正しい発音を知らせたくなかったので早瀬さん呼びにしていたのだが、もしかしたら不安にさせたのかもしれない。


「とりあえず、街に出て宿を探そう。俺のスキルに関しては、あとで何か役に立たないか調べて見るからさ、今日はおいしいもの食べて、ゆっくりしよう?」


透は顔をあげずにコクリと頷いて、高巳の手をぎゅーっと握る。可愛い。


「…好きだ。たかみ…」


ポツリと呟かれたそれは、高巳に聞こえていないと思っているのだろう。いつもはデレ隠しに力が入れられている目元はふんわりと細められて、白い肌はほんのりと桜色に染まる。


元ヤンレディース総長であり、救国の聖女でもある早瀬透は、異世界でも相変わらず、俺の大事な恋人です。



「アニエス王、大丈夫でございますか?落ち着かれましたか?」


側付きであり、信頼する臣下の一人であるオットーがいまだ椅子から立ち上がることのできないアニエスに心配そうに尋ねる。

しかし、そんな心配すらも、今のアニエスの恐怖には、特効薬とはならなかった。


「オットー、彼らへの金銭は十分に用意したかね?宿の手配も済ませておいて、宿のものに伝えさせよ…。それから、ヒロタニ殿とハヤセ嬢への謝罪を届けさせよ」


アニエスは震え、奥歯をガチガチ鳴らしながら言う。この王も、愚王で女癖が悪いクズだが、曲がりなりにも王である。自分が取り返しのつかない愚行を起こしたことくらいはわかる…はず。


「たしかに、ハヤセ嬢の剣幕は鬼気迫るものでしたね。私など、金縛りにあったように動けませんでした」


オットーは同意するように頷きながら答えた。

が、王はその答えにゆっくりと首をふる。


「そうではない。たしかにハヤセ嬢の声や目つきは恐ろしいものであったが、それ以上に、ヒロタニ殿のほうが遥かに怖い。

戦い慣れている佇まいに、静かな怒りを秘めた据わった目。おそらく、彼のほうがよほどの手練であろうよ」


「…では…!」


オットーは驚いたようにアニエスを見、真っ青になる。心配するべきは、ハヤセ嬢の方ではなく、ヒロタニの方であるようだ。彼は自分が蔑ろにされて怒っていたのではなく、ハヤセ嬢へのアニエスの態度に怒っていた。怒りを鎮めるには、一刻も早く、ハヤセ嬢へのセクハラ発言の撤回と謝罪をしなければならない。



広谷高巳。

その界隈で知らぬ者はいない。売られたケンカを全部買っていたら、暴走族に目をつけられて100人に囲まれるも、全員のして高巳は絆創膏一枚のケガしかしていなかったというウソみたいな本当の話を生み出した。中学生にしてヤクザの組長にも認められ、ついた異名は「無傷のタカ」。彼の武器は、その圧倒的防御力、一撃必勝の右ストレート。全ヤンキーが憧れたが、高校生になって忽然と姿を消したことで伝説化した男。


そんな彼の目下の悩みが、可愛い恋人にそろそろ手を出してしまいそう、という惚気たものだということは、まだ誰も知らない。








ここまでお付き合いいただきありがとうございました!

もしよろしければ、ご感想ください。おまちしています!

そして、「面白い!」と思ってくださった方、高評価いただけますと、大変励みになります。


この小説をタップして、スクロールして、ここまでたどり着いてくださったあなたに、心からの感謝を込めて!


あづまひろ

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