第2話
まりあは、都合良くヒーローが助けに来るだなんてそんな物語の様な事、少しも考えていなかった。そんなもの、物語だけの世界。あの世界が物語の中、夢の中であればどれだけ良かったか。
目に見えるものはすべて本物、触れる事も出来て、痛みも感じる。寝てもいつもの平穏な日常に戻る事は出来ない。
この数ヶ月、どれほど思い知らされたか。
あの男の世界から逃れるには自分で動くしか無かった。私はこの世界で身分を証明出来るものが何も無い。それどころか、生きてきた事を証明する事さえ出来ない。そんな人間がこの屋敷から解放されても生きていけるかさえ分からない。
それでも、子供達をこのままにしては置けなかった。まりあの想いはそれだけであった。
ーーーそれだけ、だったのに…
お使い帰りに地方騎士団の方達が路地裏を巡回しているのを見かけ勇気を振り絞りそっと声をかけた。子供達を助けてもらえないか、親の元へ返してあげて欲しい、と。
「うんうん。デービッド・ウィルソン子爵様がそんな事を…。」
「嘘ではありません!どうか、どうか信じてください。」
少し考える様な素振りを見せる騎士達にあの男が主となり人身売買している組織の売買履歴、顧客名等が書かれた書類も見つけてあった。
相当数の子供達があの男の餌食となっていたのが悲しかった、悔しかった。あの屋敷の子達だけでは無かったのだ。
あの男自体が売買の組織の経営者だった。
「大丈夫、信じるよ。」
「ほんとですか?!」
直ぐに信じてくれるなんて思っていなかった。あの男は外面が良い。外では、にこにこ人畜無害そうな顔で良い人を演じきっている。豹変するのは屋敷の中だけであった。
「だって、知ってるもん。」
「…、しっ、てる…?」
「あーあ、大人しくしてればデービッド・ウィルソン子爵様のお気に入りのままでいられたのに、残念だね〜。」
騎士達は、にこやかな笑みをいやらしい笑みに変えまりあを見る。まりあの背中に一筋の冷や汗が流れた。荷物を持っていた手に力が籠る。
この地方騎士達はいつもにこにこと街の困った人達を助けていた。積極的に街の人達と話をし何かある時は直ぐに解決してくれていた。
そんな人達だったのに…。
私は頼る人を間違えてしまった。
私を気に入っている今がチャンスだったのに。
まりあは屋敷に連れて行かれた。