第1話
「お前は、何をしているんだ!!」
朝から男の低い怒鳴り声が屋敷中に響き渡った。
屋敷が街から少し離れており近くに家は無く屋敷の裏には樹々が生い茂っている。外面の良い男は機嫌が悪く苛々した時は何かにつけて文句をつけてくる。
「まあ、ご主人様。そのような者に関わらずとも私がお手製の御茶をお出しいたしますわ。」
傍に控えていたメイドのまりあが、男の前に出てにこりと微笑む。怒鳴られていた幼い少女は大きなまん丸な目を潤ませ泣かないよう耐えていた。泣くと男の怒りが長引く事が分かっているからだ。
御茶を準備しに行く時に一緒に幼い少女ミオを引き連れ部屋から下がる。
「今日は、あの部屋に近づかない方がいいわ。」
まりあはまだ幼いミオの頭を撫でながら目尻を下げ微笑む。ミオの目から涙が溢れ落ちる。男の前では我慢していたものが優しさに触れ溢れてくる。
この様な事が起きるのは初めてでは無かった。この屋敷に来た時から皆んな酷い扱いを受けていた。そんな子達を見て庇う事しか出来なかった。
まりあは、あの男に好かれている様で少しぐらい意見したりオネダリしたりしても機嫌が悪くなる事はなく可愛いオネダリだとにやにやといやらしい笑みを浮かべ好きにさせていた。
「きっと、直ぐに助けが来るわ。それまでの辛抱よ。もう少しだけ頑張りましょうね。もっともーーー」
「まりあ姉様?」
いつも子供達には見せない憂いを帯びた顔を見せ口を閉じた。ミオに見られる前に笑みを浮かべ表情を隠す。子供達が不安にならない様。
まりあは首を振りなんでもないと応え部屋に戻る様伝える。
「今日はもうお部屋で休んでいなさい。他の子達にもあまり近づかない様に伝えて。」
「はい。姉様。」
ミオは静かに自分の部屋へがある使用人の棟へ帰っていく。一人っきりになった廊下でまりあは静かに青空を見上げる。
「ーーーもっとも、これだけの人数が行方不明でも数ヶ月なにも無いなんて。助けが来るだなんて保証は何処にもないのでしょうね。」
保証なんて無かった。
もう私がこの屋敷に来て数ヶ月という時が経った。
街へはたまに向かうが変わった様子は無かった。この国の子達で無いのであれば、まだまだ時間がかかるだろう。それまでこの子達を守り切る事は出来るのか。
不安が胸の中で渦巻く。
それでも、この屋敷の子達だけでもーーー。