表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

燃え尽きた後にまた会いましょう

作者: 一色

Prologueに投稿したSSです。最近暑くなって来ましたね。

「こんなのあり得ない!」



実家でパソコンを前にしてそう絶叫したのは既に昔の話。大学進学を機に遠く離れた田舎から上京する私にとって、これは死活問題だった。



授業がすべてオンライン。登校は原則無し。



もちろん同じ大学に進学する友達はいない。疫病対策を第一に考えた大学の英断は、私の社会からの孤立を暗に意味していた。



こうしてアパートのワンルームで始まった私の新生活は、とても平穏なものだった。そう、平穏。まさに平"隠"。



人と会うことはもちろん、一言も言葉を発することなく部屋の中で一日が終わるのだ。もう2ヶ月経つのに、新しい友達だって一人もできていない。あぁ、強いて言うなら配達員のお兄さんと顔見知りになったかな。



「こんな生活寂しすぎる!!」



そう叫んだだけで私の喉はもはや限界だった。危機感を募らせた私は"社会参加"をしようと思い、その次の日、早速朝から街にくりだした。



はやくも初夏である。太陽が来たる猛暑に向けて準備運動をしている期間だ。この時期はまだ風が涼しいはずだが……….



「暑い。…帰るか」



私は道の隅で立ち止まった。脚が既にガクガクだった。道を引き返そうと思って少し顔を上げたその時、ショーウィンドウの中の一枚の絵画が目に飛び込んできた。



「これは……ノートルダム大聖堂?」



今は亡きノートルダム大聖堂。絵のタイトルと作者は知らないが、確か、この絵を高校時代の元彼が模写していたような気がする。



途端に懐かしさと寂しさが波のように押し寄せてきて、私は半分金縛りにあったようにその絵に見入った。



「お姉さん、中にどうぞ」



「えっ?!」



女の人の声がしたかと思うと、不意に私は腕を引っ張られた。その絵画が飾られている店に連れ込まれるのだと即座に気づいたが、なす術もなかった。引っかかってしまった、得体の知れない絵画販売に!田舎者、不覚!



「あの」



突然頭上から低い、聞き覚えのある声が響いてきた。



「そういうのやめたほうがいいですよ。本当に悪質ですね」



一瞬の沈黙ののち、女は私の腕を掴んでいた手をパッと離して店の中に戻っていった。



ほっとため息をついて、「ありがとうございます」と言いながら、私は声の主を振り返った。するとそこには、なんとここ数ヶ月の間何度も遭遇したあの配達員の顔があった。どうやら仕事中ではないようだ。



「も、もしかして!」



「こんにちは、偶然ですね。確か南さんでしたっけ?」



配達員の営業スマイル、オフの日でも健在である。



「はい。まさかこんなところで会うなんて……!」



さっきまでの憂鬱な気分は何処へやら、私は顔見知りと会えた嬉しさに沸き上がった。私たちはそのまま向かいの店でジュースを買って、日陰で少し話すことにした。



「南さんは絵画とかに興味があるんですか?さっきあんなにも見入ってたから」



「興味あるっていうか……。元彼が絵を描く人だったからちょっと懐かしくって、つい」



私はジュースのストローの端を軽く噛んだ。



「配達員さんはあの絵のこと、何か知ってるんですか?やっぱり有名な絵なんですかね」



「いや何も。でもあの構図と色遣いは素敵ですよね。大聖堂が本当に燃えているみたいだ」



「あはは、大聖堂はもう燃えてしまいましたね。……でも、この絵は火事の前に描かれたものですよね。実は以前も見たことあるんです。予言みたいで不思議」



「へぇ、見たことあるんですか。一体いつ?」



「高校生のとき。さっき言ってた元彼があの絵を模写してたんです。素敵な絵だな、と思ったのを今でも覚えてて……」



「ロマンチックな話ですね。でも彼とは別れちゃったわけだ」



「ええ。彼が途中で不登校になっちゃって自然消滅っていうか」



「あはは」と私は作り笑いを浮かべて、隣に座っている配達員を見た。配達員も私に微笑みかけると、腕時計を確認して立ち上がった。



「すいません、もう行かなきゃ。実はこの後配達があるんです」



「はい…」



数センチ残ったジュースを飲み干してここから離れていこうとする配達員を見て、私は例えようもない寂しさに襲われた。気づけば私もジュースを飲み干して立ち上がっていた。



「ま、また会えませんか?私ずっと一人で誰とも……」



配達員は一瞬驚いた顔をした。



「じゃあまた連絡しますね」



そしてとん、と空になったジュースのボトル同士を乾杯させて去っていった。



あぁ、嘘に決まっている。彼は私の連絡先など知らないのだから。



彼の背中を見送ると、寂しさは虚しさに姿を変えた。こうしてまた一人になるのだ。



その時、ポケットの中のスマホが振動した。



「久々に話せて嬉しかった また今度ご飯でも」



待ち受け画面に表示されていたのは、たった今元彼から届いたLINEの通知だった。

このあと2人はどうなるのでしょうか!残念ながら私にもわかりません!2人の世界を覗く機会がやってきたらまた続編を書きたいと思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ