601. 改変された登場シーン
2022/10/09 728により改変されました。
皆様は「光速度不変の原理」をご存じだろうか?
そう。ライトノベルを読む人なら大抵の人が知っているであろう「一般相対性理論」と「特殊相対性理論」の根拠となる原理だ。
ここに誰もが知っている有名な公式「E=mc^2」という公式がある。この中で「c」は光速度を表している。
そして、エネルギー保存の法則が成り立つ限り、光速度は何があっても変化しない。光速で移動する物体から前方へ光を放っても、その光の速度は二倍にはならない。光速で移動する物体から後方へ光を放っても、その光の速度はゼロにはならない。常に光速度cで光は動く。
詳しい証明の過程は省くが、この現象は「時間は相対的」という結論を導き、それによりタイムマシンの実現可能性も議論の俎上にのぼることもある。
では、エネルギー保存の法則が成り立たない世界では、光速度はどうなるのであろうか。
答えはまだわかっていない。
◆ ◆ ◆
サーバーのキッティングに始まり、WEBサイトのデザインまで、なんでもこなすフルスタックエンジニアとしてブラック企業で働いていた千聖は、二十九歳の誕生日をデータセンターで迎えていた。
仮想基盤でクラスタを構成する全ホスト十六台の内、一台がダウンし、アラートが上がったのだ。
クラスタゆえにホストの1台のダウンでは影響はほぼない。十秒程度で仮想マシンは全台復旧していた。最初からそういう|キャパシティ・プランニング《容量計算》をしている。
しかし、クラスタを理解できない上司の命令で夜中に復旧をすることになった。さらに言えばこのホストの保守契約は切れており、原因の切り分けは千聖がすることに。当然のように苦戦している。すでにデータセンターに入ってから12時間は経過していた。
次のDMSEGを取得しようとした瞬間、突然暗くなる視界。あまりにもじっとしていたため人感センサーが千聖を検知できなくなったのか。しかし、体を動かそうとしても動かないことに気がつく。
千聖は「まずい」と思った。何が悪かったのかわからないが、以前に経験したことがある。これは倒れてしまう奴だ。
――転送を開始します
千聖の脳裏に機械的で合成したかのような声が響いた。『どこへ転送するの?』などと考えるまでもなく『病院か』と答えを出す。
しかし、千聖の答えは大きく外れていた。彼女は今から異世界へ転送されるのだから。
◆ ◆ ◆
召喚の儀式はデザルト王国の城の中央にある中庭で行われていた。
――おお……。
召喚に成功し、銀髪の少女が現れたことで周囲で見守っていた貴族たちから感嘆の声が漏れる。
デザルト王国では、異世界からの召喚者を王子の許嫁にする伝統があり、異世界転生者がもたらす知識や技術で繁栄を続けている砂漠にあるオアシス国だ。また巨大な砂漠の周辺を、高原国、平原国、湖上国が取り囲み、それぞれの国はこのデザルト王国を中継しないと貿易ができないような位置関係にあった。それゆえ、デザルト王国は欠かせない貿易拠点として関税で潤って繁栄しており、周辺国に対して大きなアドバンテージを持っていた。
銀髪の少女、千聖はゆっくりと目を開く。
魔法陣から立ち上る青い光の向こうに、この国の王子であるクルトの姿が見えた。
相変わらず、クルトの周りには色々なタグがくるくる回っていて煌めいていた。千聖はオブジェクトのスキルやパラメータをその周りに浮かぶタグとして見ることができる。クルトは王子だけあって、そのタグの量が多かった。
二周目である千聖はもちろんクルトを知っている。だが、この時、クルトはまだ八才。幼い印象がまだ残っていた。思わず涙が流れる。
金髪に浅く焼けた小麦色の肌。成長すればイケメン間違いなしのかわいい顔。そして、何より最初から千聖を愛してくれたやさしい瞳。
すべてが元に戻ったのだ。
一旦は手のひらから零れて救えなかった愛する人が目の前にいる。今回は間違えないように、慎重に言葉を選びながら最初の挨拶を考える。
『オレサマオマエマルカジリ』
違う。
『お前の望みを三つかなえよう』
なんじゃそれ。
『オープンセサミ』
まったく意味わからん。
千聖は混乱していた。あまりにシリアスな展開になってしまい、印象の強かった過去の登場シーンが思いだされてしまう。最後のだけは砂漠つながりで出てきただけで登場シーンではない。
「私はデザルト王国第一王子、クルトクルト・ジリアクス。ここは砂漠の国、デザルト王国」
飽く迄も冷静なしゃべり方。しかし、冷たさは感じない。千聖のことを思いやってくれている雰囲気を十分に感じた。
「名をいただけないだろうか」
少し遠慮がちにクルトは尋ねた。
「千聖と言います。姓は……」
と、言いかけて気が付く。苗字を思い出せない。千聖は「何某」千聖だっただろうか。
「千聖か。良い名だ。それに白いワンピースがよく似合っている」
クルトの笑顔が千聖の疑問をどこかにやってしまった。
「突然の召喚で混乱もあるだろう。まずはゆっくりと湯あみでもして衣装を整えようか」
「はい。クルト様」
「様は不要だ。これから夫婦になるのだからな」
「ふふ。わかった。クルト、よろしくね」
千聖がにっこり笑うとクルトは頬を赤くする。異世界から召喚された少女と結婚するのが使命とわかっていても、実際に会うまでは不安があったのだ。だが、少しのやり取りで不安は解消されてしまった。
「ああ、よろしく頼む」
少しぶっきらぼうになってしまったが、クルトは千聖の手を取ると自ら浴場へ案内した。
光速度不変の原理
なんか知らんけど、光速度は何があっても一定で、絶対にかわらない。
似たような概念に「プランク時間」がある。人間はプランク時間以下の時間は認識できない。
つまり、この世界はプランク時間で描かれる紙芝居のようなもの。光は紙芝居に描かれたものだから、速度は変わらないのである(※要出典)
■このシリーズについて
このシリーズは限定的な読者参加型の小説となっております。
異世界オーバーライドのタイトル通り、すでに公開された話も「上書き」することが可能となっており、また読者の皆様は『観察者』として物語の中に出てくる設定です。
『観察者』は感想欄の「一言」に千聖向けのメッセージを書くことで物語への関与が間接的に可能になっています。「一言」に主人公「千聖」向けのメッセージが書かれた場合、作者がそれを認識した時点で執筆中のストーリーに「カンソーさん」というキャラクターが登場し、千聖にメッセージを伝えます。
それにより千聖の行動に影響を与えたり、または『確定した未来』の改変をすることが可能になっております。
前回は『掲示板』を使い、同じようなことをしておりました。
どんな雰囲気だったかは前作を参考にしていただければ幸いです。
>8才から始める空間魔法の基礎(異世界オーバーライド!)
https://ncode.syosetu.com/n9173fb/