エグモント序曲
人知れぬ寥れた地を訪ねたいなら、
悲哀に濡れる我が心を見よ。
冬枯れた枝々が描く、
罅われた空は滲みゆくのみか。
人知れず去りゆく心を知りたければ、
永遠の時に思いを馳せよ。
刻々に告げゆく思い、
命が刻むは悲しき別れのみか。
果たせぬかな、この願いよ。叶わぬかな、この祈りよ。
答える声はなく、あるのは沈黙する風景と涙する心のみか。
雲は流れ、
雨は止まず。
監獄の窓格子に、
滴たる未練。
さればこそ、
我、頭をあげん。
さあらばこそ、
我、凛として眼を力ます。
流るる小川、
瀬音は遠く、
無窮あおぐ葦もまた、
風に靡かず。
陽光が
おし黙っては
むっつりと
力なき腕を撫でる。
すべては厳かに静止しあるを目に、
我れ、悟る。
此の独房も彼の平安の地もかくあるだけと、
我が心、十字架にも似た窓格子を遥かに見透かさんとす。
おお、太陽よ!
我と我が身を創造する者よ。
その幻惑の光にたじろいで、
我れ、我れを失いしが、
おお、太陽よ!
君は我が心に昇りたり。
その眩さは万物を融合したりて、
我れ、我れを見いだせし。
おお、太陽よ、太陽よ。
もはや恐怖は消え去った。
もはや絶望とは無縁なり。
もはや希望なぞ無用なり。
おお、太陽よ、太陽よ、輝けるものよ!
窓格子を金に染め上げて、
やがて独房に宵闇をもたらす輝やけるものよ!
勇気と武器をたずさえず
我れも汝のごとくあらん。
気高く、誇らしき友よ、
かくて我れ、胸奥より、
刑死を望む者となれり。