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8.授業の闖入者

 僕、神村と宮本さんは宇宙探索に来ていた地球人。偶然、不可解な謎の多い星を発見した。そこはエルフやドワーフ、魔族、獣人と呼ばれる人達が暮らす星。

 そこで調査のためにアバターロボット、つまり遠隔操作できる自分そっくりのロボットで接触を図っている。


 今はこの星の文化を理解するため、空柱連合という国のエルフの女王様から直々に授業を受けているところだ。

 部屋に居るのは僕ら地球人の二人の他に、シェルクナ女王様、セーカ近衛隊長、女王様の親戚らしいレオス君、レオス君の付き人の男性ディネさん。


「この星における人種についてお話します。各種族は生活様式や寿命……耳の形などに傾向がありますが、混血も進んでいることもあり、そこまで大きな違いはありません。

 近年ではそうした種族としての特徴をことさらに強調するのは人種差別につながるとして控える傾向にあります。外見と特性は一致しない、あくまでも個人の持つ特性を見定めなければならないという考えです」



 この星でも人種問題とかあるんだなー。と、思っていたら宮本さんが質問の許可を求めた。

『あの、エルフやドワーフと言った呼び名はいつ頃使われ始めたのですか?』

 忘れてた。なぜかこの星の人種のイメージが地球のサブカルチャーと一致してる問題。


「数十年ほど前になりますか……当時は、失礼、……長耳、丸耳、毛耳、尖り耳、夜耳といった各種族の呼び名は既に数千年にわたる歴史の中で侮蔑的な意味を含んでおり、種族間の交流の多くは腫物に触るような空気が蔓延していました。商取引はあっても各種族でまとまっていて、よそ者と親しくつきあうという事はなかったのです」

 女王様の様子を見るに、この星の長耳、丸耳、毛耳、尖り耳、夜耳はいわゆる差別用語のような扱いの様だ。


「技術や情報は内輪だけで共有し、それが文化や生活の発達を著しく阻害していました。

 しかし、そんな時に不思議な人族が現れて、各種族と親しく交流し、各種族の伝記や架空の冒険物語、異種族間の恋愛物語の数々を世に出して行きます。

 その人が使っていた人族、獣人族、エルフ、ドワーフ、魔族という新しい呼び名は良好な印象とともに各種族に定着し、数千年に及ぶわだかまりが緩んだのです」

 シェルクナ女王は少し懐かしむような顔をした。

「その方はわずか数年前に病に没してしまいましたが……その間にも数々の発明や思想を広めた偉大な方でした……。種族名の名末がウで統一されているのはその方が人族で、その功績をたたえたものです」


 亡くなっていた……しかし、おそらく地球人だ。

 だって絶対はしゃぐもん、こんなファンタジー世界来たら。典型的な異世界転移者のそれだもん。

 チートはなかっただろうによくやるもんだ。最初は言葉すら通じて無かっただろうに、素直にすごい。


 でも、数十年も前に、どうやってこの星に来たんだろう……?


「あの物語が出るまで他種族の大恋愛など想像もできませんでした……」

 シェルクナ女王様が少し悲しそうな目になる。作家さんの事を思い出したんだろうか。



「まず私の種族をご紹介しましょう」

 と、シェルクナ女王様。

「エルフ。お二人の住む水の惑星のエルフと同一かは分かりません。

 初期エルフの祖先は人族の集団から生まれた突然変異であり、長寿ゆえに長い経験を持つため、知恵者として集団の生存に有益であり、神格化されていたようです。

 当時はまだ危険な存在だった炎を豊富な経験によって管理するという役目もあったようですね。

 また、長寿ゆえに過去の記録を残すべく、いわば自分用の暗号のような記号を発明して記録を多数残し、そのいくつかが文字の原型となったようです」


 女王様は教科書のイラスト、古代の祭祀の想像図に目を落とす。

「人族の集団が、突然変異が遺伝する事によりエルフに置き替わったのか、何らかの理由で人族とエルフの集団が分かれたのかは不明ですが、エルフの集団は森へと戻り、半狩猟採取の生活を送るようになったようです」


『エルフ……』

『エルフですね……』


「このエルフの森での生活ですが、文明のかなり初期から経験に基づいた高度な管理がなされていたようです。

 一日の採取量、下草の管理、森に住む動物を縄張りや頭数などを見極めながら管理しているのですが、当然他種族にはそんな事は分からない豊かな森なので……

 過去の歴史上、エルフの管理する森に気付かずに他種族が入り込んでトラブルが発生するケースがありました」


 僕らは宇宙船でもこっそり会話する。

 ― 管理された里山で無断侵入者とトラブルになったと……

 ― エルフではなくても地球でもありがちですね……


 地球で言う所の私有地に勝手に入って怒られるやつだ……。

 この星のエルフが森への立ち入りを怒るのは畑を荒らされる感覚に近いのか……


「一方、エルフと分化した人族ですが、外見は神村さん宮本さんに似ていますね。

 人族は好奇心旺盛で適応能力に優れるとされており、実際に砂漠から草原、森林、高山、海辺、水上、渓谷の間まで、多様な地域に住んでおります。

 また、海や荒野を渡ったりと非常に行動範囲が広いのが特徴です。文化交流を進んで行い、エルフの文字を世界に広めたり交易ネットワークを築いたりしたのも人族だといいます」


 シェルクナ女王様はレオス君を示す。

「獣人族はその際に、環境に適応して体温調節のために耳介が大きく変化した人族とされています。

 新環境への適応を諦めて森に戻ったのがエルフ、新環境を求めて森を離れたのが人族ではないかと考えられていますね」


 ― ゾウやウサギをはじめ、耳も放熱器と言われてますから、ありえないわけではないですね

 ― 獣人さん達は最初に暑いところで耳介が発達して、徐々に寒いところに移っていって毛深くなった感じですかね


 この星でも動物に霊性を見出して崇め、その動物に似た耳を持つ実力者が動物にあやかった集団を作る事もあったのだが、それは狼族とか兎族みたいな感じで別箇に名乗っており、動物を総称してまとめる名詞でしっくりくるものが無かったため、獣人族の呼び名はそれなりに受け入れられたらしい。



 シェルクナ女王様が次に示したのはレオス君の付き人のディネさん。

「ドワーフの祖先は、草原に進出したばかりの人類が道具を使って地下に安全な居住空間を確保したのが最初とされます。

 地下生活に対応して小柄になり、土を運ぶために筋肉が発達し、視覚を中心とした五感が鋭くなったとされています。そうした文化が礎となり、現代の建築物も、ほとんどがドワーフの業績ですよ」

 ディネさんは小柄ではないが、確かに筋骨隆々だ。


「ドワーフは元来の器用さと力に加え、金属の温度の色変化を鋭敏に知覚する能力があったため、古来より金属加工技術が発達していったと伝えられています」


 地球でも製鉄のために溶鉱炉の温度と色の関係が研究されて、量子力学の基礎となったのはもちろん、金属加工技術も飛躍的に発展した歴史がある。

 しかしそれ以前は金属の色で温度を把握するのが鍛冶師に必要な能力の一つだったという。



 ― 穴を掘るにも強い道具が必要ですもんね。プレーリードッグなどの生態を考えると、消費カロリーに見合う恩恵があるなら人間がそうした生活様式を身に着けてもおかしくありません。日本も古代からしばらくは半地下の竪穴住居でしたし

 ― ドワーフだ……



◇◇◇◇◇



 オレが居るこの場所は屋根裏。

 ほこりっぽく、人が好き好んで訪れる所じゃないが、盗み聞きには一番都合のいい場所だ。




 オレはため息をつきたかった。

 密偵の仕事って、宇宙人が空柱連合の偉い人からお子様向けの授業を聞いてるのを見張る事だっけか?

 下の階からは声が聞こえてくる。


「エルフ族が魔法に長けているとされるのは、長寿の恩恵によって魔導金属を観察・研究できたからだとされています。

 その魔導金属を加工できたのはつい最近までドワーフ族だけでした」

『魔導金属?』

 宇宙人から疑問に思う声が聞こえてからしばらく沈黙が続いた。


『すいません、その魔導金属に該当するものが水の惑星上で思い当たらないのですけど、現物を見れますか?』


「……分かりました。試料を持ってきましょう。レオスもお手伝いしてください」

「はい、大伯母上おおおばうえ


 女王たちが廊下に出て遠くに歩いていく音がする。護衛も一緒だ。

 おいおい宇宙人たちに護衛が居ないじゃないか。


 一方、下の部屋からは宇宙人たちの話し声が聞こえてくる。

『聞くことばっかりですね~』

『馬鹿だと思われないか心配ですよ。昼間の黒い服の人を相手にでもやったみたいな護身術でもお伝えしようかなぁ。僕らと体の構造は大きく違わないみたいだし』


 あ? やんのか? ちょっと転ばした程度で調子乗ってんじゃねーぞと、今すぐ言いたいがそれが通じそうな相手なら苦労はしない。

 何が起こったか全くわからなかったのは昼間にそれを食らったオレだ。

 幸い種明かしはしてくれるようだし、聴覚を研ぎ澄まして話を聞く。


『宮本さんも護身術興味あります?』

『ありますけど……この星の人に危害を加えるのはなしですよ!』

『そんな危ないものじゃないんですよ。

 まず、相手が攻撃してきて腕が伸びきった状態の体の外側の側面ってかなり無防備でしょう……』


 あれこれ言ってるので試してみたいがそれはそれ、身動きせずに任務をこなす。


『それで相手の右手首の辺りを持って―……』

 そういえば中庭で転がされた時、その辺を掴まれた気がする。と、右手首に注意を向けると、何かが転がっているのに気づく。

 その瞬間、目も眩むような爆発音が響いた。


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