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7.授業

 僕、神村と宮本さんは宇宙探索に来ていた地球人。偶然不可解な謎の多い星を発見した。そこはエルフやドワーフ、獣耳の人達が暮らす星。魔族もいるらしい。

 そこで調査のためにアバターロボット、つまり遠隔操作できる自分そっくりのロボットで接触を図っている。


 謎の刺客に襲われたのを口実に、女王様は折り入って話があるという。

 部屋に入ると同行していた黒いフード付きローブの女性を紹介された。

「こちらは近衛隊長のセーカです」

 同行していた長身のローブの女性はフードをとった。


 肌は褐色。長い耳。白い髪。

 ダークエルフっぽいイメージだ。

 中庭で襲撃してきた男と同じように、黒い目隠し布みたいなものをつけている。


「このたびの襲撃、警備責任者の一人として、また魔族の一員としてお詫び申し上げます。申し訳ない」

 深く礼をされた。


『いえ、最善を尽くしたならもう仕方ないですよ、僕もうろちょろしてましたし』

『風船の騒動もあって現場も混乱していましたし』

 僕らがフォローするとセーカさんはこぶしを握った。

「思えばあの爆発音も陽動だったのかもしれません、一層警戒せねば」



『女王様、ご相談というのは?』

 改めて、宮本さんが女王様に確認する。

「そうですね……しかし、どこから話せばいいのか……」

 そもそも相手は僕ら宇宙人、どこから話せばいいのか、どんな知識がどの程度あるのか、長い話を聞いてくれるのか、文化的に失礼には当たらないだろうか。色々考えるところがあるのだろう。


 すかさず宮本さんが言った。

『実は私たちも困っていまして……そもそも本当に魔族とか……この星の人種とか歴史とか文化とか、全く分からないんです』

 僕も付け加える。

『むしろほんっとに子供に教えるように教えてくださると助かります。もしくは文献を貸していただくとか。

 宇宙から見ているので地形はある程度分かりますけど、人の生活となると……』


 シェルクナ女王様たちは顔を見合わせると俄然やる気になったようだ。

「責任重大ですね! レオスを思い出します」

「先に東在帝領に招かれなくてよかったです。人種的偏見の塊ですから」


 あ、やっぱりそういうのあるんだ、と思っていると宮本さんは付け加えた。

『私たちもこの星の一般教養を持たないと、ご相談を受けるどころではないですからね』


 何だかんだ言ってもギブアンドテイクは大事だ。



◇◇◇◇◇



 失敗した。

 追っ手を撒いた後、打ち合わせ通り誰も来ない古城の外郭へ、廊下の窓の内と外で打ち合わせだ。

 窓の向こうの廊下から声が聞こえてくる。


「失態だな。生まれながらの戦士が聞いてあきれる」

「ありゃ二人とも同じくらいの強者だよ。あんたも一瞬で抑えられて呻いてたから分かるだろ」

「っ! 誰が助けてやったと思っている!?」

「結果論じゃん、捕まったから口封じに切り捨てる気だったんだろ」

「本当に口封じされたくなかったら挽回してみろ! 次はないぞ!」


 失敗したのは事実だから憎まれ口ぐらいは聞いてやるよ。そう思いつつ立ち去り際、独り言が聞こえた。

「いや、考えようによっては地球人の利用価値が広く知れ渡らずに済んだといえるな。幸運な怪我というやつか」



◇◇◇◇◇



「……大伯母上おおおばうえ、ご用でしょうか?」

「わたくしのお客様ですよ、ご挨拶してください、レオス」


 僕らが女王様に案内された部屋には人が増えていた。

 鮮やかな青髪、獣耳の中学生ぐらいの男の子と、黒髪で大柄、日に焼けた肌で筋骨隆々とした男性がいる。



「……はじめまして、森冷王国のレオス・リシャロです。こちらは付き添いのディネです」

 獣耳の子が挨拶すると、後ろの男性も軽く頭を下げた。


『はじめまして水の惑星の宮本です』

『はじめまして、この星の事を勉強中です神村です』

 噂の異星人と気付いたのか、レオス君の眼がすこし輝いた。


「レオスも勉学中の身、よりお二人に近い立場でみれると思います。

 分からないことがあればすぐに言ってくださいね」

「……お勉強……ですか……?」

 レオス君はがっかりしたような顔をした。が、身分の高いのか、しっかりした子なのだろう、ごねずに観念して席に着く。




 というわけで王族直々の特別授業となった。


「文字はお読みになれるんですね」

 お城の本で僕らの読解能力、というよりは自動翻訳の性能を確認する。

『機械の補助でどうにか……文字の書き順が少し不安なのでいくつか代表的な文を書いてもらってもいいですか?』

 読解は機械翻訳の投影で問題ない。僕らがこの星の文章を書くときは書きたい文面を呼び出して視覚に投影された文字をなぞるようになるのでひどく印刷したような文字になる。バリバリの楷書、といった感じだ……。


 そうした簡単な確認が終わった後、いよいよ授業が始まった。

 シェルクナ女王様が地図を示す。

「ご存知のように、この星に大陸は一つ。

 主だった国はこの周辺の三国、私たち空柱連合、レオスの森冷王国、そして最大の東在帝領です」


 大洋のあちこちにアイスランドやハワイ島ぐらいの大きさの島が点在している中、一つ大陸がある。



「空柱連合の由来はそびえ立つ木々が空の柱のように見えるからですね。

 そうした巨木と豊かな森に集落が点在しており、交通で結ばれた共同体です。私も女王とされていますが、強権があるわけではないのですよ。空柱連合はドワーフ中心の街の方が多いくらいです」


 この星の多くの国は立憲君主制っぽい仕組みを採用しているようだ。

 ぽいっていうだけで、地球で知られてるそれと全く一緒という事はないだろう。王国とか帝領とか連合とかも自動翻訳があれこれ試した結果だと思われる。



「空柱連合は、エルフが多く暮らしていますが、古くから行商人を受け入れていますので多くの種族が国内で暮らしています。人口比から見るとやや人族が多いでしょうか。

 国内に定住していない行商人という身分、特に人族と獣人族の行き来が盛んで、西の大洋に浮かぶ島々との文化的なつながりもあり、計算や通貨、言語が共通しています」


 シェルクナさんはふっとレオス君に目をやる。

「レオス、自分の国の事をご紹介して差し上げて?」

「え、あ、はい」

 来るとは思っていたのだろう、なんとかまとめたような口調で説明を始める。


「僕らの森冷王国はこの国の北に位置します。

 日照が弱く、木々は少しでも多くの光を受け取ろうと濃い色をしています。

 獣人族は毛の長い人が多く、魔族とドワーフ族も比較的多いです。

 昔は氷の輸出や、戦時中は中立の街道としてさかえたそうです」


 シェルクナ女王様は「ありがとう」と言って続きを引き継いだ。

「東在帝領は複数あった国家が合わさった新興の国です。

 そのためか外に敵を作って国内の団結を促そうという勢力がいます。

 現皇帝は穏健派で、そうした勢力の台頭には頭を痛めているのですが……未だ国内がまとまり切らないため派閥が多く、今強硬な手段で引き締めを行おうとすると反発が予想されます」


 最悪クーデターとか分裂とか起きるやつだ。



「そして人種ですが、誤解のないように現在推定されているこの星の人類の進化の過程からご説明したいと思います」

 この星にも、もう生物の進化っていう考え方があるらしい。発掘して昔の事を考えるだけの生活の余裕があるといえる。


 シェルクナ女王様は資料の本を指した。

 この星の言語で想像図、と書かれた森の中で枝に掴まり立ちする二足歩行の猿、初期人類が描かれている。

 鮮やかなカラーイラストだ。リトグラフかな? 高価なものだろう。

「化石から推測されたものですが、私たちの遠い祖先は、森林で生活していた猿の一種だったと考えられています。森で動物のような狩猟採取生活を送っていたものと思われます」


 次にすこし丈の高い草の茂る草原の想像図が示される。

 祭祀の風景だろうか? 草原の中、人々が集まり、長髪のおそらく女性が火の前で手を広げている。


「それが何らかの理由でおよそ五百万年ほど前に草原に進出しました。

 森での生存競争に敗れたとも獲物を追って森を出た言われています」


 僕らの星の説とえらく似ている……この説も地球の影響受けてたりして……。


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