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5.風船

 僕、神村と宮本さんは宇宙探索に来ていた地球人。偶然不可解な謎の多い星を発見した。そこはエルフやドワーフ、獣耳の人達が暮らす星。

 そこで調査のためにアバターロボット、つまり遠隔操作できる自分そっくりのロボットで接触を図っている。


 今は食堂にお呼ばれしている所だ。



 唐突に中庭の方から爆発音がした。

 悲鳴が上がり、パニックが起こる。伏せる人、出口に走る人、中庭を見に行く人。

 爆発音で真っ先に頭に浮かぶのはテロだろう。


 僕はそこまで爆発の圧が強くないことから本命があるとしたらもう一つ、と、周囲を探ろうとしたが隣に居た軍人さんが僕らを掴んで床に引き倒した。

 何事かと思ったが、爆発やパニック、どさくさに紛れて危害を加えてくる輩に巻き込まれないように身を挺して庇うつもりだったようだ。

 立ってる所に爆風喰らったら普通の人間ならちぎれるからね。上に覆いかぶさり、僕らを囲んで外に向かって身構えている。


 しばらくパニックの人達でごった返していたが、何も起こらず、徐々に沈静化して人々が顔を見合わせる。



「風船! 風船です! 風船に引火しました! 風船が割れただけで怪我人はおりません!」

「なんと人騒がせな!」

 中庭の方からの声に、案内役のケンリジュ老人が怒りだした。

 怒りたくもなるだろう。


 僕ら二人は軍人さんたちにひどく謝られたが、これが仕事なのだから謝られることじゃない。



 僕は周囲の安全を確認して、ちょっと聞いてみた。

『ところで、あの音で爆発したという事は風船には水素を使っているのですか?』

 僕の質問で、怒っていたケンリジュさんは目を点にし、軍人さん達は困惑した気がする。


 横に居た三メートル近くある大柄な軍人さんが答えてくれた。

「はい、アンモニアやメタンなどは毒性や臭い、可燃性などからこういった場での使用は不適とされていますので」

『そうなんですね』


 軍人さんの反応を見て、僕らは宇宙船内でひそっと話す。

 ― これ、発見されてませんね

 ― 調べた感じでは地中に埋蔵されているとは思うので、その内発見されると思うんですけど……技術的なネタバレは避けていく方針で行きましょう



「宇宙人さん」

 小さな女の子に呼びかけられた。小さい、といっても年齢的なものではなく、おそらく小人だと思われる。

『宮本です』

『神村です』

「サクル様……」

 軍人さんの一人が道を譲る。


 おそらく学識があって身分も高いと思われる彼女は、探偵のように切り出した。

「先ほどの神村さんのお話から、水の惑星には風船がありますが、その中身は水素ではありませんよね?」

 地上に居る僕らのアバターロボットは身じろぎせず聞いていたが、宇宙船に居る僕らは顔を見合わせていた。たった今、技術的なネタバレは避けるって決めたばっかりなんだけど。さっきの一言でそれ気付いちゃうの?


「地中にごく微量含まれている難燃性のガスですか?」

 女の子の質問に、アバターロボットの顔を見合わせる。宇宙船の僕らもひっそり相談する。

 ― 正解にたどり着いてます?

 ― これはハイと答えても問題ないのでは?


 すると今度は、更に質問してくる。

「それは、太陽に含まれるスペクトルと同じものですよね?」

 とうとう宮本さんが喋り出した。

『わぁ! すごい! そうなんですよ!

 水の惑星でも太陽を分析する事で発見されたため、水の惑星で古代信仰されていた太陽神にちなんだ名前が付けられたんです!』

 発見された経緯、地球と似てるんだ……ちょっとびっくり。


「…………水の惑星の技術では……風船のために太陽に採取に出かけられるのですか……?」

 あれ、畏怖の方向でドン引きされてしまった気配がする。

 さすがの地球でも風船を浮かべるために太陽の表面に立つような超技術を使ったりしないよ?


 と言いたいところだけどうまいこと話がずれてくれると助かる。この気体の性質とか聞かれて、例えば圧縮しても爆発しないとか液体とか固体になりにくいとか他のものと反応しないとか分かっちゃうとじわじわと用途が見えてきちゃうはずだ。


 よし、予防線張っとこう。


『えーと、僕らの星とこの星ではだいぶ違うので……僕らの星にあってこの星に無いもの、この星にあって僕らの星に無いものがいっぱいあるのかもしれません』


 言いながら二人で中庭に移動する。他の人もぞろぞろついて来た。

 中庭に面した二階外廊下に居た人たちから初めて見た僕ら宇宙人に対して声が上がる。


 中庭を見回すと、なるほど、椅子に破裂した風船のなれの果てと、弾みで飛ばされてその近くの木の上の方に引っかかってしまった生き残りの風船が見れた。


『ちょっと離れてください、よい……しょっと!』

 周りに声をかけて、僕は高くジャンプし、高さ三メートルほどの梢に引っかかっていた風船を掴んで着地した。

 周囲から声が上がる。


『神村さん、作業用にアバターロボットの出力いじってないですよね?』

 宮本さんに返事をするのと同時に、サクルさんに聞こえるように少し声を大きくする。

『はい、僕らの星用の出力にしていると、これぐらいの力が出せます。この星、僕らの星よりほんのちょっとだけ軽いんです。

 だから水の惑星上では想定できない現象があるかもしれません』

「なるほど」

『それなので、僕たちの科学の話は話半分で聞いてください、この星では応用できない話が含まれているかもしれません』

 サクルさんを見ると、頷いてくれた。


 一方、他の学者さんの間で、人間が理論上可能なジャンプ力について考察が始まっている。

「しかし、筋や骨格から理論上、人類はあれぐらいの力が出せるとは言われていましたよ」

「未確認ですが、軽業師や魔族の精鋭部隊がそれぐらいのジャンプ力があったという話もありました」


 僕らは再び宇宙船内で話し合う。

 ― 魔族って言葉が出てきましたね……

 ― 魔族ってやっぱりあの魔族なんでしょうか?


 だってこの星の人達もマゾクって言ってるもん……。多分あの魔族でしょう……。

 地球でも日本のファンタジーを翻訳する際、稀にではあるが無理に翻訳せずにマゾクと書かれるらしいというのは聞いたことがある。翻訳さんにしてみると例えばdemonとかdevilとも何か違うんだよな~、という時がたまにあるらしい。

 そうなるとこの単語がこの星に来たのはいつだろう? 少なくとも日本の作品に定番の魔族が定着した後の可能性が高い、二十世紀後半あたりか?



 不意に僕のアバターの側の椅子に何かがとまった。

『…………妖精……?』

 小さな人型で蝶のような羽がついている生き物。足を広げて両手を軽く床に揃え、お尻をぺたんと床につけたようなポーズでこちらを見ている。そろえて床に下ろしている両腕も広げた足もふわふわの産毛に覆われていて、指は無いように見えた。


 僕はじっと妖精の白目の無い大きな黒目を見つめる。

 妖精は小首をかしげてこっちを見つめている。

『……節足動物ですか?』

 観察した結論を呟いた、一緒に観察していた宮本さんも僕のコメントで合点がいったようだ。

『あ!複眼!? それにカイコガみたいな手足! 肩のフワフワは前の方の足なんですか!? この服みたいなひらひらは……変化した羽?』


「水の惑星には……妖精は居ないのですか?」

 案内役のケンリジュさんが尋ねてくる。


『居ませんねー……』

 目を輝かせながら妖精を観察する僕ら宇宙人が逆に珍しいらしい。

 周囲から「妖精が居ない……?」とざわめきが聞こえてくる。


 妖精はひらひら跳び上がって他の妖精と出会うと、戯れるように舞いながら屋根を越えていった。この星の蝶々みたいなものなのだろうか。


『夢みたいですぅう……』

 宮本さんがキラキラした目で呟いた。

『僕もです……』

 だって地球では見た事ないもの。


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