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19.読み合い

 僕、神村は宮本さんと宇宙探索に来ている地球人。ここはエルフやドワーフ、魔族、獣人族と呼ばれる人達が暮らす星で、およそ地球で言うところの十九~二十世紀ごろの文明と、魔法という未知の技術を持っていた。

 僕らはアバターロボットと呼ばれる自分そっくりなロボットで交流をはかっている。


 災厄の魔法陣と呼ばれていた召喚魔法はとんでもない技術だ。できるだけ伏せておきたいが、それを説明しないと僕らが急ぐ理由も説明できない。

 何より、じわじわと情報が洩れ出してる今、変に隠し立てしても味方をしてくれているシェルクナ女王様達に不信感を持たれるだけだろう。


 というわけで、いつもの地下の演習場。予定していた魔法についての実験の前に、シェルクナ女王様とセーカさんとバレアに事情を話して対策を練る事にした、


「あの魔法陣にそんな秘密が……」


 なぜ今まで災厄の魔法陣の効果が明らかにならなかったのか。その理由はおそらく、魔法陣を作るのが大変というのもあるが、召喚をすぐに再現できないという事が大きいはずだ。

 なにせ次の召喚可能な瞬間まで数十年から数百年。

 過去に召喚を成功させたのは実力のある魔法使い達だろうし、教育が広くほどこされていない時代に高度な天文学を理解してくれる人は限られる。インチキ扱いされる危険はできるだけ避けたかっただろう。


 しかし、今の状況は秘密裏にとはいえ魔法陣の効果が知られ始めている。

 どこから坂藤(さとう)さんの事が公になるか分からず、そうなった時にどの勢力がどういう動きをするか読み切れない。

 なるべく事態が動く前に決着をつけたい。そんなわけで作戦会議だ。



 主に宮本さんが経緯を説明するわけだけど……僕は知ってる話だし、若干ヒマ。


 魔族の人たちってウィスパーボイスというか、普段から若干囁き声みたいな喋り方で、あまり声を荒げる事が無い。体質上そういう文化なのだろう。五人中二人が魔族なので僕ら全員、つられて声がこそこそ声になる。


 あと、すごくどうでもいいんだけど、魔族の人もエルフの人も、話を聞いている間、耳が動く。

 どうも相槌(あいづち)代わりのようで、話の途中はめいめい自分のタイミングで動くが、話の終わりにほぼ全員揃って動く。

 多分『了解』とかの意味のジェスチャーでもあるんだと思う。

 エルフも魔族も昔は狩猟採取生活してたらしいので、獲物に気付かれないように「聞いてるよ!」って伝える手段の一つだったのかも。



『……というわけで、これからの方針を決める上で非常に重要になるんだけど。

 僕らの星の人に関して、東在帝領のどの範囲の人間が関わっているのか……バレア、分かる?』

「いや分かんねーよ。オレ下っ端だし、てゆーかあいつらが人族以外を要職につけると思わない方がいい」


 答えてくれたのはシェルクナ女王様だった。

「おそらく、旧カルダロの単独行動だと思います。場合によってはギルシル殿個人の独断専行。

 連国議会では東在帝領代表のザヌ様は宇宙人の受け入れに反対していましたし、立体映像の講演があるまで受け入れに傾く様子はありませんでした。

 お二人の発した通信は東在帝領でも聞かれていたはずですし、水の惑星の服は特徴的ですから、召喚された水の惑星の人間の有用性を上層部が知っていれば、すぐさまお二人の確保に動いたはずですよ」


 なるほど、会議に出席して直に様子を見ていた女王様の言う事は一定の説得力がある。


『じゃあ、カルダロの人達が僕らの星の人を隠してるとしたら、どこに?』

「オレが居たときはおっさ…ギルシルのとこの屋敷で学者たちに混じってそれっぽい奴を見たけど、今もそこかどうかも分かんねーよ? あそこの大将が関わってるなら帝都の方に居るかもしんねーし」


 セーカさんが答える。

「おそらく旧領です。栄転した領主とはいえ、帝都近郊は土地も狭く、主要施設は皇帝から下賜されたものとして勝手に手を加えないように定めていますし、帝都直属の警備隊は有力者の警備と同時に彼らを見張る役目も持っています。

 諸侯に帝都周辺で軍備を整えさせないようにする。内乱防止ですね。

 帝都の方では身動きはとりづらいでしょう」


「……そういうのどうやって調べてんの?」

 バレアが独り言のように呟いた。

 確かに、緑豊かで自由な雰囲気の空柱連合が諜報技術あるの、ちょっとびっくりする。


「周囲と正しく付き合うために知るべき事が多いだけですよ」

 にっこり笑うシェルクナ女王様からちょっと言い知れない凄みを感じる。


 セーカさんが続けた。

「水の惑星から与えられた知識を実証するための追試が必要でしょうから、設備の整った実験施設があるはずです。

 機密情報を長距離移動させるのは避けたいはずですし、秘密裏に事を運ぶなら、物や人を大きく移動させて人目につくのは避けたいでしょう」

「じゃあほぼ間違いなくあいつの屋敷だな」


 坂藤(さとう)さんが今もそこに居る可能性は高い。



 ……そしてそのカルダロ領はこの古城に隣接している。ご丁寧に鉄道まで走っている。


『これ、いけるのでは?』

「殴り込むの?」

『まずは穏便に返してもらえるか確認しないと』

「えー……、初手で他国に先じて宇宙人全員捕まえて利用しようとしてた奴だぜ?」


 最初に中庭でバレアに襲撃された理由、そーいえばそうだった。

 予定としては僕らを捕獲できれば上々、警備に不信感を持たせて東在帝領に連れ出せても良し……だったらしい。何その大雑把な計画。


『まだ強硬手段はとらない。理由の一つは、召喚者と僕らを結びつけられてないだけで、言えば素直に返してもらえる可能性』

「ないない。水の惑星は魔法が弱点って調べ上げて利用しようとしてたし。それはない」

 バレアにさらっと否定された。僕らもそう思う。これはあくまで穏便に話を終わらせるための建前だ。向こうが乗ってくれるなら応じよう。


『もう一つの理由は、後から「捜索してるって知らなかった」とかごねられても困る』

 だから公的に交渉しようとした所を見せないといけない。そう言ったら納得してもらえた。


『それにしても、僕らの星が本気出して攻撃してきたらどーするつもりなんだろ? やっぱ人質を使う気なのかな?』

「魔法で無効化できると思ってんじゃね?」


 ミリオノリスは制御をやってるだけでレーザー兵器の威力とかには関係ないんだけどな……まぁ、こっちにも精密軌道兵器とかない今、ヤケになって人質とられたりしても困るので慎重に行こう。




 さて、地球の機械が魔法で動かなくなるのは本当だ。

 そのため今、僕らは魔法に関して実験中。


 アバターを動かそうと頑張っていた宮本さんが宇宙船内で声を上げた。


 ― やっぱり全っ然動けません!

   Ordersの人達みたいに普段からアバターを使ってて動作遅延への対応に適性がある人じゃないと無理です!

 ― Ordersはハッキングとかもありますからねー


 元は本物の軍事用だっただけあって、EZバトルと違ってアバター特有のかなり幅広い攻撃が許されている。五メートルぐらいある大型ロボだけのチームとか普通にあるし。

 それでも現在はやっちゃいけない事はあるし、その決まりを破ってやらかす奴は居るわけで………………ちょっと嫌な事思い出しちゃったな。



 宇宙船内で悪戦苦闘する宮本さんとは対照的に、地上でセーカさんに見守られ、床に寝ている宮本さんのアバターロボットは微動だにしない。

 動く気配のない宮本さんのアバターの胴には交叉した輪っかがはまっている。パッと見はジャイロスコープとかの外側の輪っかというか、二つの輪っかで表現されている立体の球というか、天球儀というか。



 問題は宮本さんのアバターが目をあけたまま微動だにしないので心配になってくる絵面な所。

 もう一度宇宙船経由で呼びかけてみる。


 ― コツがあるんですけど、宮本さん、指を動かすとかじゃなくて寝返りをうつみたいな動きも無理ですか?

 ― 感覚の遅延で既にかなり気持ちが悪いです!



 この宮本さんのアバターロボットの胴体にはまっている二重の輪が、他ならぬ魔法封じの魔導拘束具だ。

 拘束した相手の魔法を封じるために補助的に使うものだという。

 輪に刻まれた魔法陣が微弱な魔力を発し続け、中心に居る術者が魔法を使うのを妨害する。らしい。


 普段は二つの輪を畳んで一つの輪になっているのであまりかさばらない、ちょっと小さいフープって感じ。


 問題は僕らの使っているコンピュータが魔力にあてられると機能停止する事、つまりこの魔法封じの輪っかが、そのままアバターが行動不能になる拘束具になる事だった。

 その対策を色々施したのだが、宮本さんにはどうも合わなかったらしい。


『だめみたいなので外しますね』

 宮本さんが音を上げたため、セーカさんに手伝ってもらい、輪っかを引っ張って宮本さんのアバターから外した。隙間があるので普通の人なら被せられた直後に自力で外せるだろう。


『ぷはー、すっごいストレスですよ!』

 拘束を外してすぐに宮本さんは復活した。


 アバターロボットの接続を切ってしまった場合、再起動するにはある程度魔力、というかノイズの少ない環境に置いた上で丸々三十秒くらいかかるので、動けなくとも同期させたままにしておくメリットは一応あるといえる。拘束されたまま接続を切ったら最悪二度と再起動できない可能性がある。


『こんなのやって本当に大丈夫なんですか? 神村さん!』

『大丈夫です』

『神村さんの大丈夫は大丈夫じゃないんですよ!』

 返事しただけなのに……。僕は慣れてるから大丈夫なんですよ。


「神村ー、手合わせお願い」

「はいはい」

 待たせていたバレアに呼ばれた。




 軽く打ちあった後、仕掛けたのは僕、無防備に繰り出すローリングソバットに似た大振りな動きにはバレアも十分対応してくる。僕が空中に居る間にカウンターを狙ったみたいだけど、僕はすかさず足の軌道を変えて彼の腕と肩を蹴って空中を転がるようにして後ろに回り、そのまま組み付いてバックドロップみたいに後ろに投げる。

「なに!? 今の!!」

 綺麗に受け身をとって後ろに転がったバレアが珍しく少し大きめの声をあげた。


「神村、あの瞬間はこっち見えてないでしょ? 何であの動きできんの??」

『僕は周囲の全ての状況を感知できるんだ。それこそ背後からの攻撃しようとしてる武器との位置関係とか、相手の筋の緊張から予備動作を把握したりもできる。ある程度の距離があれば銃で狙われたって避けられるってわけ』

 拳や銃弾の軌道のみならずトリガーを引く筋や筋に該当する構造の緊張、武器に発射を指示する電気信号など、周囲数百メートル以上に及ぶ力場の変化で状況を把握し、反射で動く。

 Orders内でも珍しい、ほとんどアバターをいじらずに高い戦闘能力を発揮できる僕たち戦争屋人形チームの能力はこの、広範囲の力場把握能力から来ている。


『この星の人達は魔力を感知できるんだからそういうのできないの?』

「生き死にがかかってすっげぇ集中してる時とかはできるかもしんないけど、動いてる相手の位置を把握するとかそんなん伝説の武術の奥義だよ? はぁ~神村ほんともう」

 あきれたのか何なのか、バレアは寝っ転がってしまった。

 宮本さん達はまだ訓練を続けているのでちょっとお喋りする事にする。


『試作品の調子はどう?』

「良い感じだよ。今も着けてるけど聞こえにくい事もないし」


 他愛もない事を喋った後、思い切ってちょっと聞き辛かったことを聞いてみた。

『バレア、本当によかったの? 傭兵にとって裏切りって信用に直結する死活問題でしょ?』

「信頼できる仲間には神村が俺の魔王って言ってあるから大丈夫大丈夫。魔王が居るなら仕方ないって許してもらえるから」

 魔王って魔族にとってはうっかりすると結婚相手より重要な人でしょ……一生に一度使えるかどうかの言い訳を今使っても大丈夫なの……? むしろその方が信用落としたりしない? というか異星人が魔王ってありなのか?


 僕のいぶかしげな顔を見て寝っ転がったままバレアが付け加えた。

「悪いことする度胸がある事、良いことをする知恵と力がある事、何を置いても守りたくなる愛嬌がある事。神村は魔王の器。大丈夫大丈夫」

 バレアがいいならまぁいいのかなあ……。


「それより神村、本当にさっきの作戦でいくの? 大丈夫?」

『うん』

「じゃあできる限りの事はしますかね、輩下として」

 まだ言ってる。


『そういえば魔王の器の話があるなら勇者の器の話もあるの?』

「勇者……? …………ああ、魔王の器の話をパロって最近作家が作ってたやつね。

 間違える度胸がある事、間違いを正す知恵と勇気がある事、敵すら守れる愛がある事……」



◇◇◇◇◇



「宇宙人達が同胞の捜索を開始する!? 今更か!?」

 ギルシルのおっさんは困惑していた。気付かれないと思ってたのかよ。


「そ、どうもこの星に居るって、ある程度あたりはつけてたらしくてね。水面下で色々と探ってたみたい。

 いなくなった時の姿そっくりそのままっていう、色つきの写真みたいなのを出してきてたから言い逃れは無理だろうね」


 服装まで含めて水の惑星から消えた男の当時の姿を前後左右から見たものを出してきていた。

 消える瞬間を見てたわけでもないだろうに、あいかわらず何でそんな事が出来るのか分からないけど、言い逃れ無理だろ、あれ。


 オレの言葉を聞くと、おっさんは苛立たし気に髪をかきむしった。


「おのれ人形ども……気付かなければまだ放っておいたものを……しかしどうする? 罠を張っておびき寄せるか?」

「今急に消えたら宇宙人たちどこ行った?ってなるじゃん。呼び出しちゃった奴を返して素直に謝まれば? 今の段階なら「正体不明の奴を保護していた。水の惑星の住民とは知らなかった」で済むでしょ」

「人質をみすみす手放すのはご免だ。我々の内実が伝わるのも危険すぎる」

 言うほど秘密にできてるか? 内部事情。


 おっさんがぶつぶつと「どこに隠すか……いっそ証拠を消すか……まだまだ役に立ちそうで惜しいが……」とか物騒な事を言っている。

 オレは思わず溜め息をついて切り出した。


「オレも耳あての開発が止まるの困るんだよねー……こういうのはどう?」



◇◇◇◇◇



 数日後のこと、各国のえらい人が集まる中で、僕ら、というか宮本さんはようやく僕らがこの星で人を探している事を告げた。


 この会議で出したのはCGで再構築したほぼ本人な映像と、もう一つは行方不明時の服装や髪型などを大まかにイラストで示した簡単な印刷との二種類。イラストの方は要は捜索ビラなんだけど、今時は捜索とはいえ異星に自分の写真ばら撒かれたら嫌でしょ。



「それについて一言」

 東在帝領の偉い人、ザヌ代表が怖い顔をして発言の許可を求める。


「私ども、東在帝領使節団の部屋に今朝方、妙な手紙が落ちていましてな。

 『宇宙人の行方は東在帝領が知っている』

 これはどういう事ですかなシェルクナ女王?」


「どう、とは?」

「不審者が各国代表団の寝所に入り込んだという事です。しかも今日まで内密になっていたこの集まりの議題まで漏れている。警備は何をしているのですか?」

 女王様と代表の間に険悪な気配が漂い、各国の代表がそわそわする。

 安全なはずの部屋に怪文書。まぁ疑心暗鬼になっても無理はないんじゃないかな、という状況。


 室内が静かになったところで女王様が返事をした。

「確かに、ザヌ代表の言われる通りです。しかも水の惑星の行方不明者の話はこの会議を調整するため、つい数日前に水の惑星のお二人から内々にお話をもらったものです。それが漏れているとなると保安上の危機」


 ザヌ代表は畳みかける。

「陛下、部屋に入れるのも宇宙人の捜索の事を知っていたのも空柱連合しかいないのですがね?」

「私どもが何らかの証拠を元に交渉材料にするつもりなら、不審な置き手紙なぞせずとも直接お会いしてお話しができます。それとも思い当たることがおありですか?」


 各国の動揺が伝わってくる。僕らのせいで申し訳ない。

 ザヌ代表は僕らの方に向いた。

「現時点で一番不審なのは空柱連合なわけですが……水の惑星のお二人は、東在帝領に来られる気はありませんか?」


 宮本さんは、行方不明者の手がかりを見つけないといけないので、と、暗にこの古城を拠点にする姿勢だ。


 ため息をつくザヌ代表の横、問題のギルシルは会議中、全く動かない。



 いろんな人にご迷惑をおかけしつつ、坂藤さんの存在が公になった。

 あとは時間との勝負。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 今話もありがとうございます! ピリピリした情勢がよく伝わってきます。 [一言] 続きも楽しみにしています!
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