13.引き続き交流
僕、神村と宮本さんは宇宙探索に来ていた地球人。偶然、不可解な謎の多い星を発見した。
そこはエルフやドワーフ、魔族、獣人族と呼ばれる人達が暮らす星。
ロケットも持っていないはずの文明レベルのこの星に、なぜか地球との交流の形跡がある。そして数か月前に地球で行方不明になった人がこの星に来ている可能性がある。
更には僕らの星にはない技術、魔法。
この星の文化を知るべく、この学校の小学生っぽい子たちとの交流の場を設けてもらった。
今、宮本さんは講堂で僕らの星についての説明をしている。
この星のお子様たちに僕らの技術をアピールする場だが、後ろの方ではえらい大人の人達も見ている。
あんまり技術流出につながることはしたくないけど、ここらでひとつ技術力をアピールしないと後々困るだろうという判断だった。
講堂には球体が浮かんでいる。
僕らの住んでいる星の立体映像だ。
『私達の住んでいる水の惑星という天体は太陽と呼ぶ恒星を中心にして、他の複数の惑星と一緒に太陽の周りを回っています』
宮本さんの解説とともに立体映像がズームアウトし、太陽と惑星を表示する。
科学の教材でよく見る、太陽を中心に公転する惑星の立体映像が映し出された。
動く立体映像に感心したのか、周囲から声が上がる。
『この星と同じように、自転によって朝夕が発生し、太陽の周りを公転する内に季節が一年にわたって変化します』
立体映像が僕らの星と太陽をクローズアップし、自転や公転と日照の関係が分かりやすくなる。
『この、恒星を中心としてその周囲をまわる惑星の群れを惑星系と呼んでいます。
この惑星系は私たちの太陽系の他にも確認されていまして、この星もそうですね。恒星があって、その周りを回る惑星がある。それを簡易なモデルにしたものがこちらです』
立体映像はズームアウトしていき、太陽を中心にした惑星のモデル全体を映し出す。
『そして、私たちの星とこの星の位置関係ですが……』
立体映像はさらにズームアウトして太陽系が小さくなっていくと、太陽が光り輝く小さな点になる。
遠く離れた太陽の小さな点がさらに小さくなっていった頃、周囲にも同じような小さな点があるのがみえるようになる。
更に離れていくと最後にはそれらの小さな光の点が集まって渦巻く巨大な銀河が姿を現す。
『このような星々のまとまりや、雲のようなガス状の天体などが集まってできたこうした構造を銀河と呼んでいます』
映像内の天の川銀河はゆっくりと渦を巻く。
『私達の居るこの銀河を、私達の水の惑星の私たちの国では『天の川銀河』と呼んでいます。
天の川銀河は直径十万光年ほどと推定されており、私達の太陽系が天の川銀河の中心から約二万六千光年、そして私達が今居るこちらの星は銀河の中心を挟んでほぼ反対側ですので水の惑星と約五万光年離れています』
シェルクナ女王様の個人授業のお陰で、大体伝えて大丈夫そうな事、ダメそうなことは分かってきた。
この星でもやはり地球と同じように夜空の恒星や変光星や系外銀河の観測を通じて銀河の大まかな形は推測されているようなので、思い切ってこの星と僕らの星の位置関係の説明とともに伝える事になった。
宇宙を旅してる宇宙人が宇宙の形を知らないって言うのもおかしな話だし。
『私たちの水の惑星はこの星とよく似ています。
液体の水があり、海を形成し、植物は光合成を行っています』
宮本さんの解説に合わせて僕らの星の海や森が映し出される。
会場全体が立体映像の投影場所となり、地球の海や山の様々な動物も併せて映し出された。
自分の横を通る大型動物の映像に思わず尻込みする後ろの方に座っていた偉い人達。
狐につままれるってこういう感覚なんだろうか。
『私たちの星にもこの星と同じく衛星もありますし、夜には周囲の惑星も観測できます。
水の惑星でも、夜空の惑星の動きを精密に観測する事で、数百年前にようやく自分の星の公転を算出しました。
それまでは、そもそも周囲の星が動いているのか、自分たちの居る場所が動いているのかで論争が続いていたんです。
これらの研究の積み重ねによって、物体の運動を数学的に説明できるようになりました』
いわゆる古典物理学だが、この星は、この辺りの知識はかなり早くに解明していたらしい。
こうして、立体映像を中心にした僕ら宇宙人のプレゼンテーションが終わった。
全体の質疑応答が始まるけど、大人がぐいぐい来るせいで小さい子が話せない、後で別に質問時間とろうね。
やはり僕らの星の技術や技術提供のための交渉といった質問が多い。
『私たちの取り決めでは接触や提供技術はある程度条件が決められて制限されており、慎重を期すようにと定められています。
安易に技術を提供して、星の正常な環境を破壊してしまった場合の責任をとれないという理由からです』
まぁここでブーイングする人は居ない。
母星の法律で決まってるんだから僕らに文句言われたって困る。
技術提供の条件も質問されるが、今回の事は緊急で決まって専門家が大急ぎでまとめてるところだから細かい事を聞かれても困る。
とはいえ、現段階で僕らの知らない場所で技術流出が懸念されている以上、宮本さんはがっつりと釘を刺した。
『私たちの母星が不適切な技術流出を確認した場合、何かしらの強硬な阻置をとる可能性があります』
宮本さんがそう答えたらちょっと非難めいたざわめきがあったが、文句があるならうちの政府に直接言ってください。言えればだけど。
……こういう取引の非対称が起こるから星を渡れない文明の星と交流しちゃだめなんだけど、今回は仕方ない。
技術提供に関しては割と個人の裁量に委ねられたけど、多少運用ミスっても宮本さんのせいじゃないと思います。
僕らの銀河諸星連合が暫定的に決めた裏のルールは、今回の調査で僕らが必要な味方を作るためなら僕らの個人的な範囲で技術協力をしてOK。これは秘密。
今回発表した公開ルールだと、この星の技術レベルで作れそうなやつはOK。
例えばの話だと、お布団があったらクッションも紹介していいんじゃないかな。製布技術と紐を結ぶ文化があれば和服やハンモックを紹介してもいいんじゃないかな、といったところ。
つまり、この星で研究が進んでる分野ではより多くの技術が提供できるわけだ。
そういう感じの事をお伝えしたため、講演が終わった僕らは今、もっぱら技術屋さんと話すことになった。
話を聞いていた各国代表がこぞって専門家を送り込んできたらしい。
僕らにとっては願ったり叶ったりだ。
専門家はえてして専門分野でのつながりが強い。どこかが地球の技術を使って不自然な技術革新をしていたら耳に入ってくる可能性が高いはずだ。
とはいえ、行方不明事件は数ヵ月前の話。
影響が表に出てくるにはしばらくかかるだろう。
『この星の鍛冶技術は発達していますし、私たちの星に数百年ほど伝わる、伝統的な剣の製作風景などはいかがでしょう?』
そういうわけで、僕らの星の文化の紹介の一環として刀鍛冶の立体映像を見てもらっている。実用性はあまりない資料版だけど。
やっぱりというか、ドワーフさん達を中心に熱心に見ている。
その間に別の質問を受け付けると、小さい子も学者さんもいっしょくたになっている、大丈夫かこれ。
さっきまで見ていた立体映像に関する質問が多い。作ってみたいよね。便利だし。
でも技術の詳細は明かせないし、この星の技術力分かんないし、霧に幻灯機を映すぐらい? 霧が制御できないから無理かな? いや、この星だと魔法で制御するかも……
専門家の話の合間に、宮本さんが小さい子の質問にも答えている。
『音は空気が伝言ゲームみたいにして伝わっていてですね~、でも空気は喋れないので、簡単に言うと何回タッチしたかで伝えているんですね~、それが耳の奥にある膜を揺らして―……』
映像も交えて音の説明から入っている宮本さんだ。何の説明をしてるんだろう? まさか超音波霧化の話は早いと思いますよ? 宮本さん。
と思ったけど、地球でも十九世紀には圧電効果見つかってるからいいのか……いいのかな? ほんとに何の説明してるんですか? 宮本さん。
『……―なので、溝の形から針が揺れ方を伝えて、その針の動きの通りに板が揺れると音、それがまた空気の伝言ゲームになって音になって聞こえるんですね』
あ、ちがうや、何を聞かれたのかは分かんないけど、この星の蓄音機とかの説明だ。僕らの星のとほぼ同じ仕組みのものがこの星にもあるってシェルクナ女王様が言ってた。
そうしたら学校の先生が後ろに居た小さい子たちに解説し始めた。
「音と振動に関しては山彦石が有名ですね。音を蓄えて再生しています」
魔導金属に引き続き、また僕ら地球人が知らない物体が出てきたぞ。山彦石って何?
「加工方法によって多少音色や音を発するまでの時間が変わるので研究用の他、おもちゃなどに使われているので見た事がある人もいるかもしれませんね。
山彦石の振動を紙に記録する実験を見たことがある人ー……」
先生の問いかけに、小さい子がばらばらと手を上げた。
先生は説明を続ける。
「そうしたわけで、音というのは波の形をしています。この波の形によって音が変わるのですが、波がぎゅっと詰まっていると高く、のびのびしていると低い音になります。波の高さが大きいと大きい音、小さいと小さい音になります。それでおもしろいのが、波の高いところ同士が重なれば大きく、高いところと低いところが重なると―……」
先生が説明してくれている間に、僕らはこっそり宇宙船内で連絡を取る。
― 宮本さん、これって音響機器に使えそうですよね?
― この星の技術で作れるなら特別措置をとらないで済むかもしれません。後で詳しく聞いてみましょう。
この山彦石と翻訳された物体。バレアに協力してもらうのに必要なやつかもしれない。
「せんせー、宇宙人さんの話聞きたいから静かにして」
先生かわいそう!!
先生の説明に子供たちが飽き始めた。多分いつも授業で聞いてるからだろう。
けっこう分かりやすい説明だったのに……。
そんなやり取りをしている後ろ、地球の刀鍛冶の映像を見ていた大人の方から、不意に声が上がった。
「これ、『月を恋う』じゃないですか?」
「月を恋うだよ」
「何でよその星に月を恋うが?」
『え?』
何それ?




