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12.がっこう

 一日目が終わってこの星の就寝時間。

 僕らは地上でそれぞれの案内された寝室に、自分の遠隔操作用ロボ、アバターロボットを安置して宇宙船内で活動していた。


「何か悪いですよね、ロボットには必要ないのに寝室とか」

「でもロボットとはいえ、床に転がしておくのも体裁が悪いですから。

 私はこの星の寝具とかを観察できたのでよかったですよ」



『収穫はあったかね?』

 画面に映る上司の杷木原さんの質問に宮本さんが答える。


「おおよそですが関係者を見つけました。証言による裏付けもあります」

「あまりにもあっさり引っかかったので罠かと思うぐらい」

 宮本さんの返事に僕が続けると、更に宮本さんが付け加える。


「はい、神村さんの言う通り。こちらに引っかかったのではなく、意図的に注意を引こうとした可能性もあります。

 向こうの情報が集まっていないので何とも言えませんが……魔法という未知の技術がある以上、油断はできません」

 まだ警戒すベきなのは確かだ。


 僕、神村と宮本さんは宇宙探索に来ていた地球人。偶然、不可解な謎の多い星を発見した。そこはエルフやドワーフ、魔族、獣人族と呼ばれる人達が暮らす星。

 ロケットも持っていないはずの文明レベルのこの星に、なぜか数か月前に地球で行方不明になった人がこの星に来ている可能性が出てきた。


 それが事実なら地球の技術流出などがこの星の環境に悪影響を及ぼす可能性がある。それを防ぐべく、銀河諸星連合ほぼ満場一致でこの星と接触を試みる事になった。

 この星では僕らは平和的な交流を目的としてやってきた『水の惑星』の『日本人』だ。


 この星を調べる上で更に問題なのは、ついさっき発見した、僕らの星にはない技術、魔法。


 杷木原さんが僕らの収集したデータを上に報告してくれたらしいが、やはり動揺が走っているらしい。

 このデータが確かなら、僕らの間でもまだ未解明な領域で、その謎を解き明かす技術になるかもしれないのだから無理もない。


 しかし、それはそれとしてこの星の謎と行方不明者の居場所を解明しなくてはいけない。

『情報を総合するに、東在帝領は要警戒だな』

 杷木原(はきばら)さんが、僕らの報告を見ながら続ける。


『しかし、環境は地球とよく似ているのに、なぜ生き物の姿がこんなに大きく違うんだろうか?』


「微妙な重力の違いが影響しているんでしょうか?」

「本来は地球もこれぐらい多様だったけど、生存競争とかで淘汰されて多様性が失なわれたとか……?」

『どちらもありえるな、ここまで似ている例はほかに報告が無いから比べようがないし、確かに地球は大噴火や隕石衝突などで遺伝的なボトルネックがあると言われている』


 分からない事ばっかりだ。


「ところで杷木原さん、明日の発表内容は送ったもので大丈夫ですか? 技術流出は懸念されますが、やはりいくらか宇宙人らしい技術を見せないと、一部の人には納得してもらえないと思うんです」


 明日はこの星の人達が集まるので、宮本さんが宇宙人として登壇して色々お伝えする予定。


 僕ら宇宙人を見に来た人たち、いくらなんでも古城とその周辺に全員泊まりきれなかったので、近隣の街から日帰りでやってくるらしい。


『発表内容はこんな感じでいい、最初にドンといこう、パッと見なら仕組みが分からないものも多いはずだ』

 杷木原さんからGOサインが出たけど、それ、この星にない技術結構使ってますよね?


「技術流出のセーフとアウトの境目が分かりづらいんですけど」

 僕がぼやくと杷木原さんも困った顔をした。

『仕方ないだろう、前代未聞の事態が続発してて専門家の間でも紛糾してるんだから。

 協力者の選定や、その人達にどの程度情報を開示するかは適宜そちらに任せる。可能な限り援護はするつもりだ』




 そんなわけで翌日、人は大勢来たのだが、親子連れも居るらしく、小学生ぐらいの姿も見える。人数はかなり絞られているが、先生が引率して学校単位で宇宙人を見に来てる子たちが居る。


 驚いたのは人種や社会的身分に関わらず、基礎教育がそこそこ整っているらしい事。色々問題視されている東在帝領でも読み書き計算程度は全種族にほどこされているようだ。


 大陸共通語のお陰で教材にほとんど格差が出ていないらしい。大陸からちょっと離れた島国だとまた言語が大きく違うところもあるらしいので、そこはこれからの課題だろうか。

 でも、この星の教育とかが見れたのはよかった。



『今、授業ではどういう事を勉強していますか?』

「たし算ができます!」

『へ~、先生、やってみてもらっていいですか?』


 宮本さんの質問はおちょくってるわけでも小さい子に花を持たせてあげようというのでもない。

 先生が女の子に問題を出すのをじっと見ている。

「十二の単位で11+5は?」

「16です」

「では八の単位では何といいますか?」

「16」

「十の単位で16は?」

「16です!」


 機械翻訳では何をやってるのか分からないが、宮本さんが注意しているのは実際の発音と指の動き。


 宮本さんが宇宙船内で話しかけてきた。


 ― やっぱり十進法と八進法と十二進法があります

 ― この星の基礎教育ハードル高すぎませんか!?


 僕らは自動翻訳が勝手に十進法に変えてくれるから何とかなるけど、これは理解しておかないと変な行き違いが起こる可能性がある。

 確かに地球でも昔は世界中で独自単位使ってたし、あちこちに昔の名残が残ってるから、この星がそういう過程をたどってても全然おかしくないんだけど……。


 この星、三種類の位取り記数法が併存していて何進法かによって同じ数でも呼び方も全然違う。多分別々の文化圏が交易とかをすることによってこうなって、まだ統一されてないんだと思われる。

 地球で例えるなら八進法のときは日本語で読んで十二進法を英語で読んで十進法だと中国語で読むような感じだろうか?


 えーと、十二進法を0,1,2,3,4,5,6,7,8,9,t,e,10,11,12,13,14,15……として……

 さんじゅう=twenty=二十四……かな?


 この星では同じ数の呼び名がこのありさま。大変だ。

 慣れれば何とかなるものなのかな?


 こういうのを見ると世界を一つにって本当に難しいみたいだ……。自動翻訳が無い状態で十進法を捨てて八進法に変えろとかなったら戦争になると思う。少なくとも僕は嫌だ。

 あと、この星って種族で寿命がだいぶ違うらしいけど、成長スピードとかはどうなってるんだろう? 税や教育機関の運営の仕組みはまだ教えてもらってないけど、成長に差があるなら絶対に不公平感で不満が出る。



 そんな事を考えていたら不意に小さい子にアバターロボの足を蹴られた。

 小学三年生ぐらいだろうか、痛くはない。


「おいお前、神村シラセっていうんだって?

 人族のクセにドワーフ贔屓かよ」


 何でドワーフ? と思ってしばらく考えてたけど、多分あれだ、名末ってやつ。

 レオス君の付き人の名前がディネさんだったからドワーフの名末はエっぽい音なんだろう。

 そうなると人族の名末は? 東在帝領の使節団を検索すると……ザヌって人とギルシル……ウかな? この星の母音がアイウエオかは自信ないけど。

 ……レオス君もウだから獣人族と人族って近い扱いなのか?


「おい! 無視すんなよ!」

『シラスだとうちの星ではちっちゃい魚とかの名前っていうイメージが強いからなぁ……』


 僕の返事に少年は少しぽかんとしていたが気を取り直して食ってかかってきた。

「うそつけ! 人間以外の名前はイに決まってるだろ! 魚の名前だってイで終わるんだよ! そんな事も知らないのか?」


 小さい子の思い込みあるある。この星の文法や命名のルールが地球に通用するとは限らない。逆も然り。

 じゃあ、そのルールを適用すると、この星ではシラスはシラシになるの? そして母音、五つでいいんだろうか? エルフと魔族の名末とか人族と獣人族の名末、似てる音だけど違う可能性がある……何か混乱してきた。


 そうしていたら一人の男性がこっちにやってきた。怒っている様子だ、騒いでたから注意に来た先生か、お父さんかな?


 と、その大人は少年に向かって手を振り上げた。

 それを見た瞬間、全身の血が逆流するような寒気が走る。

「よさんか! 恥知らずが!」

 少年を怒鳴りつけるその声が聞こえた瞬間の映像はほとんど記憶にない。一瞬小さい子の怯えた表情が見えたような気がした。


 気がついたら大人の人は少年の横に尻もちをついてあっけにとられた顔をしていた。怪我はなさそうだ。

 手に感触が残ってるから多分僕が放り投げたんだと思う。

『すいません……えー……と、ぶつほどでもないかなー……って……』


 僕は頑張って目を細めて頬の筋肉を上げる動作をしようとしてるんだけど、多分笑えてない。


 宮本さんが向こうからすっ飛んできて、僕はその勢いのまま控室に放り込まれた。


『お騒がせして申し訳ありません―…お怪我―………水の惑星では…………―がありまして―…児童………体罰に―……』

 宮本さんの声を扉の向こうに聞きながら意識を隣の部屋から離す。

 せっかく宮本さんがストレス源から隔離してくれたんだから向こうに注意を払うだけ損だろう。



 控室の死角からバレアがそっと様子をうかがってきた。こっちの顔を見て怪訝な表情を浮かべる。

 何で彼が僕らの控室にいるかというと、まだ僕らを偵察するためにどこかに潜んで監視してる設定だからしかたないね。


「神村何やってんの? 人でも殺したの?」

『ただの休憩』

 雑談で間を持たせないとやってられない。


『そういえばバレアは数ってどう数えてる?』

「? 数は数えるだけだろ?」

『八の単位とか十の単位とか』

「んー……十二の単位をよく使うかなぁ。八は数え間違えること多いし。十の単位は何か半端な感じするんだよなぁ。十二の単位なら区切りがいいし」

 バレアと仲良くなれるか不安になってきたぞ……どんな数え方してるんだろう……


『……ところで、この後で例の発表があるから、打ち合わせ通りにしてほしいんだけど……』

「んー、わかった。それまではここに居ればいいな」


 バレアが部屋の隅の死角にごろんと横になった時。宮本さんから通信が入った。


 ― 神村さん

 ― 宮本さん。やっぱり僕、着陸船で留守番ですか?


 相手の人、怪我はなさそうだったけど、バレアや髭の人のときと違って過剰防衛と言われてもおかしくないし。


 着陸船の留守番かぁ、嫌だなぁ、絶対ヒマ。

 兵士さん達が見張ってるし、着陸船本体も防犯対策されてるし。


 そんな事を考えてたら、宮本さんから思いがけない返事が返ってきた。


 ― いいえ。この星では、あのような身分のある人も居る集まりで子供を叩くというのは非難される行為だったようです。相手方に怪我がないこともあって、神村さんの行為は多少強引でしたが、咎められるものではありません


 やった、無罪放免。


 でも、そんな話聞くと宇宙の彼方でも子育てって大変そうだなぁと思う。


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