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どろゆり – 東陽女学院編  作者: 富士見永人
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 数日後。白百合財閥がそのありあまる権力と財力を総動員した甲斐もあってか、犯人は数日後にあっさりと見つかった。

「彼女が貴女に接近していたのはわかっていたから、あとは証拠を掴むだけだったわ。案の定すぎて小説としては意外性に欠ける気もするけれど」

 ピンク色のメルヘンチックなソファの上で、凛々亜(りりあ)は隣に座る平子(ひらこ)にそう言い、頬に軽く口づけをした。

 こんこん、と、遠く離れた(きら)びやかな装飾の施された豪奢な扉がノックされ、黒いスーツにサングラス姿のいかつい男の姿が天井付近に設置された百インチはあろうかという巨大液晶テレビに映し出された。

『凛々亜お嬢様。〈標的〉を連れて参りました』

「お入りなさい」

 凛々亜がそう命令すると、扉の施錠がひとりでにがちゃりと音を立てて開錠され、モニターに映し出されていた大柄な黒服の男が入ってきた。

 その脇には腕を背後で縛られた、聖華純(ひじりかすみ)の姿があった。

「いったい何のご用でしょうか。凛々亜さま」

「自分の胸に訊きなさいな。華純。証拠はすでに掴んでいるのよ」

 凛々亜がスマートフォン(メロン社の最新スマホ、ワイフォーン11プロ)を印籠のごとくかざすと、そこには華純が大きな紙を持って夜の学校に忍びこむ姿が映し出されていた。サーモグラフィを彷彿(ほうふつ)とさせる色鮮やかな赤や黄、緑などが入り混じったけばけばしい画像だったが、極めて解像度が高かったため、それが華純であることは確定的に明らかであった。

「変装して侵入したまではよかったけれど、我が校のセキュリティを甘く見ていたみたいねえ。東陽の監視カメラは変装した侵入者の正体も瞬時に暴き出せるように超高性能の顔認識赤外線サーマルカメラによって一寸の死角もなく監視されている。たとえ着ぐるみを着ていたところで中にいる人間の精細な画像が手に入るという優れものよ」

「そんなものが」

 観念したのか、華純の顔が絶望に染まり、へなへなとその場に座りこんでしまった。

「さて。何か弁明はあるかしら。華純」

 そんな華純を、凛々亜はいじめるように問い詰める。


「あなたさまが、下谷さんのことばかり見ているから」


 華純の声は震えていた。(せき)をきったようにその眼尻からは涙が溢れだした。

「あなたさまの隣にいるべきなのは、この私、シオングループ会長の孫娘である聖華純。なのに、途中からしゃしゃり出てきた下谷さんが、それをよよよ、横取りして」

 懺悔(ざんげ)し許しを請いながら、しかし徐々に怒りがこみあげてきたのか、その眼には親の仇を見るかのごとき憎悪の光が爛々(らんらん)と輝き出す。

「貴女いったい何様のつもり」

 華純の言葉を遮り、凛々亜は感情的に叫んだ。

「私の隣に誰が座るか決めるのはこの私、白百合凛々亜よ。なぜ貴女が私の生涯の伴侶を一方的に決められるなどと、そんな傲慢な勘違いをなさったのかしら。不愉快ですわ」

「なら。凛々亜さま。あなたさまはこの華純より彼女を……下谷さんを選ぶというのですか。なぜなのです。私は下谷さんよりもはるかに優秀で、家柄だっていいし、あ、あなたへの愛だって、この世界の、だだ、誰にも負けない」

 何かを覚悟したように据わった眼で。


「私のすべては、凛々亜さま。あなたさまのモノです」


 宮廷にもひけをとらぬ凛々亜の広い部屋を、数瞬沈黙が支配した。

 自分は凛々亜の所有物だ、と。

 そう言ってのけた華純の気迫、覚悟に、平子は圧倒されていた。

 自分は凛々亜のためにここまで言えるだろうか?

 華純に代わって凛々亜の隣に立つ資格が、本当にあるのか?

 そう思いさえした。

「もしあなたさまが死ねとおっしゃるなら、今すぐここから身を投げます」

 だめだ、この女はイカレてる。もしこの場で自分が凛々亜の恋人だと宣言しようものなら、何をしでかすかわかったものではない。

 平子には凛々亜と心中する覚悟などなかった。凛々亜はすべてにおいて完璧な女性で恋愛感情も芽生えつつあったし、平子に凛々亜を拒絶する理由も動機もなかった。が、しかし凛々亜と共に歩むということは、もれなくこの厄介者がついてくるということだ。ああ、めんどくさい。凛々亜がこの場で華純に「死ね」と命じれば、すべては丸くおさまるのに!

 判断を誤れば、最悪このイカレポンチが邪魔な恋敵(わたし)を夜道で背後からブスリとやる可能性すら否定できない。現に眼の前のこの女は私を貶めるために真夜中の学校に不法侵入しているではないか。目的のためなら犯罪行為すら辞さない。こいつはそういうやつなのだ。畜生、人のことをさんざん平民だの何だの言いおって、自分はその平民以下の犯罪者のくせに!


 凛々亜の沈黙を迷いと捉えたのか、華純は意を決したように立ちあがり、凛々亜を奪取せんと抱きつき、その唇に愛の証明(キス)をした――

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