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女子校で女同士の恋愛が蔓延しているなんて少女漫画か何かだけの与太話だとばかり思っていた。
しかし。自分は現にこうして眼の前の女に抱かれ、濃厚な接吻をしている。
天下のお嬢様学校である東陽女学院三年、校内では知らぬ者などまずいない生徒会長にして日本有数の財閥白百合グループ総帥の孫娘、白百合凛々亜に。
「何だか他の娘とは違う匂いがするのよねえ。貴女」
凛々亜はすぐ隣で寝そべっている、彼女よりはいくぶん小柄な少女のあごを指さきでくいと持ちあげ、蠱惑的に微笑んだ。天は二物を与えずというが、大財閥の娘というだけで宝くじにあたったようなものなのに、成績は全教科常に学年首位、七つもの習い事を並行し腕前はどれも超一流、さらにテニス部のエースとして全国大会で優勝した上に容姿も月下美人すら恥じらうほど美しい。
「褒め言葉、と受けとっていいのかしら」
どこか張りついたような微笑みを浮かべてそう返したのは、凛々亜と同じ東陽女学院一年生の下谷平子。凛々亜とは違って名家の生まれというわけでも成績が特に優れているわけでもなく、容姿もどこか地味で目立たない大人しいその他大勢といった具合だった。
「貴女に少し、興味が湧いたわ」
凛々亜は女神さながらに微笑み、その整った形のよい唇を、ふたたび平子の唇に重ねた。
学院のカリスマ生徒会長様が、自分のような凡人になぜ声をかけてきたのか、平子には理解できなかった。白百合凛々亜は、誰がどう見ても完璧な女性だったのだ。
……女癖が悪いこと以外は。