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いつかの約束

作者: こひぐま

書きたい世界を、短めですが書いてみました。

急ぎ足ですが、読んでみてください。


-仮想空間認知システム実装体験のご当選について-


早見 りこ様 ハヤテ様


この度は、弊社が研究を進めております『仮想空間認知システム通称VRI』の実装実験にご協力頂き、ありがとうございます。

厳選なる抽選の結果、ご当選されました事をご報告致します。




「やったー!ハヤテ!当選したよ!」


りこが突然大きな声で俺の名前を呼んだ。

どうしたんだ?やけに興奮ぎみだな。


「ちょっと心配もあるけど、これは貴重な経験だよ!ハヤテ、頑張ろうね!」


何をだ?俺はまだ、自分が置かれている状況がわからずにいた。

そうこうしている間に出掛ける準備が整いつつあった。俺は流れに身を任せ、そのまま家を出ることになった。



車に揺られてどれくらいたっただろうか?車は苦手なのでそろそろ体を動かしたくなってきた。あー、早く全身を伸ばしたい。


「着いたみたいだよ!降りようハヤテ!」






「早見りこ様と、ハヤテ様ですね。お待ちしておりました。私、今回お二人の担当をさせて頂きます、松島と申します。よろしくお願いいたします。」


松島と名乗った女性はそう言うと、りこと俺に向かって一礼し、俺達を先導しはじめた。

研究施設についての説明をしながら、長い廊下を歩いていくと、大きな扉が見えてきた。白い壁に覆われた廊下に、白い扉。…俺の苦手な病院みたいだ。ぷるっと寒気のようなものが走った。



「こちらの扉から先が、仮想空間認知システムの研究施設となります。これから先、幾つか行程を踏まえての入室となりますので、ご了承ください。」


「はい、わかりました。ハヤテ、行こう。」


俺は周りを警戒しながらりこの後に着いていく。病院独特の臭いはしないな。

扉を抜けると、その先にも扉があった。


「こちらで体の汚れを落としてからの入室となります。強い風が吹くので驚かれないよう、サポートをお願いいたします。」


ゴゴー


扉が開くと物凄い音と風が突然俺とりこに襲いかかってきた。


な、なんだこれは!?息が!目が!りこは!?


りこの様子を見ると、狼狽えるどころか楽しんでいる様子だった。

りこはいつもそうだ。昔、柿を採ろうとして大きな柿の木に登った時も、降りれなくて泣いてしまうんじゃないかと思っていると、けらけら笑いながら柿を皮ごと食べていた。

俺はいつ落ちてくるんじゃないかと思ってヒヤヒヤしてたのに。


「うへぇー、すごい風だったね。でも楽しかった!」


こっちは全然楽しくない。


「さぁ、よいよこちらからが研究施設になります。ハヤテ様はこちらの台の上に乗っていただき、こちらのゴーグルをお付けください。準備が整い次第、実験を開始致します!」


なんだこれは?何がはじまろうとしているんだ?俺は不安になりりこの顔を見つめた。


「大丈夫だよハヤテ。ちゃんと松島さんの言うことをよく聞いて、わからない事があったら何でも相談するんだよ!私は外で待ってるから、安心してね。」


りこはそう言って、俺の頭をぽんと撫でると透明な扉の奥へ行ってしまった。

りこは松島の言うことを聞けと言っていたが、本当に信用して大丈夫なのか?それも心配だが、このゴーグル少しキツイな。


「あー、ハヤテ様、嫌かもしれませんが少しそのままで。仮想空間へのタイブが成功すれば、締め付け具合も気になりならなくなりますから!」


我慢しろって事か。…仕方ない、ここは大人しく言うことを聞いてやろう。


「それでは、実験をはじめたいと思います。VRI起動。同期します。」


ヴォン


妙な音と共に視界に変な映像が入ってきた。

なんだ…あば、あばたー?


「ハヤテ様?松島です。こちらの声が聞こえますか?聞こえていたらお返事をお願いします。」


「ぁ、あ、はい、聞こえます。」


喋れた。まだうまく喉が使えないが、話すことができるぞ!それに文字も、はっきりと読める!なんだこれは!


「今、目の前に人間の画像が見えると思いますが、こちらがこの世界でのハヤテ様の姿となります。お好みの画像を番号で選択してください。」


好みか…

長髪の男、短い髪の男、背の低いのは子どもか?

この中から選ぶのか。どれもぱっとしないが、この短い髪の男にしよう。


「二番で頼む。」


「二番ですね。それではアバターを決定致します。この瞬間からハヤテ様はこちらの人間の姿で活動してもらいます。両手、両足、指の先まで動くか確認してください。」


松島の指示通り、体を動かそうと神経を集中させる。足の指を動かす。ほう、なるほど。意外と細かい動きができるのか。次に自分の手を見てみた。男の手はゴツゴツしていて動かしにくいと思っていたが、そうでもないらしい。ちゃんと細かい動きができる。


「ふむ。動く事に問題は無さそうだ。目も、色んな色味があってチカチカするがその内慣れるものなんだろ?」


「その通りです。さすが、勘が鋭いですね。ちなみにこちらのアバターは、全ての感覚を通常の人間レベル、つまり平均レベルに合わせて制作しています。なので、あまり無茶な動きはしないようご注意ください。」


ほーう、そういうことか。

なんとなく五感の感じ方が違うとは思っていたが…通常の人間はこんな状態で生活しているのか?体も重いし、なかなか不便だな。


「ハヤテ様。こちらでも意識レベルの同期を確認しましたので、仮想空間内での活動を開始しましょう!ますは町を散策してみましょう!ご自由に、ハヤテ様の行きたいところへ行ってみてください。」


「それはつまり、散歩しろと言うことか?」


「そうですね。注意点としては、ハヤテ様は今『仮想空間内で生きる人間』の姿をしていますので、振る舞いにお気をつけください。あまり逸脱した振る舞いをしてしまいますと、その…目のやり場に困ってしまいますので。」


俺はしばらく考えて、言葉の意味を理解した。

『郷に入っては郷に従え』か。


「俺の知識にも限界がある。りこがわからない事は松島に聞けと言っていた。それでいいな?」


「はい。大丈夫でございます。」


とりあえず、自由に歩いてみるか。




風が心地いな。天気もよく晴れてる。少し冷たさが残るそよ風、季節は…春ぐらいだろうか。いつもよりも目線が高いからか、はじめて来た町だから、とにかくとても新鮮な気分だ。

目のチカチカもだいぶ慣れた。鮮やかな色って、こいうことなのか。

ん?くんくん……遠くの方で何かの焼ける匂いがする。


「ちょうどいいですね。食べ物を食べてみましょう。もう少し歩いていくとパン屋さんがあります。お金は払わなくても大丈夫です。パン屋さんの中に入ったら好きなものを選んで手にとってください。あ、店員役のアバターを設置しておきますので、店内でのやり取りはそちらで行ってみてくださいね。」


「好きなもの…何でもいいのか?」


「はい!」


俺の好きなもの、肉だな。赤身の肉は特にうまい。焼いてあるものより、生に近い方がよりうまい。できばそううのが食べたいが…俺は店員の女に相談してみることにした。


「この中に生に近い肉を使った食べ物はあるか?肉をメインに食べたいんだ。」


「それでしたら、こちらの『ローストビーフサンド』はいかがでしょう?こちらは、パンはもちろんですが、ローストビーフも自家製で毎日作りたてをサンドしている自慢の品です!」


「そうなのか!それはうまそうだな!よし、ローストビーフサンドにする!」


「かしこまりました。」


そう言うと、店員は袋を取り出してその中にローストビーフサンドを入れ手渡してきた。

えーと、こういう時は、


「ありがとう!」


「美味しく召し上がれますように。またのご来店をお待ちしてます!」


ふむ、正しい作法だったみたいだ。

俺は袋からほのかに香る匂いに酔いしれた。そういえば今日は朝から何も食べていない。お腹がすいた。無意識に口が半開きになっていくのがわかる。これは、たぶん人としての正しい作法ではないだろう。口元に力を入れ、周りを見渡した。


「松島、これはどこで、どのタイミングで食べればいいんだ?」


「そうですね、近くにベンチがあります。そこに座ったら食べましょう!あ、そうでした、食べた際はなるべく感想を口に出してください。味覚部分を記録しておきたいので。」


「ふむ、了解した。では………」


俺は急いでベンチに座り、袋の中からローストビーフサンドを取り出した。

赤身の鮮やかな色、肉はこんなに濃い色をしているのか!食欲をそそられる!

俺は口を限界まで開いてかぶりついた。


「う、うまい!すごいな、味がすごくはっきりとわかる!パンチが効いている味だ!肉ってこんなに味が濃いものだったのか!?というか、この葉っぱ!結構いけるぞ。他の食材の味の濃さをほどよく濁している。食間もおもしろいな。何よりこのパン!さっきの匂いはこのパンだったんだな!すごく食欲をそそられる!」


「…………ハヤテ様は普段からおいしいお食事をされているんですね。はじめての体験でここまで味覚を表現できるなんて、すばらしいですよ。いいデータが取れました。」


俺は無我夢中でローストビーフサンドをぺろりと食べきってしまった。

普段なら食べ過ぎなくらいの量のはずなのに、まだお腹が満たされない。体が大きいと大変なんだな。


「ここはすごいな。これまでに経験したことないことがたくさんある。あるけど………」


「どうしました?」


「………りこと、りこと一緒に体験したいな。りこがこの場にいたら、もっと楽しいと思うんだ。しかも、今ならりこと対等に世界を体験できる。同じ目線で、景色を、空気を、ローストビーフサンドも、一緒に。」


俺は、俺はどうなるんだ?もしこのまま、こっちの仮想空間とやらに居続けたら…りこと同じ体験をずっと共有できる。けど、りこはここには居ない。


-「ハヤテ!こっちだよ!」「ハヤテ!一緒に行こう!」「ハヤテ!!おやつまた勝手に食べたでしょ!?」「ハヤテ、おやすみ。」-



「俺は……ちゃんと『元の姿』に戻れるのか?なぁ、松島。俺は元に戻れるのか?」


「不安ですか?」


「よくわからない。よくわからないんだ。けど、そうだな、不安かもしれない。りこに会いたい。とにかく今はりこに会いたいんだ!」


「感情のベクトルが上がっていますね。人間の数値レベルと近づいています。絆が深い証拠ですね。お見事です!素晴らしいデータが取れました。実験はここまでに」


「りこを探す!」


「えっ?ハヤテ様?」


松島が何かしゃべっている間に、俺は一目散に走り出した。

りこ、どこに居るんだ!?くそっ、走りにくい。この姿だと鼻も効かない。頼りになるのは、勘だけだ!野生の勘を働かせて、ただひたすら突っ走れ!


「ハヤテ様!落ち着いてください!そんなに動き回れるとデータの更新が追い付きません!」


「うるさい!お前はさっきから難しいことばかり言って、俺を惑わせてるんだろう!?りこはどこだ!」


「りこ様はこちらでハヤテ様の様子を一緒に観察しています!大丈夫です!」


「こちらってどちらだよ!俺は、人間になれた事は嬉しいが、やっぱり俺のままの姿で、俺の目線でりこと過ごしたい!お前が何を考えているかはわからないが、もう好きにはさせないぞ!」


そうだ!俺は松島の飼い犬じゃない!俺の主人は、りこだけだ!!


「………これはこれで貴重なデータですね。ですが今はそんな事を言っている場合ではないようです。これ以上動かれるとハヤテ様の意識がデータに紛れてしまいます。強制終了です!」


ヴォンヴォンヴォン


「うわっ!?」


妙な音と共に、それまで感じていた『走る』感覚が無くなってきた。同時に視界がぼやけて…いしきが…………

まけるか…まけてたまるか……………こえを…………だせ………



「うぅぅ、」



パカッ


急に頭の締め付けが無くなった。


「ワン!」


「ハヤテ!!!よかった!無事!?私がわかる??」


「ワンワンワン!!」


りこ!よかった!会えた!俺は全身で喜びを表現した!


「うふふ。ハヤテっ、くすぐったいよぉ。」


「ワン!」


「お二人の絆は本当に素晴らしいですね。幼少の頃からご一緒だったと聞いていましたから、私達もどんなデータが取れるか楽しみにしていたんが、予想以上でした。」


「お役にたてたならよかったです。」




りこと松島の話によると、今回の実験は、人間と同等の感覚・価値観を動物に与えた場合、人間の姿と動物の姿、どちらを選択するのかを調べていたらしい。


日常的に人間とふれあう機会の多いペットを対象に、仮想空間で少しの時間、人間としての生活を体験させ、その後改めて元の動物の姿ですごし、もう一度仮想空間で会話ができる状態にしてからアンケートを行う予定だったそうだ。


俺の場合は、りこと一緒にいた時間が長かったせいか、りこへの忠誠心が強く反応して暴走しかけてた…らしい。


この研究の目標は、病気で動けなくなった動物たちに仮想空間内で、のびのびと余生を過ごせるようにすることらしい。しかも、仮想空間で意思疏通がとれれば、動物たちにどう過ごしたいのか直接聞くことができると。


「ハヤテ………あんまり考えないようにしてたけど……ううん、やっぱいいや。ハヤテは私を選んでくれたんだよね?私も、どんな時でもハヤテと一緒だよ。だから、これからもよろしくね。ハヤテ、大好きだよ!」


りこ、俺はずっと、りこと一緒だ。


「ワン!」


ここまで読んでくださりありがとうございます。

不慣れな点がたくさんありますが、また機会があれば書きたいと思います。

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