死に損ない
誤って『七題会談』にこの話を投稿してしまいました。
大変失礼しました。
――ビュウビュウと、夏に近いのに冷たい風が吹き荒ぶ。
そこは廃墟にぽつんと立つ廃ビルだった。
リカに一度だけ行こう、と頼み込まれ、私たちはここに来ていた。
リカの死に場所の候補の一つ。
汚いところはイヤ、というリカだが、廃墟は別だった。
それでも、虫が湧くような古い所はあまり選ばない。
このビルも比較的綺麗な状態だ。
それに・・。
その屋上から眺める景色は絶景だった。
同じような廃ビルと工場の群れを見渡すことができる。
その向こうの山には曇ったように霞む太陽と、
霧が雲と同化したようにたなびいていた。
私たちは声もなくその美しさに魅入っていた。
リカが一歩自然に屋上のへりに歩み寄った。
柵などはなかった。
立ち入り厳禁の札をくぐり、鎖が劣化した所を通ってきたのだ。
もともと落下防止などの措置が甘かったので、
廃屋になったのだろう。
私は、怖くなかった、と言えば嘘になるが、
リカの隣に並んだ。
何度思い出しても、私はそのときの気持ちを言葉にできない。
リカが落ちてしまいそうで、
いや。そこから飛び降りてしまいそうで不安だったのだろうか?
いや。置いていかれるのがイヤだったのだろうか?
いや。リカに私が臆病者と思われるのがイヤだったのだろうか?
それとも・・私が先に飛び降りたかったのだろうか?
そのいずれもだったのかもしれない。
だが、それは全部私の頭から抜け落ちてしまった。
――――リカが、私の背を押した。
――――落ちる。
私の頭を巡ったのは走馬灯ではなかった。
ただただ落ちてゆくイメージ。眩暈。
その気味悪さに。
私は踏みとどまってしまった。
はっとして私はリカを見た。
リカの顔は死人のようだった。
ぼけっと突っ立つ私よりよほど動揺していた。
一瞬、私を突き飛ばしてしまったことを後悔しているのだと思った。
でも、違った。
「・・・・・・・ナツの、嘘つき・・っ!」
ポツリと吐き捨て、リカは駆け去った。
こうして私は悟った。
リカは私が踏みとどまってしまったことに失望したのだ。
私が飛び降りたなら、
リカは続けて迷いなく飛び降りるつもりだったのだ。
それほど、私はリカに信頼されていたことに、私は今更気付いた。
だが、リカはその歪な友情が、
自らを生に縋らせるのを恐れたのだ。
だから、こんな試すような真似を・・。
私は、その想いを裏切ってしまった。
―――こうして、私は死に損なってしまった。
その上に、かけがえのない友情も失ってしまった。
そのことの方が、私を打ちのめした。
私は、死ぬことよりもリカとの友情の方が、大切だったのだ。
だいぶ早く終わりそうで、あと三話ほどで終わる予定。
ですが、作者は長文制作機になりがちです。