二人の日常と異常
――「ねぇねぇ!ナツ!これっ!いいと思わない?!」
教室に入ってきた途端、リカはスクラップブックを広げた。
その派手なマニキュアの爪先には、崖と綺麗な青い海の写真。
「こっちもオススメなんだけど。」
別の写真は、西洋風の彫刻がされた橋の写真。
「・・・好きだよね!リカこういうの!」
旅行先の写真のようだが、違う。
・・・・・飛び降り。
リカの趣味は、飛び降りるのに良い場所を探すこと。
「・・・やっぱりナツはこういうの、キライ?」
「う~~~ん。やっぱり私は・・ちょっと・・。
ごめんね。私は臆病だから・・。」
飛び降りは怖い。
高所恐怖症とまではいかないけれど、胃が寒くなる。
刃物類の痛いのもイヤだ。
できれば、眠るように逝きたい。
欲張りで我儘だ。
「そんなことないよ!私だって汚いのはイヤだし!!」
ブルブルとリカは大袈裟な身振りで首を振った。
「一生ものなんだから、もっとこだわらなくちゃ!!」
すごいなぁ・・。リカは前向きで。
私は、こんなふうに考えられない。
自殺に前向きもないだろうけど。
・・・たしかにリカも私も異常なのだろうけれど。
リカは自殺を結婚のように自然なものと思っている。
それも異常なのだろうけれど、私は羨ましかった。
私は・・ただその異常さからの孤独に耐えられなかった。
本当に向き合う勇気がなかった。
だから。
仲間が欲しかった。
この孤独を分け合って、一緒に逝ってくれる人が。
それが、リカだった。
リカだったら、一人でも気にしないし、
仲間には苦労しない性格だと思うけれど。
リカも仲間を探していたのだと言う。
そうして、私たちは意気投合して。
自分たちの死に場所を探し始めた。
それは禁忌の蜜の味。
皮肉にもそれは今までの怠惰で虚無な
死んだような甘ったるい日常より。
生きる実感に満たされた煌めくような日々だった。
――「ねぇ。ナツ。一緒に逝こうね。」
「うん。リカ。約束。」
こうして今日も、私たちは小指を絡めて指切りする。
閲覧・ブックマーク、ありがとうございます!!