6-2
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「ルフロッテ?!」
話を切り変えるように奥に向かおうとした姿が、突然足をもつれさせた。
ニコライは倒れそうになった両肩を掴んで抱き留めた。その表情を覗き込むと、がくりと膝をついた姿は顔を真っ青にして、何かを呟くように微かに唇を震わせていた。
「おい、ルフロッテ!」
ニコライが肩を揺すっても、力なく首をのけ反らせただけのエイリオの意識は既にない。血の気の引いた青白い喉が、やけに目に着いた。
「止せ」
また揺さぶろうとした腕を引き留められて、ニコライは漸く我に返った。
視線でソファを示されて、慌ててぐったりとした姿の肩に腕を回す。小柄とはいえ、易々と持ち上げられる程、今の彼は軽くない。
そっと寝かせてから、呼気を伺った。規則正しいものの、やはり顔色は良くない。顔を横に向けて襟元を緩めた。
「毛布か何かはあるか」
「っ……持って来よう」
フラムは自らの上着を脱いでエイリオにかけると、その表情を覗き込んだ。瞼の裏を伺い、喉元の脈を探る。
すぐに戻って来たニコライに、毛布を足の下に入れるように指示して胸をなで下ろした。
「……大丈夫そうか?」
フラムの様子に、居ても立っても居られないニコライは詰め寄る。
「ああ、安静にしておけば問題ない。多分、拒絶反応を起こしたんだろうしな」
「どういう事だよ」
「こいつの中で、何かがエイミーの琴線に触れたんだろう。手がかりがあるとしたら、そこだ」
意を得たフラムは立ち上がると、先程エイリオが上司と共に向かった奥へと向かおうとした。
「何をするつもりだ?」
「こいつを預かる。その為に、あんたたちの上司とやらに少し、な」
具体的な事を聞くのは、何故か憚れた。暗に、聞くなと背中が言っていたからかもしれない。
「……なあ、リドリーさんよ? 俺に何か、手伝える事はあるのか?」
代わりに口を突いた言葉に、ニコライ自身も驚いた。
フラムは微かに口元に笑みを浮かべた。
「忘れるな。こいつの悩みも、気持ちも、可能な限り」
「まあ、努力するよ」
それは、人を笑った自分への嫌味なのだろうか。思わず苦笑してしまい、その視線から逃れるように、静かに横たわる姿へと目線を落とした。