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5-2


「少々不測の事態に巻き込まれたんだ。戻りが遅くなったのは、済まなかった。けれどニコライ、よく見てくれ。あれは男だ」

「ばーか、そんなの解って……」


 ニコライは何を言っているんだと笑い飛ばそうとして、言おうとした言葉を無くしてしまったかのように切る。

 僅かに首を傾げた姿に、エイリオも片眉を吊り上げて怪訝そうに見返した。


「どうした?」

「ああ、そう……あーそう、だな。

 ……変だな、お前が毎度、巡回ついでに男引っかけては、酷く返り討ちにしているのを拝むのが楽しい筈なのに……?」


 不思議そうにしたのは一瞬で、おどけた様子でまた笑った。


「ま、でもお前くらいなら男も女も関係ねえだろう? この人っ誑し?」

「あんたにそんな風に言われないといけない覚えも、まるでないけどね」


 忌々しいと言わんばかりに苦い顔をするエイリオを伺うニコライは、あくまで楽しそうに笑う。だがことりと首を傾げると、おもむろにエイリオの胸倉をわしづかみにした。


「んー?」

「な?! ……に、を、するんだ!」


 訝しんだフリをして撫でまわす、ニコライ手を許すエイリオでもない。


「このっ、煩悩!」

「痛っ」


 ニコライの小指を折る勢いで可動域外に引っ張ると、怯んだ隙に手首を捉えた。乱雑に引き寄せ、足払いをかけて体勢を崩させると、捻り上げて動きを奪った。


「気色の悪い手で私に触るな」

「ああああ、ちょ、ギブギブ! 悪かったって!」


 驚くほど低い声で告げたエイリオに、ニコライは根を上げた。ふんと鼻を鳴らして手を放した姿に、涙目が恨めしそうに腕をさする。


「ひっでえ、それがきょうだいの如く育った友人にやる事か?」

「生憎、手癖の悪い友人なんぞ、私にはいない」


 きっぱりと言い放ったエイリオは、嫌悪の目を向けた。


 ニコライは一瞬目を見開いて、悲しそうに腕を開いた。同情を得られる姿を探して、フラムに目を付ける。


「聞いた? あんまりだと思わない? お兄さん」

「ニコライ! 他人を巻き込む前に、少しは反省しろ!」

「なーんか、だってお前さ――――」


 だが。



「おいお前たち! 何をそこで遊んでいる!」



 不服を申し立てようとしたニコライも、突然かかった怒鳴り声には身を竦ませた。

 通りの向こうから、肩を怒らせてやって来る姿に、正反対に顔を向けてうえっと舌を突き出す。


 エイリオまでも、彼の姿を見た途端に眉間の溝を深くした。


 二人の反応も一瞬の事。すぐさま襟元を正すと、軽く頭を下げて礼を取っていた。執念深そうな奥まった目に睨まれたせいもある。


「ったく、このウスノロ共。評価を下げられたいか? 貴様らを指導しなくてはいけない、私の身にもなれ」


 のしのしとやって来てたその男は、ぞんざいに言い放った。


 エイリオやニコライと同じ制服に身を包んでいる事から、彼らの関係者であることは一目瞭然だ。

 彼らと違うのは、襟元に階級を示すピンが留められていることくらいだろうか。はち切れそうな腹を張り、程よく脂が乗っている事で重たくなった瞼の隙間から、じろりと二人を睨み上げた。


「理解したのなら、さっさと動かないか!」

「解っています」

「はーいはい」


 急かすように手を叩く姿に、ニコライが露骨に嫌そうにする。その隣で、エイリオも億劫そうに頷きながら、フラムに一瞥くれていた。



 じっと彼らを伺っていたフラムは、未だ怒りを燻らせているらしい男に目を移した。その表情からは、何を考えているのか窺い知る事は出来ない。


 やがて、何を思ったのだろう。


「失礼、道をお聞きしたくて、二人を引き留めてしまっていた。忙しいみたいだが、少し時間頂いてもよろしいだろうか」


 つかつかとやって来たフラムを、彼らの上司である男は胡乱げに見上げた。

 実に頭二つ分高いフラムに腹立たしそうにし、支部所の前に停められた紫電石車に目を向ける。忌々しく思っているのだろうと、その表情から手に取るように窺い知れた。


「……チッ。サコー、案内して差し上げろ。ルフロッテ! 直ぐに茶を入れろ」

「はいはい」

「直ちに」


 恐らく彼らにとってはいつもの事なのだろう。苛立ちをぶつけるような男の人使いに気にした様子なく、エイリオはフラムを一瞥して急ぎ足で支部所に入っていった。


 男もそれに続いて姿を消し、残されたニコライだけがひょいとフラムに肩を竦めた。


「気を使ってもらって悪いね、お兄さん。用は別なんだろうけど、気にしなくていいから」

「ああ」


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