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最後の戦いへ

 目が覚めると朝だった。既に男の死体はなく、僕一人が倒れている状態だった。身体の節々が痛い。あと、ナイフが掠めた場所が結構痛む。

「あんた、こんなところで何をしとるんかね?」

 呼ばれてびっくりする。振り返ると門衛さんが見回りに来たのか、訝しげに僕を見ながら立っている。僕は適当に言い訳をする。

「すみません。ここ、先日死んだ僕の知人の母校なんですよ。それで、申し訳ないのですが、勝手に入らせて頂きました」

「困るねぇ。すぐに出て行ってね」

「はい。すみません」

 僕は門衛さんに追い出されるように学校から追い出された。そして校門の前から校舎の方を見つめる。最後に彼の死んだ場所にもう一度いけなかったのが残念だけど、仕方ないか。

「あれ??」

 と、ふと思いとどまる。門衛さん殺されたんじゃなかったっけ?

「生きてた、よな」

 足は付いていたし。会話もちゃんとしたし。

「あいつ嘘を吐いていたのか」

 ほんの少しだけど、あの男のことを見直した、様な気がする。強敵だった。あいつとの戦いで拳銃を二丁とも失った。最後の戦い、あの女性との戦い乗り切れるんだろうか。そんなことを考えながら歩いていた。そしていつものレストランの前に着く。

「あ、ここ九時開店なんだ」

 思い出すのは相棒と話していた短かったけど濃かった日々。それと、遠い思い出。

「嘘つき。最後に戦うって言ったじゃないか」

 僕はぼそっと呟く。その後腕時計で今の時刻を調べる。

「八時か」

 開店まで一時間ある。だけど、ここで最後にココアが一杯飲みたい。

「よし待とう!」

 見上げると空は悲しいぐらいに青だった。そして、店は開店する。僕はココアを一杯飲み、最初に殺した男の家へと帰った。


 目を覚ますと夜になっていた。いや、正確に言うと、何度か起きたけど夜になるまで寝続けた。起きて何かをしたら、また何かを失うような気がして。さて、これが最後の夜だ。戦いに勝っても、負けても、最後の夜なんだ。カーテンを開けて外を眺める。もうこの景色には戻って来れない。きっと、この家の本当の主も、この家を出るときその覚悟で出たんだ。だから、僕もその覚悟で出て行く、この一時強引にお借りした家を。寝る前にシャワーを浴びたので机の椅子に掛けていたコートを羽織る。今日は最後の夜だから、ベッドを使わせてもらった。申し訳ないけれど、使わせてもらった。だって、最後の夜くらい温かいベッドで寝たいじゃないか。コートのポケットからナイフを取り出す。光は今度は赤く染まっていた。まるで、最後の夜を祝うかのように猛く走る光に少し腹が立ったけど、それは気のせいなんだと思う。

「この光の先に、あの人が待っている」

 最後に超えなければならない壁。僕は彼女と出会い、たくさん変わらされた。たくさん失って、たくさん手に入れた。

「よし、いこう!」

 僕は昨日は置いていた日本刀と、少女から奪ったスタンガンを確認して扉に手をかけた。

「さよなら。お世話になりました」

 誰に言ったのかは分からない。扉を開き階段を下りる。その時響いた靴と階段がぶつかり合う音は、とても切なく、悲しかった。


 ナイフの光に導かれ、僕は最後の戦いの場に来た。一歩一歩かみ締めるように歩いて、ここまできた。無論、移動にバスとかも使ったから、全工程とはいかなかったけど。場所はこの街の南にある港だ。向こうに一人佇んでいる。近づいていく、僕。

「やっぱり、あなたなんですね」

 そうでなければと思いもした。だけど最後に戦う人はこの人だという事実は覆せない。

「な、何故貴方がここに??」

 あれ、一方の彼女は驚いている。

「参加者は一人しかもう残っていないはず。なのに何故貴方がここに?」

「僕が、最後の参加者だからです」

「馬鹿な! 貴方が勝ち残ってこられるはずは無い! あの子に勝てたと言うの!」

 直感であの子がどの人物を指すのか僕には分かった。自分を主役と言って譲らなかったあいつだ。

「勝ちました。二人で、勝ちました」

「嘘よ! 私はあの子を殺すために参加者になったというのに! そんなの嘘よ!」

 今まで見てきた彼女とは明らかに様子が違っていた。今までの余裕がなくなっていた。

「勝ちました」

「嘘よ! 貴方は脇役よ、才能も力も無い。何故勝てたの! 嘘よ!」

「僕は勝ったんだ!」

「!」

 大声を上げる僕。それに驚く、彼女。

「止めてくれませんか、その脇役って」

「なっ……」

「僕は勝った! 脇役であろうとなんであろうと! だからここにいるんです」

 少しの沈黙。そして彼女は喋りだす。

「……そう。分かりました。勝ってしまったのですね。貴方が」

「はい。勝ちました。僕が最後の参加者です」

「分かりました。では、このゲームの選ばれた参加者として、貴方の願いが叶うべきものか否か確かめさせていただきます!」

 そう言うと彼女は右手に持っていた布に包まった長い棒を目前に持ってきて、勢いよく布を剥いだ。

「薙刀……」

「そう、これが私の得物です。さあ、貴方も自分の得物を出しなさい」

 僕は言われて刀を出す。彼女はそれを見て悲しそうに呟く。

「そう、拳銃は能力を使って失ったのね。それで、私と戦おうというのね」

「はい!」

 また、暫くの沈黙。その後、

「いざ! 勝負!」

 最後の戦いが始まった。


 二人の間を風が静かに通っていく。彼女は何かとても悔しそうに奥歯をかみ締めている。一方の僕も、刀の能力が分からないから、迂闊には攻撃できない。最悪スタンガンも有るけど、これには殺傷能力が無い上に反撃されたら、必然片手で持った刀で彼女の薙刀を受けなくてはならなくなり、そこで殺される可能性が高い。避けて通りたい戦い方だ。そんな思いもあって、相手の出方を窺っていた。と、彼女がそれまでの表情を捨て。深呼吸をする。息を吸い、吐ききる。その後、

「はああああああああ!」

 僕の身体を縛り付けようかと言わんばかりに気の入った雄叫びを上げ、僕に向かって走ってきた。

「来る!」

 僕は刀を両の手でしっかりと握り締める。彼女が薙刀を振り上げ僕目掛けて振り下ろす。鉄と鉄のぶつかり合う音がする。

「重い!」

 彼女の一撃は想像以上に重く、受け止めるので精一杯。続けて薙刀を器用に回し二撃目の突きを僕目掛けて放つ。それを全力で刀で払いのける。

「一撃目!」

 僕はあの人と同じように攻撃の数を数えることを怠らない。それがこの刀の能力に関係していることはおよそ見当が付いたからだ。また、鉄と鉄がぶつかりあう音がする。僕は何とか彼女の突きを払いのけるが、その払いのけられた勢いを殺さず、彼女はまた薙刀を回転させ今度は柄の先で突いてくる。僕はその速さに対応しきれず、その一撃を腹部に思い切り喰らう。数歩後ろによろめいた後、刀を持ったまま腹を抱えて地面にうずくまる僕。一方の彼女は余裕そうに、語りかけてくる

「さっき、攻撃の数を数えていたけど、何か回数が能力に関係あるのかしら?」

 僕はむせ返り応えることなど出来ない。

「そう、応える気、無いのね」

 違います! あなたの一撃が強過ぎて喋れないんです! 心の中で叫ぶが当然彼女には聞こえるはずが無い。

「どのみち、よくこの程度の実力でここまで生き残ったわね。あの子に勝てたわね」

 その言葉は驚きではなく、憎しみに染まっていた。僕はなんとか起き上がって刀をまた構える。ん? この刀さっきより重さが増している。確実に。そこで僕は初めて気付く。この刀は、振るたびに威力が増し、その代わり重さも増す武器なんだ。この調子だと後七回、つまり八撃目が限界だろうと予測する。

「さて、起き上がったことだし、再開ね」

「待っていてくれたんですか?」

 僕がそう尋ねると彼女は憎しみに満ちた表情で、

「当然よ、貴方に教えてあげなくちゃ。どれだけ自分が場違いな所にいるか、どれだけ間違ったことをしてくれたかをね」

 と言う。僕はそんな彼女の顔は見たくなくて寂しさから彼女に語りかける。

「僕の知ってるあなたは、もっと優しい顔の女の人でした」

「貴方は知らな過ぎるのよ。私のことも、自分のことも。私はもっと嫌な女よ」

 彼女の最後の言葉には悲しみが少し覗いていた。


 このままでは、受け止めるので刀を振るってしまい、確実に負ける。僕はあの人のように彼女の攻撃を受け流すなんてことはできない。攻撃するしか、ないんだ。会話は終わった、このままでは彼女がまた攻撃を仕掛けてくる。

「うおおおおおお! 二撃目!」

 今度は僕が雄叫びを上げ、彼女目掛けて刀を振るう。彼女はそれを何のことはなく柄の側で受け流し、その勢いを殺さず刃を僕の首に目掛けて放つ。僕は勢いよく突っ込んで行ったのを彼女に受け流されたので勢いあまって前に転んだ。それが幸運だった。おかげで彼女の刃の餌食にならずに済んだのだから。彼女がそれを見て半分呆れながらに喋る。

「よく、私の攻撃をかわしたわね。つくづく悪運の強い人」

「まだまだぁあああ!」

 僕は彼女の話など聞く耳持たず転んだ身体を起こし、

「三撃目!」

 刀を左斜め下から右斜め上に切り上げる。刀は確実に重くなっている。威力もそれなりに増しているはず。それが功を奏したのか彼女と薙刀を離れさせた。

「僕の勝ちです」

 刀を突きつけて彼女に言う。彼女はそんな僕を見て笑い出した。

「貴方、自分と敵の実力差が全くわかって無いのね。自分が私から薙刀を奪ったかのように勘違いをしている」

「な、そうじゃないですか。あなたは薙刀を離した」

「なら、四撃目を私に斬りつけてごらんなさい」

 僕は正直、嫌だった。多分彼女のことが好きだったから。だけど、今、目の前にいる彼女は僕が憧れていたあの人じゃない。そう思った。だから、殺すわけじゃないけど、これは戦いなんだ。

「四撃目!」

 僕は彼女に向かって刀を振り下ろす。彼女を斬るその瞬間を見たくなくて、目を閉じる。刀が何かにぶつかる手ごたえを感じる。

「気、入ってないわ。こんなことでは虫も殺せないわね」

 声が聞こえた時、正直少し嬉しかった。だけど、どんな姿で彼女が刀を受け止めているのか見るのが恐くて恐る恐る目を開く。

「!」

 その光景に驚く。彼女は僕の刀を左手で、素手で握り受け止めていた。

「そんなに不思議な光景じゃないわ。貴方、弱すぎるもの」

「手から血、出てますよ」

「人の心配をするのが好きね、貴方。だけどそんなことでは勝てない!」

 彼女はそう言うと刀を離し、右足で思い切り僕の顔を蹴飛ばした。

「ぐっ!」

 僕は思い切り後ろに飛ばされた。彼女が溜息を一息吐き語りだす。

「貴方が殺した男、私はその男を殺すために選ばれた参加者になった。これはそのための秘策。今まで、全てで負けてきた。だけど、ある日気付いたの。素手で戦ったことは無いって。だから、磨き上げた。喧嘩の技って奴を。まあオリジナルだけど」

 僕は、吹き飛ばされた先で何とか立ち上がる。刀はなんとしても離すまいとしっかり握り締めていた。

「そうまでして殺したい人。一体あなたにとってあいつは何なんですか!」

 僕は問う。だが彼女は、

「貴方には関係ない話よ」

 と語ることをしなかった。代わりに、

「あの子を殺せなかった。あの子に使うことが出来なかった秘策を貴方にとくとご覧に入れるわ。かかってきなさい」

 僕に喧嘩を吹っかけてきた。

「うおおおおおおお!」

 僕は刀を握り締め彼女に突っ込んで行った。

「五撃目!」

 刀をまた彼女目掛けて振り下ろす。だが今度は軽々と避けて胸に右で一撃パンチを喰らう

「ぐっ!」

 続いて左で一発、右で一発最後に回し蹴りを喰らい後ろに飛ばされた。

「まだまだぁぁ!」

 気合でまた起き上がる、そして六撃目を放つ。だが、また同じ。軽々避けられ殴り飛ばされた。

「七撃目!」

 そろそろ、持てる限界重量に近づいてきた。持ち上げるのがかなりしんどい。あの人なんでこんなもの十三回も振れたんだ。

「甘い!」

 今度は刀を右手で払いのけられて、拳と蹴りをお見舞いされた。

「くそおおおおお!」

 また飛ばされた先で立ち上がり、

「最後の八撃目!」

 最後と自分で言ってしまったことがどれだけの失言か最早分からなくなっていた。限界の一撃。だが、彼女は、

「無駄よ」

 やはり、それをかわし、拳と蹴りを僕に加える。また、僕は後ろに飛ばされた。

「ぐっ!」

 起き上がろうにも起き上がれない。それを見て彼女は嘆く。

「どうして、どうして、貴方が勝ち残ってしまったの」

「そんなこと、僕にだって分かりませんよ」

「貴方は脇役よ。なのにどうしてあの子に勝てたの!」

「だから、わからないっていってるでしょう!」

 僕は何とか力を振り絞って起き上がる。だけどもうこれ以上重くなった刀を持つだけの腕力はなかった。

「刀を捨てたわね。それでどうやって勝つつもり。それこそ喧嘩でもしようと?」

 彼女が呆れ半分に言う。

「それでも……」

「?」

「それでも……」

「どうするの?」

「それでも、負けられないんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁぁ!」

僕は何も持たず彼女に突進する。

「何を考えているの!」

「うおおおおおおおおおおお!」

 彼女に飛びかかる。彼女は動揺しつつも僕の胸に拳を放ってくる。それを喰らいながらも僕は彼女の胸に飛び込むことを止めずに、何発も攻撃を喰らい、やっと彼女に抱きついた。

「なんのつもり! 離しなさい!」

「嫌だ! 負けられないんだぁあああ!」

 僕はコートのポケットからスタンガンを出し、

「先に起きた方が勝ちだ」

 電力、電圧最大でスイッチを押した。彼女が電気を浴びて悲鳴を上げる。僕も電気を浴びる。彼女を押し倒したところで僕の記憶は途絶えた。僕は消え行く意識の中で思った。負けたと。

今回もご覧いただきありがとうございました。また次回もご覧下さい。

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