願いよ届け!
逃げる敵を追いかけながら、腕時計を見る。これは、俺が、あいつにプレゼントしたものだ。間違いない。
「僕と組みませんか?」
あいつがまさかこの戦いに参加しているとは思わなかった。久しぶりの再開は最悪のものだった。まさか、殺さなくてはならない人間の中に入っていたなんて……。あいつは、俺のことを覚えているのだろうか、忘れているだろうな。しかし、俺がやった腕時計を人質に出してくるとは思わなかった。まさか、本人の手元に帰ってくるとはな。
「待て!」
俺は適当な言葉を吐く。あいつと落ち合う所に敵を持っていけば良いんだ。あいつは、もう作戦場所に向かって走っていった。でも、あまり足が早いほうでは無かったが。と、突然男が止まる。
「なっ」
「何を驚いてるんだ? 待てと言うから止まって待ってやったんだろうが」
「なんだと?」
予想外の展開に少し戸惑う。男は俺を馬鹿にするような顔で言う。
「迂闊だなぁ。主役の俺を一人で追いかけるなんて。死ぬぞ」
「俺は負けない!」
「そうかい。なら、ここで一対一で勝負するとしますか」
「ちっ」
俺は舌打ちする。馬鹿だった。こいつが逃げるものだから上手く挟撃しようと思ったが、こちらがそう動くと見越して、各個撃破するつもりでいたとは。俺は銃を構える。
「だから、先に殺し合った方が良いんじゃないかって言ったんだ」
「あいつとは最後に戦う。そう約束したからな」
「やれやれ、脇役の癖に粋がるなよ」
「悪いが俺は主役だの、脇役だのに興味は無い!」
敵はあからさまに呆れながら言う。
「馬鹿だな、あんた。身の程を知らないって言うんだぜ」
「何とでも言え。俺は勝つ!」
「まあ、良い。そうそう、俺の得物も拳銃なんだよ」
そう言うと敵は拳銃らしきものを懐から取り出した。俺は敵に拳銃を撃たせまいと撃つ。だが、当たらない。
「どうなってるんだ!」
「これが違いって奴だよ、俺とあんたのな」
「うるさい! 俺はそんなもの認めない!」
「それじゃ、認めるに足るものを見せてやるよ」
「何だと!?」
そう言うと敵は拳銃をこちらに構える、俺は身構える。
「最初の攻撃」
何か奴の拳銃にも特殊な能力があるのか、何かを敵が宣言した。
「必中の一撃!」
銃声が鳴る。瞬間腹部に激痛が走る。
「ぐあああああああ!」
痛みで地面にうずくまる。どうやら敵の銃弾が腹に当たったらしい。大笑いする敵。
「どうだ、これが俺の銃の能力だ、しかも俺のはお前らのとは違う。特殊能力が三回使えるんだよ!」
痛みで意識が遠のいていく。
「わかったかこれがあんたと俺の格の違いって奴なんだよ」
「くぅっ」
「しかし、想像以上につまらないな。もうとどめをさしてもう片方と会いに行くか」
このままじゃ殺される。その時、頭に彼女の顔がよぎった。彼女の言葉がよぎった。
「負けられない」
「?」
「負けられない」
「まだやろうってのか? あんたの負けだ」
「まだだぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
俺は身体を起こす。腹から血が流れ出ている。意地で立ち上がる。
「うおおおおおお!」
「その気合いだけは認めてやるぜ。だが、あんたの負けは揺るがない」
銃声が鳴る。今度は左腕に痛みが走る。
「俺は負けない! お前に勝って。あいつと戦い、願いを叶える!」
銃を構える。敵は余裕なのか動こうとしない。俺は引き金を引く。銃声が鳴る。次の時、
「ぐあああああああ!」
相手が叫びだした。
「貴様、よくも!」
どうやら銃弾が当たったらしい。俺はフラフラしている意識を必死につなぎ止めて言う。
「言ったはずだ、負けられないと!」
「ちっ!」
男は走り出した。
「くっ! だが、その傷ではもう動くことは出来ないだろう。そこで死ぬのを待っていろ。あんたの仲間もすぐ後を追わせてやる!」
確かに、動けない。再び俺は倒れ込む。
「うぐぅぅぅ……」
このままでは、あいつが殺されてしまう。その時、腕に巻いている腕時計が見えた。思い出すあいつとの思い出。
「くそぉぉぉぉぉ!」
俺は再び立ち上がる。心の中で妻に謝る。
(すまない。俺はもう死にそうだ。だけど、あいつを死なせるわけにはいかないんだ。だってそうだろ、弟分は兄貴が守ってやらなきゃ駄目じゃないか)
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