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回顧

 目を覚まし、ベッドから起きあがる。携帯電話を見る。

「連絡は無し、か」

あいつが一人で戦いに出てからまだ連絡は来ていない。生きているのだろうか。心配だ。

「何偽善者ぶってるんだ。結局は殺さなくちゃいけない奴なんじゃないか」

自分に言う。と腕時計が目に入る。

「でも、心配なものは仕方ないじゃないか」


 あいつとの思い出。もう、だいぶ昔のことだ。

「仲間に入れてくれないか?」

「良いよ」

それは一番最初に出会ったときの話だ。俺は昔から友達という友達が居なかった。周りの人間が嫌いだったからじゃない。ただ、何を話せばいいのか分からなかったのだ。周りはゲームの話とかしていたが、俺はそんな物持ってはいなかった。話すと言っても少し、会話をするくらいだった。正直、寂しかったし、つまらなかった。そんなある日、塾からの帰り道にあいつはいた。どうやら仲間達と鬼ごっこをしているようだった。小さな子供と遊ぶのは少し気が引けた。俺の噂は聞かれているだろう、性格が悪い、と。それは、真実ではない。いや、自分で自分の性格は良いなどと主張するのは少しおかしい気もするが。実のところを言うと俺は大人が大嫌いだった。それは、両親のせいであるところが大きい。大人は子供を道具だとしか思っていない。それが、俺の持論だった。だから、大人達が話しかけても一切無視した。故に、俺は性格が悪いという噂が流布したのだ。まあ、そんなこんなで悪い噂が流れている身としては、そういうのを直に聞く、小さい子供と遊ぶのは少し躊躇いがあった。だけど、このまま帰っても、つまらない。そう思った俺は、勇気をだして言うことにした。

「仲間に入れてくれないか?」

戸惑う子供達。やっぱり無理かなと思ったその時、あいつは言葉を返してくれた。

「良いよ」

嬉しかった。嬉しかったので、つい本気を出して走って逃げて、走って追いかけた。俺が手加減しないので、皆、

「少しは手加減してよ!」

と怒っていた。だけど仕方ないじゃないか、楽しいんだから。そんな感じで俺たちは出会った。その翌日、この腕時計をあいつにプレゼントすることに決める出来事が起きる。

「俺は大人が大嫌いだ」

「えー、僕は大人になりたいよ」

「どうして?」

「格好良いじゃん」

「何が格好良いの?」

「腕時計!」

そう言われて驚いた。俺にとって腕時計は敵だった。それが格好良いから大人になりたいと言う。その時こいつ面白い奴だな、と思った。それからあいつとは長いことよく遊んだ。ある程度学年が行ったら遠いところに連れて行った。その都度あいつの両親は肝を冷やしたのだろう。申し訳ないとは思いつつも、思い切り楽しんだ。


 それから暫く経って、俺が高校受験で忙しかった時だ、あいつから相談を受けた。

「兄ちゃん好きな人が出来たんだけど……」

それはいわゆる初恋ってヤツですか。俺は勉強そっちのけで相談に乗る。俺はそれまで誰かを好きになったことなど一度もなかったから、かなり好奇心丸出しで話を聞いた。

「どこが好きなんだ?」

「か、かわいいところ、かな」

その子の家を聞いて、二人で行ってみる。こっそり建物の影に潜んで出てくるのを待つ。

「や、止めようよ……」

「問題ない。こういうのは情報が大事なんだよ。情報」

「じょ、情報……。それ本当?」

訝しげに尋ねるあいつ。俺は不愉快そうに応える。

「俺は嘘つかない。情報を収集し、敵の弱点を掴むんだ」

「弱点掴んでも仕方ないじゃない」

「それもそうだな。ええい、大事なもんは大事なんじゃい」

そう言うと、大いに不安そうにしながらも、

「分かったよ……」

そう応えた。実際、それまで誰かを好きになったことなど無いのだから、当然適当を言って力押ししたのだが、見破られることはなかった。

「あ、出てきた」

「お、あの子か」

見た感じよく居そうな雰囲気の少女だった。だけど、何となく好みは理解した。長い髪で華奢な子が好きなようだ。

「おい、告白してこい」

「な、なななななんだって!」

思わず大声で動揺するあいつ。面白い。

「今日は、そ、その情報集めだろう!」

「そんなはずはない。敵が目の前にいるのだよ、君? 撃たない兵士が何処にいる!」

そう言うと彼は、半ば呆れ顔で言う。

「嫌だよー。大体あの子は敵じゃないよー」

「むぅ、根性の無い奴め、ってこっちに来るぞ。これはもうやるしかない!」

一人で盛り上がる俺。一方のあいつは、

「う、うそ! ど、どどどどどうしよう」

思い切り動揺していた。面白い。俺は背中を押す。するとこちらに向かってきた少女の前にあいつが出る格好になる。俺は知らないふりをする。

「え、あ、えっと、あの、その」

「どうかしたの?」

「す、好きです……」

お、こいつ言いおりましたぞ! 心の中で大喜びする俺、が少女は微笑みながら、

「そう」

とだけ返した。な、嘘だろう。その言葉の返し方はないぞ。心の中で右往左往する。

「そ、そうなんだ! そ、それじゃ」

「ええ、また」

そう言って少女は行ってしまった。

「……」

「……」

二人だけが取り残された。

「あ、あは、あははははは……」

「あはははははは……」

「うわーん」

大泣きするあいつ、俺はどうしたものか困り果てたがなんとか家にまで送り届けた。その後しばらく、この話はお互いの中で触れてはならないものとなった。

楽しい日々が続いた。だが、別れの時がやって来た。俺が大学進学することになったのだ。

「大学進学するんだってね」

「ああ」

「どうして今日はまた?」

そう言われて俺はポケットの中から腕時計を取りだした。それを差し出す。

「これ、お前にやるよ」

あいつは喜んで受け取ってくれた。それからはもう二度と会わないだろうと思っていた。


 腕時計を見ながら、思い出し笑いをしたり、顔をしかめたりする。

「……やっぱり心配だ」

俺は再び電話を掛ける。生きていて欲しい。素直にそう思う。やがて、手にかけるであろうとも、今は無事でいてくれ。電話には出ない。メールを送る。

「死ぬなよな……」

今回もご覧いただきありがとうございました。また次回もご覧下さい。

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