SS.4月1日はツンデレの日
同級生の鈴菜が朝っぱらからいきなり電話してきたのは、春休みたけなわの4月1日のことだった。
「玲、あんた今日暇でしょ? ちょっとあたしの買い物に付き合いなさいよ。……い、言っておくけど、あんたに会いたいとかそんなんじゃないんだからねっ!」
まったく、人を叩き起こしておいてなんつー言い草。何様だよ。
ぶつくさ文句を言いつつも準備して待ち合わせの場所に出向くと、鈴菜は見慣れた制服姿じゃなく、なんというかすごく女の子らしい可愛い格好をしていて、思わずドキッとしてしまった。
僕がついじろじろと見てしまうと、鈴菜は居心地が悪そうに身じろぎして、いつも通りのちょっと不機嫌そうな声で言った。
「……なによ。なんとか言ったらどうなの?」
「いや、なんか制服姿を見慣れてるからすごく意外だったつーか、似合ってるよ。うん」
僕の感想に彼女は心なしか頬を赤らめてそっぽを向く。
「べ、別にあんたの為にオシャレしたんじゃないしっ。あんたに褒められても嬉しくなんかないんだからねっ!」
「はいはい。で、今日はどこ行く? レアな私服姿の拝観料代わりに荷物持ちぐらい付き合うぜ」
「そ、そそそ、そのっ映画とかっ!」
「は? 買い物に付き合えって話じゃなかったか?」
それではまるでデートではないか。
鈴菜が盛大に目を泳がせながら言う。
「い、一緒に映画見に行こうって約束してた女友達がドタキャンで。ち、チケットが1枚余っちゃったからっ! 誰か呼び出そうと思ってアドレス帳をチェックしてたらたまたま目についたのがあんただったからっ! べ、別に特別な理由があるわけじゃないんだからねっ! 映画の後で買い物も予定してたしっ!」
「ああ、そういうことね。いいよ。俺もちょうど暇だったから付き合うよ。で、なんの映画?」
聞いてみれば、ちょうど僕が観たいと思ってたやつだった。
「ああ、それならちょうど観たかったんだ。いいじゃん!」
僕の反応に、鈴菜がほっとしたように肩の力を抜いた。
「だ、断じてこれはデートとかそんなんじゃないんだからね! 誤解しないでよ!」
「しないしない。安心しろ」
両手をぱたぱたと振って否定してみせると、今度はなぜか鈴菜がぷうっとふくれっ面になった。
「……ねえ玲。あんた今日が何日か分かってる?」
「4月1日だろ?」
「今日は何の日か分かってる?」
「えーと、なんだっけ? あ、エイプリルフールか。嘘をついてもいい日。で、それがどうした?」
僕が聞き返すと、鈴菜は真っ赤な顔で言った。
「察しなさいよバカッ! い、言っておくけど、あんたのことなんか全然好きじゃないんだからね!」
Fin.