中国からの招待
「なあ、安藤頼むよ」
北朝鮮 龍城官邸 安藤執務室
黄第一書記が、安藤にすり寄るように懇願している。
最近では、黄が安藤の部屋に行くようになっていた。
「黄同志、それは無理だと申しあげた筈です。同志は、中国の属国に甘んじいたいのですか、それとも世界のキャスティングボートを握りたいのですか」
まあ、どちらにしても、主導権を握るのは安藤なのであるが。
「叔父を処刑してしまってから、駄目になってしまっていた中国との関係が、やっと良好になってきたんだ。
安藤だって、前回九段線の演習についてはいつかはすると。薄主席に伝えて良いと言ったではないか」
やはり、こいつは大馬鹿者だ。あれが、ただの引き延ばしの一環に過ぎないと、分かっていなかったとは。
「黄同志、あれはあの時、そう言うしか選択肢がなかったからです。今ロシアとの交易が一気に進んでいる。安全保障条約も調印した。しかしその間、中国は何かしてくれたのですか?」
黄も分かってはいる。前回の中国訪問で得られたものは、父の時代からの交易の正常化と援助物資の提供のみだ。
特に、それに追加して得られたものは何もなかった。
「安藤。そう言うが、父、祖父と良好な関係を築いてきたのだ。一度は危なかったが、私の代で関係が途絶えてしまう恥をかかさないでくれ」
安藤は、目の前でため息をつくのは何とか耐えた。
しかし、今回の中国訪問は避けたい。
「それで、もう一度確認しますが、中国の要望は九段線内と、尖閣諸島のから十二カイリ以内での軍事演習。
人工島に建てた、勇者の別邸の祝賀会。そして、ディル達5人の全員参加という事ですよね」
「そうだ」
いくら黄でも、これがかなり無理がある事は分かっている。北朝鮮の今までの示威行為とはわけが違う。
薄国家首席もそうだが、軍の要望が強かったと聞いている。
「黄同志。ソ連の時は安保条約を締結に行きました。だからこそ、あえて5人全員を連れて行ったのです。
中国の、しかも国際的にも認められていない人工島に、全員を連れて行く等あり得ません」
ここは死守しなければならない。ソ連の復活は粛々と行ったが、当然それでも世界はパニックになっている。
そんな時に無神経に、人工島開発を躊躇なく進めている中国と関わるのは、安藤としては絶対に避けたいのだ。
着地点を模索しなければ。流石に安藤も余裕はない。
「も、もし中国も安全保障条約を結んでしてくれるとしたらどうだ」
そう、黄は言ったが、思い付きだ。今のところそう言った打診などない。
仮にそういう打診があっても、中国の庇護など、いざとなった時はないのも同然だ。
「黄同志。まあ、これは貴方も、過去の反省を踏まえて欲しいところなのですが、中国とのその条約、本当に意味があるとお思いですか」
「そ、それは……」
もう、黄は言葉が無かった。
バンッ!
その時、安藤の部屋の扉が勢いよく開かれる。そこにいたのは、ミリスを先頭にディル達五人全員だった。
「安藤、ぶーちゃんから聞いたわよ!私たちのバカンスの予定を、キャンセルしようとしてるらしいじゃない」
安藤はカッと黄を睨んだ。黄は冷や汗を流している。
私が絶対反対すると読んで、先にディル、よりにもよって、ミリスに話をしていたのか。馬鹿な上に小細工を弄する等、もはや救いようがない。
安藤は本気で、黄を消し炭にしてやろうかと考えたが、もう交渉相手が変わってしまっている。
「ミリス、そんな予定はない。危険なんだ。旅行なら私が計画してあげよう」
何とかごまかすか、別の案に飛びついてもらうしかない。
「いやよ、私、南沙諸島の海にとても興味があるの。あんなキレイな海元の世界にもなかったの。それに、ソ連は寒すぎ、安藤のお仕事に付き合うから、行ってあげてるけど。旅行向きじゃないわ」
「危険なんだ、今までとは違う」
「安藤、アンタ。私たちの仲間にしてあげたけど。リーダーはディルなの」
クッ。全部いつもお前が決めてるじゃないかと、怒鳴りつけてやりたかった。ディルはいつも通り興味なさげだ。
「本当に危険なんだ。もう少し我慢してほしい」
「駄目よ。最近、みんな移動の時は別行動だったから、今回はみんな一緒に行くの。それとも安藤、私たちの邪魔をするの?」
安藤の探知魔法にミリスの殺意が反応する。
クソ、本気か。ミリス達、特にミリスに交渉材料というものは殆ど無い。楽しそうかどうか、これから楽しくなるかどうか。これくらいだ。他の仲間も基本ミリスの勢いに、押されてしまうとことがある。
目の前の遊びの予定にしか、興味が無いのだ。
安藤と一戦交えてでも。
安藤は、目を瞑り、数秒沈黙した。
「分かった。黄と一緒に楽しんできてください」
そう言われた瞬間、ミリスの目が輝き出した。殺意も一瞬で消えた。
「流石ね安藤。一杯、勇者達と楽しんでくるわ」
そう言って、黄を含めた全員を連れて出て行った。
計画を前倒ししなければ……




