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ディルの中国海軍演習の同行と、魔法の行使。
軍事パレードでの中朝の友好アピールは、全世界で連日ニュースとなっていた。
「中国は一体何を考えている!」
ロシア同様、友好関係をアピールするだけかと思ったら、とんでもない事をしでかしてくれた。
これで、南シナ海、東シナ海の軍事的緊張は一気に悪化した。
だが、岸は今のところ、安藤が戦争などを起こしたがっているとは考えていなかった。
北朝鮮の内政状況は驚異的な早さで安定してきている。人民にも、食料が必要量行き渡りつつある。
不穏分子の処刑なども、実際に他国の諜報機関と取引しているものに限られていた。
尤も、それにより、米国が作り上げた北朝鮮内の情報網は、壊滅的な打撃を受けていた。一応、情報リーク用に、大物数名は泳がされている様ではあったが。
なにより、北朝鮮は勇者達のデモンストレーションを行って以来、一度たりともミサイル発射実験を行う事もなかった。それに、今回の軍事演習に反応する様な事もなかった。
その為、今回の勇者の演習参加は、少なくとも安藤が自ら進んで発案したものではないと、岸は見ていた。
またニュースでは、中国の報道官が改めて、南シナ海における九段線の領有権、南沙諸島の人工島が自国領である事、東シナ海における尖閣諸島の主張の正当性をアピールしていた。
あんな露骨な威嚇行為をしておいて、正当性とは聞いてあきれる。完全な恫喝行為だ。
岸は頭に血が上ってきていたが、テレビ画面では報道官のスピーチ映像が流れ続けている。
「また南沙諸島において、新たに勇者ディル氏の邸宅を建築している。これにより中朝の友好関係は、更なる発展を迎える事になるだろう」
「な!」
総理執務室の誰もが絶句した。
米国も、人工島に建築中の建物がある事は把握していただろう。しかし勇者達の住居用だったとは。
「無茶苦茶だ!いくら軍部を押さえきれなくなっているからといっても、ガス抜きのつもりかは知らんが、こんなバカなやり方が有るか!」
遂に岸は頭に血が上った勢いで、机を強打した。
その様子を桐谷は少し困ったような顔で眺めていた。
「総理、少し落ち着かれてください。」
「すまない桐谷。米国に至急確認を頼む。今後の対応はどうなるのかと」
「承知いたしました。」
直ぐに桐谷は執務室を後にした。
「安藤がまともに見えてくるぞ。」
これに関しては安藤の案なのだが、安藤当人にとっても苦肉の策だった。
もし安藤が、隣で岸の言葉を聞いていたら「尖閣諸島の目とは鼻の先で、ぶっ放されなくて良かったでしょう?」と苦笑いしながら言っていただろう。
三十分後桐谷が戻ってきた。
「米国はなんと?」
「南沙諸島の領土主張に関しては、従来通りの声明とそれに併せて、今回の軍事演習とディル氏邸建設の非難声明。また自由の航行作戦の強化の示唆を行うとの事です」
「まあ、今のところそれしかないか」
実際、軍事演習自体は、国際社会が認めている中国の領海内で行われた。
勇者の住居に関しても、南沙諸島の実効支配における、既成事実積み上げの一つに過ぎない。
今まで以上の圧力をかけるというのは、実際は困難だろう。
ああ、これはもしかしたら、安藤がコントロールしたのかもしれない。根拠はなかったが、ふとそう感じた岸だった。
ロシアは今のところ、リリーの力を借りて、着々と国土の開発を進めていた。
しかし、中国とは違い、クリミア以来の強硬な姿勢は見せていない。
経済制裁によるものもあるのだろうが、毀損した国力を上げる事に傾注している様だった。
北朝鮮との交易は、今のところ順調に行われている様だ。
まあ、あちらも思惑があるのだろうけれど。
理由の一つに、各国から打診を受けている制裁解除、開発援助等について、ロシア側はまだ完全に突っぱねてきているわけではなかったからだ。
相変わらず、厄介な国だ。いや、厄介な男かと言うべきだろうか。
今のところ問題は何一つ片付く事はなく、増えていく一方だった。
円もそうだ。落ち着きかけていた円高傾向が、今日の中国のニュースでまた一気に円高に進んでしまった。
前回のハゲタカ狩りはかなり効果が有ったようで、今回はリスクオフの為の円買いが膨らんでいる分、しばらく様子見をすることになっている。
もちろん、介入ラインだけは、非公式に決定はしているが。
当然、株安も急激に進んでいる。 GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用損は過去最高に膨らんでいた。
マスコミや野党からは、岸の責任を問う声の大合唱が続いている。
まあ、これはいつもの事である。イギリスのEU離脱の時も、中国発端の同時株安の時も、下がった時だけは声高に責任論を掲げる。
後になって株価が戻れば、まるでなかった事のように忘れてしまう。
「まあ今回は、元の水準まで戻らん時は、世界が終わる時なのかもしれんのだが」
岸は一人呟く。
その時。
「クライドル様からお電話です。」
秘書官の一人に告げられ、岸は電話を取った。
「……。そうか、ありがとう。シェイラさんにも宜しく伝えておいてくれ。」
クライドルとの電話を切った。岸の表情が晴れる事は無かった。
都内某ホテル
「岸様は何と」
岸との会話があまり進まなかったようなので、隣で見ていたシェイラは少し戸惑っていた。
「うむ。汝に宜しくとだけ。あまり詳細な話にはならなかった。呼び出されるかとも思ったのだが、我もよく分からん」
クライドルの答えも歯切れが悪い。
「そうでございますか。でも、私はそれならそれで、よいのではと思います」
少し、天井を見上げるクライドル。
顔を下ろしシェイラを見る。
「そうだな。それならそれで構わんな」
「はい」
シェイラはいつも通りの笑顔を、クライドルに向けた。




