中国
実は安藤は、中国にはそれほど興味を持っていなかった。
あの国は、下に見ている国に対しては、ルールを捻じ曲げてもよいとでも思っている節が有る。
小日本と思われ、過去に何度外交交渉で手痛い目に遭わされたことか。
他国にとっても厄介な存在だ。現在の覇権主義的な考えによる、一方的な現状の変更など論外だ。
中華思想を未だに引きずっているのだろう。下手に手を貸して暴走されたら困るのだ。
ロシアも同じ部分がもちろん有る。しかしクリミア等は、米国とEUの裏工作の失敗で、ある意味自業自得だった。
あれがなければ、ロシアもあそこまでは無理をしなかっただろう。
かといって、黄第一書記の様な手荒をすれば、面子を重んじるあの国はどんな無理でもやるだろう。
そのため、北朝鮮という国として、中国をパートナーと考える時。
戦略的には大切だが、北朝鮮を自分の子分だと思っている中国は、何かと都合が良くない。
「一度、あの国を三国志時代に戻してあげた方が、余程面白いですね。いや今なら五つですかね。」
対中国の外交交渉後考えながら、安藤は呟く。
「まあ、ビジネスパートナーでいいでしょう。」
安藤としては、中国のパイプ役だった三代目の叔父を処刑して、冷え切ってしまった外交関係を、最低限再構築する事と。交易の正常化。
この二つが達成できれば、先ずは良しと考えていた。
兵器などに関しても、ロシアの劣化版コピーなどは不要なのだ。
今回の中国来訪は、勇者達の中からはディルだけ、後は安藤、黄第一書記、外相、中央委員会政治局員からは二人を中心として行く事になっていた。
当然、当初ミリスは大反対だったが、安藤から、この前の留守番の汚名返上の機会。内助の功を発揮する時、という言葉に踊らされていた。
やはりチョロかった
「私が勇者のいない間、この国を守ってみせるわ!」
安藤達が出発する際、誇らしそうにディルに宣言していた。
ディルは、嫌な予感しかしないという顔をしていたが。
中国 中南海
「よく来てくれた、黄同志、安藤、ディル」
ここでは、黄が一番最初に声を掛けられた。
中国国家主席 薄立軍
薄は名前を呼んだ順に手を差し伸べ、握手を行った。
中国から事前に打診を受けていたのは、要はディルを、示威行為の為に貸せと言うものだった。
先ずは中朝友好復活の証として、軍事パレードを行い、その席で薄、黄、ディルが国民の前で固く握手を行う。
また、その後南シナ海、東シナ海へ中国海軍の艦船に搭乗して、パフォーマンスを行えというものだった。
特に、後者の要求はばかげていた。既に緊迫状態にある海域で、パフォーマンスなど行えばどんな結果になるのか予想が困難だ。
今までは、他国も完全な衝突を避けてきたが、パフォーマンスを行う場所を誤れば、最悪米国の第三、第七艦隊が出てくる。
ここ数代で、最も暗愚な国家主席なのは間違いないと。その時安藤は改めて確信していた。
「領有権を持っている海域での演習で、ディルに以前の様な事をしてもらいたい。もちろん、以前ほどの威力は必要ないが、演習に参加して、魔法を使うそれが重要だ。」
薄はさらりと言っているが、一体どこまでのつもりなのだ。
「薄同志、領海というのは」
元々想定していた内容だったため、黄が確認する。
「南シナ海では九段線内、東シナ海は尖閣諸島十二海里付近だ」
やはりダメだ、安藤はうんざりしていた。
「い、今は我が国もやっと軌道にのり始めたばかりです。今後必ず、その約束は守りますので、今回は大陸から十二海里以内の範囲でお願いしたい」
薄は黄を睨みつけるが、ここで屈してしまっては、計画が台無しになる可能性もある。
「それでは、こちらが提示していた条件も、履行がむずかしくなる」
明らかに脅しだ。ただ、中国が提示している条件というのは以前から続いている食料、燃料等の無償援助の継続。特に、減量されているパイプラインからの石油量の増量。輸出入の正常化だ。
今の北朝鮮にとって死活問題になるようなものではない。
そもそも、これは以前の状態に戻すと言っているだけなのだ。
敵にするのは困るが、友好を保ってもロシア程の魅力はない。安藤はそう考えている。
予定して通りの返答を黄が伝える。
「南シナ海に関しては、人工島に勇者達の居住施設を建設して、対外的な圧力に屈さないという意思を見せるというのはどうでしょう。演習も大陸の十二海里以内のものは今回やらせます」
薄は不満そうではあったが、しぶしぶ了解した。
「黄同志、強力な武器を手に入れたからと言って、考え方が変わるようでは困るぞ」
『どちらがだ!』恐らく、ディルを除く、北朝鮮側の全員の気持ちが一つになった瞬間かもしれない。
はっきり言って、この譲歩案すらも、安藤は仕方なくひねり出したものだ。
地に足がつくまでは、余計な事はしたくなかったが、これ以上の譲歩は、中国受け入れなと諦めていた。
相変わらずな国、思想だ。
いっその事この場でと。メラメラしたものが湧いてきたが、安藤は何とか収めた。
「こんなにイライラする事は、あまりないのですが」
会談場を後にしながら、一人呟いた。
その後4日かけて、双方の海軍基地から出発したディルは安藤の指示通り、威力を押さえてパフォーマンスを行った。
ただ、安藤の想定通り、九段線内で魔法の行使の依頼を受けたようだ。
打ち合わせ通り、安藤の持たせていた送受信機でやり取りし、九段線内での魔法の行使は阻止できた。
その後の軍事パレードで、薄はいつかテレビで見たことのある。不貞腐れた顔をしていた。
やっぱりこいつは駄目だ。再度安藤は確信する事になった。
人工島の居住地に関しては直ぐにできるだろう。いつもの無茶な工事をするのだろうが、倒壊しても勇者達なら大丈夫だろう。
寝ている間にというのだけは勘弁してほしいが。そう思うと頭が痛くなる安藤だった。
まあ、ミリスは外で泳ぎたいと言い続けていたので、ミリスとエミリア当りで旅行がてら行ってくれればいいかと、安藤は頭を切り替えた。
そして、恐ろしい事に10日後には、謎建設による勇者の別荘が出来上がっていた。




