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魔族の王

「ここは、何処だ」


 東京都 新宿


 魔族の王 クライドルは周りを見渡した。人、人、人。周りは人であふれかえっている。

視界を遮る高層ビル群も、クライドルには衝撃的であった。

隣には、同胞のシェイラが当りを見渡していた。

 二人とも甲冑姿であったが、周りの人々は少し離れて歩くだけで騒ぎにはなっていない。

「ここは、何処だ」

 もう一度繰り返すクライドル。転移魔法か、しかし、自分たちの棲む世界にこんな国があるなどとは聞いたことがない。

恐らく、幻術などでもないだろう。

 ならば、原因はともかく良く分からない世界に飛ばされた。そう認識して行動する方が、安全そうだとクライドルは考えた。

「シェイラ、よく分からんが、別の世界に飛ばされたらしい。この格好は周りを見る限り目立ちすぎる、いきなり消えると騒ぎになりそうだ、存在を認識されにくくする」

 クライドルは数秒詠唱を行った。

詠唱を終えた後、周囲の自分たちへの視線が無くなったことを確認すると。二人はその場を後にした。


 その場から離れた二人がまず行ったのは着替えである。

着替えと言っても、物質操作による分解と生成である。

 人通りの少ない場所から通行人を観察して、二人はスーツが目立たず、かつ紋様も隠せる服装であると判断した。

クライドルはブラックのピンストライプのスーツを。

シェイラはベージュピンクのパンツタイプのスーツをチョイスした。

 クライドルは、これで目立たないだろうと満足気であったが、目鼻立ちが整った、身長190cmの高身長で、金髪、深い赤色の目。

 シェイラは黒髪ではあったが、目がグレーだ、何よりスタイルが日本人離れし過ぎていた。

幾らスーツを着ても、二人で歩いて目立たないのは無理そうであった。


 魔法を解き、歩き回る二人。何処までも続くオフィスビルの摩天楼である。

「これはもう、違う世界に来たと思うしかないな。文明レベルが違い過ぎる。言語も全く違うようだ」

 項垂れるクライドル。

「魔王様、まずは情報を集めませんと。今は偽装は完璧の様ですので」

 思い込みとは恐ろしいもので、通り過ぎる人々の好奇の視線には気づいていないらしい。

「そうだな、目立たぬ格好をしている故、話しかけても大丈夫だろう」


 結論から言うとダメだった。


 魔法を使って言葉が通じる状態にしてから話しかけているのに、全て無視であった。

「ここの人族は冷たいぞ、まるで魔法で生成したホムンクルスだ。しかも皆、歩も早い」

「魔王様仕方ありません。ここは記憶を覗いてみるしかないでしょう」

「うむ…余りそのような事はしたくはないのだが、仕方あるまい。情報の偏りは避けたいので老若男女数人ずつの記憶を拝見されて頂くとしよう」

 クライドルとシェイラは詠唱を開始した。


 分かった事は、予想通り全く別の世界に自分たちが飛ばされてきたという事だった。

 自分たちがいた世界と全く違う文明体系、戦争のない平和で安全な国(ここ新宿の一部はそうでもないという情報も勿論得ている)

「シェイラよ、ここの人族は素晴らしいな。冷たいところがあるが……」

「そのようですね魔王様。あちらの世界の人族もこの位穏やかであればいいのに」

 二人はうんうんと。頷き合った。

「しかし、どうしたものか、この国の民の情報にも、元の世界に戻るすべはなかったぞ」

「トラックに挽かれる、階段から落ちるなどの方法が有ったようですが」

「いやいや、それはこの世界のアニメとか漫画とかの話だろう。現実ではないぞ」

「すいません。数名、現実とアニメ、漫画の世界が強く結びついている人族がいたため、その記憶が強く残ってしまって」

 シェイラは要らぬ知識を蓄えてしまったらしい。


 更に、歩き回るクライドルとシェイラ、途中、知識を得たはずの新宿駅構内で遭難しかけた後

大型電気店に入ってみる。

「シェイラよ民の知識にあったが、家電というのは凄いな、どうにか持ち帰られないものか」

「魔王様、帰る方法も分からないのに何を言っているのですか」

「そ、そうであったな。しかしシェイラよ、汝もこの国の民の影響で少し冷たくなっておるのではないか」

「そうではありません、呆れているだけです」

 少しシュンとなったなったクライドルと電気店の散策を続ける。


 急に店内が騒がしくなった。人々が同じ方向に速足で集まっていく。

「何事だろうか、我々も行ってみるか。」

 シェイラに怒られた気分転換もかねて、二人はテレビコーナーへと進んでいった。



「まずい、まずいぞシェイラ。」

 テレビコーナーまで行って巨大スクリーンの前で冷や汗を流すクライドル。

モニターには、眷属たちが福岡の街で暴れまわっている姿が映し出されている。

今にも逃げ出しそうなクライドル。

「魔王様落ち着いてください。眷属たちを制止できないのですか」

「む、無理だ遠すぎる。お前も分かるだろ、東京ー福岡間だぞ。飛行機で2時間以上だぞ」

 知識は見事に定着している様であった。

「これは相当な死者が出ているぞ、何でこんなことになってしまったんだ」

 クライドルはモニターの前で震えている。

眷属たちは大暴れである。

「魔王様落ち着いてください。この国ではこういう時は夢だと思え!夢だったことにするらしいです」

「それは現実逃避だ、何の解決にもなっていない。汝は一体、何の知識を入れ込んだんだ」

「ラノベ、某匿名掲示板、漫画の割合が多いようです」

「シェイラよ、それはダメなやつだ」

 魔王は己の腹心のこれからを考えると、頭が痛くなってきた。

「あれは、人族の侵略者共ではなか」

 スクリーンに、眷属たちに囲まれた5人が戦っている姿が映っていた。

「あいつらも飛ばされてきていたのか、ならば、尚更この世界に飛ばされた理由が分からぬな」

 クライドルが考えをまとめようと、モニターから意識が離れた瞬間。

「魔王様、大変です。人族が大魔法を使おうとしています」

 クライドは卒倒しそうになった。

「ば、馬鹿な。あそこにはとんでもない人数の人族がいるんだぞ」

 そういっている間にも、魔法陣はどんどん大きくなり、光を強めていっている。

もはや、クライドルもシェイラも声がでない。

モニターは光に包まれた。

 正常に戻った画面の映像は惨憺たるものだった。

クライドルは今にも崩れ落ちそうだった。

 魔王を名乗ってはいるものの、争いを好まず、平和的に隣国関係を保ってきた。

人族に関しても、魔族領に住む者には偏見、差別をせず、国民の一人として扱ってきた。

それが、万の単位で一瞬にしてその命を狩られたのである。

 クライドルは怒りに震えた。

一方的に侵略をしてきたうえに、無辜の民を大量に死に至らしめるとは。

「魔王様落ち着いてください。残念ながら我々魔族は、こちらの世界では人類の敵の様です」

 クライドルはがっくりと肩を落とした。いくら義憤に駆られても、こちらの人々の知識では、魔王とは人族を殺したり、奴隷にしたり、そういうイメージばかりだった。

「我が国には奴隷などおらぬというのに」

「しかし、安心してください魔王様。最近では、魔王のイメージも良くなってきている様で、ファストフード店で真面目に働いている方もいらっしゃるとのことです」

 クライドルは肩を落としたままシェイラをジトリと睨む。

「おいシェイラ、あまり聞きたくないが、汝のその知識のソースはなんだ」

「大人気ラノベです魔王様。」

「もうよい。」

 ソースは何だという当り、多少クライドルも毒されてはいるようだった。


「ともかくだ、あいつらが好き勝手に動き回ると、とんでもない被害が出る。汝も分かっておるだろうが、この日本という国だけで、元の世界の倍近い人族がすんでおる。どうにか被害が大きくならないようにしなければ」

「畏まりました魔王様、では手始めに、某匿名掲示板で人族の勇者をディスるスレを立ち上げます」

「まてまてまて、偏り過ぎだ」


「まあ、取り敢えずは拠点を構えない事にはな……」

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