抑止力
安藤達からのメッセージが届いた二日後
官邸危機管理センター
「報告 北朝鮮南浦軍港より羅津級フリゲート艦が進行」
「早速来たか、しかし、日本海側ではなく黄海側だと。中国を挑発するつもりなのか。
各国首脳に連絡急げ。米国からの映像はどうだ」
「15分で映像の共有準備が完了するとの事です」
しかし動きが早い。多分、安藤の提案だろう。
「映像来ました」
モニターに艦船が進行する様子が映し出される。
「流石はNSAだな」
甲板に勇者の姿が映されていた。勇者以外は映っていない。
まあ、全員乗っていたのが確認されたら、今の米国なら殲滅にかかるかもしれないが。
安藤はそれも分かっているんだろう。魔法使い当りが38度線付近で待機している可能性だってある。
勇者が乗っているという事は、全世界に最大威力を見せつけたいという事か。
「クライドル様、シェイラ様がいらっしゃいました」
「直ぐに通してくれ」
艦船は進行を初めて2時間半程が過ぎていた。
元の軍港から100キロほど沖へ進んでいた。
「岸、遅れてすまない」
「構わんよ。あの国の船ならどうせ時間はかかるのだ」
ちらりとシェイラを見る岸。
「こちらこそ、すまないなシェイラさん」
「あらあら、岸様お気になさらず。どんな時でも旦那様を見送る度量が、妻には必要ですの」
「見送るって、汝はここまで無理やりついて来ておるではないか。それに夫婦になった記憶はないぞ」
「そうでした。それは勇者を倒した後でございましたね」
「シェイラさん、クライドル。その時は、閣僚全員から花と電報を出させてもらうよ。私は出席させてもらうから」
「き、岸、そういう冗談はやめてくれ。何故だ、岸は私の味方ではなかったのか」
冷や汗を流すクライドル。
「クライドルいいじゃないか、シェイラさんはこんなに嬉しそうなんだから。
それにクライドル、これはアドバイスなのだが、シェイラさんの様な素晴らしい女性がいるのに、目移りしてはいけないと、私は思うのだ」
「う?岸よ、何の話だ」
「岸様の言う通りです」
そう言って、クライドルに向かって笑顔を向けるシェイラ。
うんうん。と心の中で頷く岸であった。
「ゆ、勇者達はどうなっているのだ」
話を変えようとモニターに視線を移すクライドル。
「魔王様のバカ、もう知らないんだから」
どことなくラブコメの波動を感じる声が聞こえるが、無視する事にする。
クライドルは難聴系魔王なのである。
「古谷幕僚長どうだろうか」
「はい。只今沖合120キロほどです。射程40キロで発射する予定でしたら、そろそろかと」
その20分後、艦船は進行を止めた。
甲板で手をかざす勇者。既に詠唱は済んでいた。手平に光が凝縮し、数秒後一気に解き放たれた。
ああ、アニメか。そうだな、そう表現しか思い当たらないな。岸は先日のクライドルの説明を思い出す。
解放から着弾まで僅か1、2秒あっただろうか。水面がめくれ上がる。真上に吹き上がった海水は一体何メートル上ったのだろう、同時に津波のような波が一気に四方にかけていく。
勇者達の力を脅威として、全世界がはっきりと認識した瞬間であった。
そしてその五分後、同様の一撃がもう一度撃ち込まれた。
「米国より入電。発射地点から着弾地点までの距離45km。速報値でですが、推定100キロトンに相当するとの事です」
「おお……」
岸はクライドルからおよその威力については聞いていた。そして予測は、大きく外れるものでもなかった。
それでも、この衝撃である。
世界の首脳たちは一体どんな表情で映像を見ているのであろうか。
「米国より入電。在韓米軍の各基地前に、数分毎に勇者一行を名乗る者が正面ゲートに現れ、名乗っては消えるを繰り返したようです。全て二人組で移動していたとの事で、全基地を回るのに30分かからなかった様です。」
とんでもないデモンストレーションだった。むしろこっちの方が性質が悪い。
元々勇者がいない場合でも、北朝鮮は38度線に配備している多連装砲や自走砲でソウルを火の海にすることができた。
米国のシミレーションでも、ソウルが火の海になる事を覚悟すれば、在韓米軍が北朝鮮を制圧する事が出来るとされていた。
二人組で移動という事は、一人は移動に専念、もう一人が攻撃専門という事か。
このデモンストレーションは、韓国を捨てても、即時の北朝鮮制圧が困難になることを意味していた。
30分以内に、在韓米軍を壊滅する事が出来るぞという脅しだ。
「こっちが本命か…安藤め。」
岸、古谷幕僚長、押谷防衛相は自分の血がみるみる引いていく感じを味わった。
全世界が沈黙した瞬間だった。




