生死を問わず。
「さて、北見様。岸様からの許可が出たので参りましょう」
「総理は何と」
「捕獲してほしいとの事でした。ただし、場合によっては、生死を問わないとの許可を頂きましたわ」
そう言って、シェイラは直ぐに店からでる。北見もあわてて後を追う。
「おお、岸は何と言っておった。走って逃げろとかか」
クライドルは余り戦いたくない様であった。
電話の内容を説明するシェイラ。
「おいシェイラ、岸は本当に、場合によっては殺していいと言ったのか」
怪しむクライドル。とても岸が言いそうな内容ではない。
「あら、私が嘘をつくとでも。嘘つきは昨日の……」
「分かった、シェイラよ、汝を信じる」
「魔王様、大分近づいてきておりますわ。後200m後方から」
「北見よ、ここ当りで少し喧嘩が起きても大丈夫そうな場所はあるか」
「難しいですね。あえて言えば地下駐車場でしょうか。それでも人通りはあります」
「うむ。そこが良い。シェイラよ6人は我らがおぶって運ぶのではないのであろう」
「もちろんです。岸様にお願いしております」
「そうか、では岸に少し恩返しせんとな。では、北見よ地下駐車場に頼む」
「うんうん。ちゃんとついてきているな」
駐車場の奥へ奥へ進んでいく三人。
「北見は車の陰に隠れていてくれ。汝に怪我などされたら、岸に顔向けできんからな」
「私は、クライドル様の護衛です。その様な事は出来ません」
「我は異界の魔王ぞ。邪魔になるので、隠れておれ。そして岸に我が力を報告するがよい」
「魔王様!今魔王っぽかったです」
「そうであろう。我も今、決まった感が有ったぞ。ふむ。ラノベというものも悪くないかもしれん」
全く緊張感のないクライドルとシェイラだった。
「それに北見様。北見様にはもっと大事なお役目がございます」
そう言って紙袋を渡すシェイラ。
「これは私と北見様二人の宝、魂。これを死守してください。仮に魔王様が討ち死にしたとしてもです」
BLと命の重さを比べられ、とても嫌そうな顔をするクライドル。
北見はコクコクと頷き、何やら納得して車の陰に隠れた。
襲撃者を待つ二人。
「薄暗い地下の駐車場で二人きり、ぞくぞくしますわね。魔王様」
もはや、襲撃者とは関係ない会話を始めようとするシェイラ。
「汝は一体何を言っておるのだ。そこに北見もおるではないか」
車の陰では、北見が大切そうに紙袋二つを抱えている。
もういっそ、見えていない事にしたいとクライドルは思った。
「来たぞ」
前から、黒づくめに目だし帽の6人が近づいてくる。
「おお!凄いぞシェイラ。これはあれだ、テンプレって奴だ。我も知っているぞ。アニメとかの奴だ」
相変わらず緊張感は無い。
「魔法発動完了しました。魔王様少しうるさいですよ」
詠唱に集中しにくかったのかシェイラが少しイラついている。
空間への隠遁の魔法と障壁魔法の二重の魔法がかかる。
これで回りからは音も聞こえず、姿も見えず。中に入る事も出来ない。
「すまん。すまん」
シェイラに謝り、六人の前にでる。その距離はもう5m程しかない。
「この場合、君たちの目的や、何で私たちの事を知っているのか、所属を聞いたら教えてもらえるのかな。」
四人は警棒型のスタンガン、二人は拳銃を無言で取り出す。
「アーやっぱりそうなるか。話し合いで解決とかは無理?」
スタンガンを持った四人が距離を詰める。拳銃を持った二人はその場を動かない。
「まあ、その程度の武器と人数で良かったぞ。殺生は好かんのだ」
クライドルの最後の言葉が聞こえた瞬間。襲撃者六人は全員倒れていた。
「く、クライドル様今何が起きたのですか、皆死んでしまったのですか」
陰から出てくる北見。紙袋2つはしっかりと抱えたままだ。
「殺してなどおらん。そもそも殺生は好かん上に、岸からも捕らえるよう言われているからな。これで少しは恩返しできだろうか。岸に連絡頼むぞ」
クライドルは本気で岸に恩返しをする気だったので、満足気であった。
「何をしたかは、簡単だ。全員の後ろを回って、ポンポンポンと叩いただけだ。力加減が難しかったが大丈夫だろう」
「総理がクライドル様とお話がしたいと」
北見から携帯を受け取るクライドル。
「岸よ、どうだったかな。日頃の恩は少しは返せたかな」
「ああ、クライドル本当に助かったよ。感謝する」
「いやいや。感謝するのはこちらの方なので、気にしないでくれ」
「こちらから何か礼をさせてくれないか」
岸としてはその場の借りは早いうちに返したかった。
「岸よ、これは日ごろ恩返しだ。本当に気にすることは無い」
「そうか…。何かあったら北見を通して言ってくれ。では失礼する」
やはり、借りを作ったのはまずかったか、そう思いながら岸は通話を切った。
携帯を北見に返すクライドル。
十分後、六人は護送車に乗せられ連行された。命に別状もなかったようだった。
「しまった。」
急に慌てるクライドル
「魔王様如何されましたか」
「シェイラよ、我はまだ日本酒と日本料理の組み合わせを食べておらん。岸にお願いすればよかった」
打ちひしがれたように、肩を落とすクライドル。
「クライドル様、その程度であれば今日の夕食に手配しておきますので」
「本当か北見、それは楽しみだ。喜んでもらえた上に、美味な物まで頂けるとは」
「魔王様、ですので何度も申し上げております通り、シェイラがわかめ…」
また慌ててシェイラの口を塞ぐクライドル。
「く、クライドル様。その、室外でそういう事は。でも、人間との関係は禁止されておりますので、シェイラ様となら……。
私、向こうを向いております。耳も塞いでおりますので」
顔を真っ赤にして反対側を向く北見。
「ち、ちがう。」
いつまでも冤罪が晴れないクライドルだった。
官邸危機管理センター
シェイラとの通話後も、北見の服に仕掛けられた盗聴器で会話は聞こえていた。
シェイラとの会話の最後は緊張感のあるものだったが、クライドルは人間を殺す事を嫌っている様であった。
途中で音声は途絶えてしまったが、実際誰も死ななかった。
防犯カメラの映像。その一台が障壁魔法の中で稼働していた。
「映像再生します」
その場にいる者は凍り付いた。
確かに防犯カメラの映像というのはコマ数が少ない。
しかし、まったく映っていないのだ、クライドルが移動している姿が。
襲撃者六人が突然倒れるだけの映像。
一コマずつ再生する。職員が言うには、このカメラは1秒に30コマで設定されていたらしい。
今度は、突然6人が倒れるだけの静止画。クライドルはその場に立ったまま。
いや、6人が倒れた時、少し元の位置からずれている。しかしその程度だ。
クライドルが言う事が本当ならば、6人の後ろを移動して、一撃ずつ入れて元の位置に移動。
もう滅茶苦茶だ……
都内在住のクライドルを暗殺するには、人間を何人投入しても無理なのだろう。
「寿司と日本酒ぐらいで済むのなら、毎日だって食わせてやるよ。」
岸はそう言って、苦笑した。




