勇者達のバカンス
勇者達が滞在しているホテル。そこは博多湾を望む高級ホテルであった。
既にスタッフは全員政府職員と入れ替わっている。
ホテルの立地条件も、周辺住民が少ない場所を選んでいる。避難準備も既に完了している。
最悪、半径3キロ四方が火の海になっても、民間人に死傷者が出ないよう配慮されていた。
今もリリーとエミリアは、ホテルのプールで遊んでいた。
キリアは、プールサイドのリクライニングチェアでくつろいでいる。
ミリスは自分磨きと言って、ホテル内のエステに入り浸っている。
プールの護衛はたっての希望で檜山が行っていた。
また、水着のチョイスも檜山である。
リリーとエミリアはスクール水着を着せられていた。名前を書く欄には丁寧にひらがなで名前が記載されていた。
非常にマニアックな光景であった。
その前では、完全武装の檜山が立っている。完全に事案である。
元の世界には水着は無かったようで、疑問もなく二人はスク水を着て遊んでいる。
キリアはかなりきわどいビキニが用意されていた。
檜山の言い分は、当初は全裸で泳ごうとした幼女たちを懸命な説得により守り抜いた。
自分は紳士であるとの事であった。非常に頼もしい紳士である。
これは絶対にあれが出てくるはず。そうぶつぶつ言いながら、檜山は姦視(監視)の目を緩めない。
あれが何なのかはやはり、檜山にしか分からない事である。
誰か、日焼け止めを塗ってくれと言うハプニングを妄想していたが、前の世界に日焼け止めという物は無かったらしい。
こうしてみると、平和そのものである。本当に平気で人間を殺すことができる者達だという事をどうしても忘れてしまいそうになる。
食事の時もみな楽しそうであった。食文化の違いも楽しんでくれていた。
奴隷がほしいと言っていたが、自分達を奴隷のように扱うというわけでもない。
「檜山さーん」
リリーが檜山を呼んでいる。駄目ですリリーさん。檜山は思った。もうだめそうである。
「喉が渇きましたー。エミリアの分もお願いしますー」
「檜山、私の分も頼む」
キリアからの注文もはいった。
「ハイ喜んで!」
まるで居酒屋のような、返事をして喜々としてジュースを取りに行く檜山であった。
浜辺ではディルが素振りを行っている。常に鍛錬が必要だという希望で、影響ができるだけ少ない場所として、ホテルのプライベートビーチが選ばれた。
「いやいや。相変わらず素晴らしい力だ」
ディルの素振りで海が割れる。まるで十戒の映画を見ている様だった。
ディルの剣は、物質創造の魔法でできているらしく、常時出し入れ可能ということだった。
キリアの剣と盾も同じらしい。
「安藤さんは不思議な方ですね。まるで私たちに敵意がない」
「そうですか、私は皆さんの監視役ですよ。ただ、勇者とその仲間に憧れがあるだけです」
「憧れですか?先刻も聞いたのですが、この世界には魔法を使えるものはいないのでしたね」
「そうなんですよ。だからこそ尚更、その憧れは大きくなるのですよ」
今度はディルの剣に炎が渦巻く。それを空高く解き放つ。雲が割れ視界で捉えきれなくなるまで、炎は突き進んだ。
「でも、おかしいですね。こうやって、前の世界と変わりなく、魔法の行使ができるのですから、使える人もいるでしょうに」
安藤はにやりと笑う。
「本当に、魔法が使えたら夢のようですね」