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官邸

 東京都千代田区永田町 首相官邸 地下一階 総理官邸危機管理センター

 

 緊急大臣会合の招集を受け、スタッフの動きはあわただしい。

議長である総理大臣 岸 総一郎をはじめ、次々と本会合の関係大臣、各省庁の官僚たちが入室してくる。


 岸は自席に座りダークグレーのスーツを整え、オールバックの頭を撫でつけた。

額には冷や汗が滲んでいるが、ハンカチで拭う余裕もなかった。

スーツを整えるのも、髪を触るのも、岸の自分を落ち着けるための癖であり、自覚して行っているわけではなかった。

冷や汗が頬まで垂れたとき、岸は初めて大量の汗をかいている事に気が付いた。


 一時間前 総理大臣執務室


 内閣危機管理監の葉山省吾より伝えられた内容は、およそ信じられるものではなかった。

 福岡県市街地において、大規模な戦闘行為が突如開始されたとのことだ。

テロでも、他国からの攻撃でもなく、戦闘が始まったというのである。

勿論テロも、他国からの攻撃もあってはならないものなのだが。

そして、その戦闘の内容は荒唐無稽としか言いようがなかった。

「葉山君、君も冗談がうまくなったな」

 そう答えた岸も分かっている。立場上、職務上冗談などあり得ない事は。

「総理、お気持ちは分かりますが」

 続く言葉を葉山が口に出すより、岸は手を上げて言葉を遮った。

「分かっている、分かっているよ。国家安全保障会議 緊急大臣会合の準備を」

 勢いよくそう宣言した。自分自身奮い立たせるために。

「承知いたしました。」

 一礼すると、葉山は直ぐに部屋を出て行った。


「何故、私の時に……」

 岸は椅子に深く腰掛け、天を仰いだ。

総理大臣として、与党である自由党の総裁としての役目を5年半務め、歳も六十五を過ぎてしまった。

半年後にはその役目も終わり。

順風満帆とまではいかなくとも、経済の先行きも少し明るくなり、後世に残る汚点も残さずにいられそうだった。そう思っていた。


「これは、対応次第では、大災害を処理できなかった無能な総理と言われることになりそうだな。」

 言いながら、岸は40代半ばで、少しタイトなスーツに銀縁メガネの神経質そうな男に目をやる。

「これはだれも予測できなかった、いえ、できるわけもない事態です。総理には今まで通り冷静な対応をお願い致します」

 自分の腹心であり、首席秘書官である桐谷恭司が答えた。

「ああ、そのためにも君を頼りにしているよ」

 そう言って、岸は手元の資料に目を移した。

地方テレビ局の屋上カメラからの映像写真、SNS等に投稿された画像。

どれも、映画の撮影だと言って欲しいものだった。

「やるしかないか」

岸は桐谷を連れ官邸地下に降りて行った。



 総理官邸危機管理センター



 岸はU字型の会議席を見渡した。

既に到着している主要幹部は、防衛大臣の押谷、統合幕僚長 古谷、国家公安委員長 城戸、警察庁長官 神谷、警察庁警備局長 田島であった。


「自衛隊が動けない以上、当面は警察庁指示のもと県警を動かすしかないだろう」

 城戸は警察庁長官の神谷に視線を送る。

「現在、各地のSATを現地に送れるよう準備を急いでおります」

「指示があれば直ぐに現地にいける様待機していてくれ」

 岸はそお指示した後、防衛大臣と統合幕僚長を見た。

押谷と古谷は黙っている。


 自衛隊の防衛出動は過去に例がない。防衛出動すれば、自衛隊が自衛隊の装備で戦闘行為を行う事になる。

 時期を間違えれば間違いなく、政権が吹っ飛ぶ。そんな進言を現時点でするわけにはいかないのだ。

しかし、治安出動となると警察の装備に準拠することになってしまう。

暴徒鎮圧等、数に物を言わせて鎮圧するのであればそれもよいのかもしれないが、今回は意味をなさないだろう。

 自衛隊としては、今起きている戦闘に関してできることは殆どないのである。

「古谷幕僚長」

「はい、現時点では災害派遣という形で救助活動を行えるよう準備を急がせています」

「分かった。そのまま続けてくれ」

 岸としても、自ら防衛出動の話を出すつもりはなかった。

神谷は少し落ち着いたように、溜息を吐いた。


「民放一社のヘリが現場に到着したようです、モニターに映します」

 スタッフの声とともにモニターに映された映像を見て誰もが凍り付いた。

 事前情報はあった。SNS等のが発達している現在、デマも入り乱れるが大体の内容は掴んでいた。

そして、その内容は外れでも何でもなかった。写真だって確認した。

それでも、モニターを前に声も出せずにいた。

 映画、漫画、ゲームの世界。目の前の画像を見て、誰もがそれ以外の感想が出なかった。

 画面の中で飛び交う無数のドラゴン、ワイバーン。

地上ではライオンの顔に蛇の尻尾を持つキマイラ、三つの頭を持つケルベロス。

神話、物語にしか登場しない存在が、数えるのが馬鹿らしくなるほど町の中心部で暴れまわっていた。

 報告にも有ったが、ある程度信憑性がもてそうなSNS投稿者は、目撃情報の投稿一回以降、ほぼ全員更新がないとのことだった。


 地獄が顕現したような有様だった。

ドラゴンは口から炎をまき散らし、ケルベロスは地上にあるもの全てを蹂躙するよう走り回っていた。

報告からわずか一時間で、福岡の中心部、立ち並ぶ商業ビルは殆どが瓦礫となっていた。

「終わりだ。」

 誰かがぽつりと言った。

それは、政権が終わりなのか、日本が終わりなのか、それとも世界が終わりなのか。

「これは。。。警察の武装でどうにかできるものなのか」

 誰が見てもそれは不可能に思われた。

しかし、口に出さずにはいられない、確認せざるを得ない。

城戸、田島、神谷は自分たちが聞かれているのも分かってはいたが、直ぐに言葉が出なかった。


「田島警備局長どうなのかね」

 岸の声でびくりとした田島警備局長が答える。

「この映像が真実だったとして……」

「真実だろう。我々が見ているのは映画ではないのだ。前置きは良い、端的に頼む」

 再びびくりとした田島警備局長。

「あの首がたくさん生えた犬のような生き物ですら、体当たりだけでビルを破壊しているようです、またそれにより傷を受けているようにも見えません。SATが使用する狙撃銃、自動小銃等ではとても致命傷を与えられるとは思えません。現時点で情報が少なく主観が入ってしまいますが、それよりも皮膚が堅そうな恐竜のような生き物にとても効果があるとは……」

「また、何より狙撃銃の射程内まで接近する事も難しいかと」

 神谷警察庁長官が続ける。


「防衛出動」

 誰かがポツリと言う。

 押谷防衛大臣が慌てたように答える。

「防衛出動は基本的に他国からの攻撃から日本を防衛するためのものだ、現時点で軽々に論じていいものではない」

 それを岸が引き継いだ。

「それに、現段階での防衛出動は野党が同意せん。準備は必要だが直ぐに動かすのは無理だ」

 

 そうしているうちに、民放各社と公共放送のヘリが現場に到着したようだ。

各モニターに次々に地獄が映し出される。

 その中の一つのモニター内で「戦闘」が行われていた。

恐らく、人間と思われるものが数人、画面中央に円陣を組んで姿があった。

それを大量の怪物達が囲んでいる。

 普通に見ればこれから、燃やされ灰になるか、ばらばらに食いちぎられる運命にあるとしか思えない状況ではあるが、その人間たちは、自ら火を生みだし怪物を火達磨に変え、剣で切り裂いていった。

化け物の大群、これだけで十分に信じられない光景であったが、それを打ち伏せていく光景は、もっと常識では考えられないものだった。


 危機管理センターでどよめきが起きる。


 次々と屠られていく化物達。

テレビのリポーターも救世主だ勇者などと叫んでいる


「これも、喜んでばかりはいられんな」

 岸は苦しそうに、目を少し閉じて溜息を吐いた。

「これは良い事ではありませんか総理。誰かは分かりませんが、どんどん化物どもが減っているではありませんか」

 公安委員長の城戸はかなり興奮しているようだった。


 岸は眩暈がする思いだった。

推薦や派閥均衡もあるとはいえ、国家の安全に係る地位に、この男を最終的に任命した自分に苛立ちすら覚えた。

「城戸君、彼らは恐らくあの化物達と敵対関係だろう。しかし我々の味方とは限らんのだぞ」

「しかし、同じ人間ではないですか」

「君にはあれが、あんな戦いをしているヒト型の生き物が、我々と同じ人間だと思うのかね・・・

 それにだ、仮定での話だが、化物の方は最悪自衛隊、いやアメリカに頼らなければならないかもしれないが、兵器で何とかなるかもしれない。しかし、あの化物を倒した人間と同じ形をした生き物に、兵器を使用する事を世論が許すと思っているのかね。もうすでに救世主扱いなのだよ」

「それは・・・」

 城戸はそれ以上は何も言わなかった。

当然である。化物達ですら、警察の武装では対処の仕様がないと思わるのに、それを次々と屠っていく者達。

それが、人間に牙をむいた場合の対処方法は限られる。


「同士打ちが助かるのだが…」

 誰にも聞かれない独り言を呟いた時、首席秘書官の桐谷が耳打ちする。

「ホワイトハウスと繋がりました」

「少し失礼する」

 岸と桐谷は危機管理センターを出た。


 ホワイトハウスとのやり取りは、決して実のあるものではなかった。

それもそうである、他国との武力衝突でもなく、現状正体不明なものに対して、直ぐには手助けできないとのことだった。

 ただ、一つだけ収穫があるとすれば、ホワイトハウスが持っている機密情報を含めても、過去に類似例は無いとの事だった。勿論、他国の関与の可能性も極めて低いとの事だった。

どうやらX-ファイルは存在しないらしい。


 危機管理センターにも戻った岸と桐谷は、モニターを見て息をのんだ。

民放の一社が先程よりも接近したため、戦っている者たちの姿が少し鮮明になったいた。

人数は5名の様だ。

 中世のフルプレートアーマーのような物にと強大な盾、剣を手にしている者。

軽装の弓を持つ女性、真っ白な修道服を着た女性、ロングソードを持つ青年。  

そして、円陣の中央で真っ黒なローブを纏、杖のようなものを突きあげている女性。

ローブを着た女性を中心に地面に模様が浮かび上がっている。魔法陣である。

 急激に光を増していく魔法陣。

次の瞬間全てのモニターが光に包まれた。


 魔法陣からの強烈な光でモニターが真っ白になった直後、爆発音が追いつき流れた。

だが、戦闘が行われていた場所の一番近くにいた民放の画面が砂嵐になっている。


 危機管理センター内の誰も声を出すことが出来なかった

民放、公共放送の4社が現場に到着していたが、今はどのモニターも焦点が有っていないようだった。


 数十秒後、各社のモニターが先程まであった、魔法陣の中心を映し出している。

リポーターは口々に化物達の消失と、円陣の中心にいた5人が誰一人かけていない事。

そして、最接近していたヘリが墜落している事を伝えていた。


 吐き気のするような様相だった。

既に半壊の以上の状態ばかりの商業ビル群であったが、今では瓦礫の山と化している。

生存者も、その救出も絶望的だと見るしかないだろう。


「城戸君、彼らを救世主だと思うかね」

 岸の言葉に、青くなった城戸の顔は、更に大量の脂汗を浮かべた。


「皆、充分に理解できているかと思うが、これは未曽有の厄災である。最悪、あの場に立っている5人の人間らしきものと戦闘を行う可能性も考慮に入れなければならない」

 その場にいた全員がこくりとうなずく。

防衛大臣の押谷と統合幕僚長の古谷はうなずいた後、これからなすべき事を考えてか、二人とも目を閉じ眉間にしわを寄せていた。


「彼らへの聴取はどうしましょうか」

 警備部長の田島が言った。

「彼らへ最初の接触は警察庁ではだめだ」

「彼らは明らかに犯罪者ですよ。それを」

 苛立つ田島の言葉を遮り岸は告げる。

「では、君は彼らを留置所なんぞに閉じ込めておけるとでも思っているのかね」

「しかし」

「彼らに、完全に敵に回ってもらっては困るのだ。すでに被害は出ているが、今のところ国民を殺すのを目的として、攻撃はしていないようだ。最低限必要なのは、我々を敵と認識させず、友好的に退場願う事だよ。退場先はまだ決まっていないが。

今回は外務省にでてもらう。岩崎官房長官、私は少し出なければならない、後の事と会見の準備を頼む」

 後から入ってきた、官房長官に指示を出し桐谷とともに部屋を出た。

なろうデビューです。初投稿というより。小説自体を初めて書きます。

至らないところも多々あるかと思いますが、宜しくお願いします。

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