~旅立ち~
唐突だはあるが、この街に古くから伝わる伝説をひとつ話そう。
今から遡ること数百年前、ある男がひとつの小さな大陸を横断した。その男の名はエルフィーン。いまだかつてその大陸を横断することができた者はエルフィーン以外には誰もいないらしい。その理由はとても簡単なことだ。なぜなら、その大陸には標高3000mにもなる高山や落ちたら最後、助かる可能性はまずないだろうと言われているほど深い谷がある。しかし、これなら複数人でいけば攻略できないこともない。それらを乗り越えたあとに待ち構える、最後にして最大・最凶の難所が帰らずの洞窟。そこには気性がとても荒いドラゴンが住んでいるといわれている。総移動距離は1万kmにもなる。それらの難所を乗り越えることができたものには、この世のものとは思えないほどきれいな泉があるという。その泉のほとりには、エルフィーンが持っていた剣が刺さっているらしい。それを抜くことができたものには、願い事が何でもひとつ叶うと言われている。
「エスト!もう10時よ!早く起きて家事を手伝いなさい!」
「わかったわかった、今行くよ。」
俺に朝から元気に叫んだ母さんに対して、欠伸まじりにそう返した。俺の名前はエスト。今年で19歳になった。トワイランスという街に住んでいる。のんびりと準備をしていると、
「今日は特に武器の注文が多いらしいんだから早くして!」
そう。俺の実家は小さくはないが、決して大きくもない鍛冶場をやっている。まあ、鍛冶場では父さんが職人さんに指示を出しつつ自分も手伝っているから、俺は母さんの家事を手伝っている。
...あれ?この辺に靴下を置いといたと思ったんだけど、まあいいか。そこらへんにあるのを適当にはいて母さんのところへ向かった。
「母さん、俺は何をすればいいの?」
「えっと、まずは...。」
そういっていつもどおり、洗濯やら買出しやらといったことをやるように言われた。
「あ、そういえば俺が前に話した剣はどうなってんの?」
「そういう話は父さんに聞いてっていつも言ってるでしょ?」
「へいへい。」
なぜ鍛冶場の息子が剣を必要とするのか。それは俺がこのエルフィン大陸(あの伝説のエルフィーンが踏破した大陸だ)を横断しようとしているからだ。最初は母さんに猛反対されたが(父さんは特に何も言わなかった)、俺がいつになく本気なのをみて渋々許可をくれたのだ。とりあえず、さっさと買出しを済ませるか。
準備をして鍛冶場におりると、父さんに声をかけられた。
「おう、エスト!買出しに行くのか?」
「そうだけど、何か必要なものでもあるの?」
「いや、何もねぇよ。」
「わかった。じゃあ行ってくるよ。」
そんなやりとりをして鍛冶場を出ると、また声をかけられた。
「エーストーーー!!」
そんな叫び声とともに走ってきたのは。
「サムか。」
そう、俺の親友のサミエルだ。こいつとは昔からの付き合いだ。そして、エルフィン大陸横断の仲間だ。
「これから買出しか?俺も一緒に行くよ。」
「お前も何か必要なのか?」
「いや。ただ暇だからな!」
そういって二人で並んで市場へ向かった。
そういえば、なにを買えばいいか確認してなかった。えーと、メモはどこにしまったっけ?
俺がメモを探してると。
「そういえば、俺はもう装備作ったけどお前のは?」
「まだ父さんに聞いてないからなんとも言えないな。」
「そろそろ出発するんだろ?」
「まあな。それより今は買出しが先だろ?」
やっとメモを見つけてそういった俺に、サムはそれ以上何も言わなかった。
それから30分ほどで買出しは終了し、家の前でサムと別れるとそのまま母さんと家事をして半日過ごした。
その日の夜、剣のことを父さんに聞こうと思って鍛冶場におりるとハンマーで鉄をたたく音が聞こえてきた。
(父さん、まだ仕事中かな?)
そう思いつつ音のするほうへ向かった。果たして、そこでは予想通り父さんが作業をしていた。声をかけるタイミングを計っていると、父さんが先に声をかけてきた。
「お、エストか。いいところに来たな。ちょうど満足のいくのができたところだ。」
そういって笑いながら俺に渡して来たのは俺が前に父さんにお願いしていた剣だった。重さは剣を思いっきりふってもバランスを崩すことがないくらいだ。
「どうだ、いい出来だろ?」
「うん、これくらいが俺にはちょうどいいくらいだな。」
笑みを浮かべてそう聞いてきた父さんに、俺も笑い返した。
それから3日後。ついに出発の日の朝が来た。俺の隣にはサムが、前には俺の両親とサムの両親が俺たちと向かい合うように並んで立っていた。話すべきことは昨日の夜に話した。だから後は出発するだけだ。サムのほうを見ると、俺と同じような感じだった。
「お前は何か言っておくことはないのか?」
「昨日全部済ませてきた。」
そういって笑ってきた。思えばこいつと初めてあったときからいつかこの大陸を横断しようと約束を交わした。それから15年。ようやくこの日を迎えることが出来た。そう考えると自然と笑みが浮かぶ。
「じゃ、行ってくるよ。」
「そうか、気をつけろよ。」
「父さんと母さんもね。」
それだけ言って、俺たちは後ろを向いて歩き始めた。この一歩が伝説の泉へと続いていると信じて。何気なく上を向くと、そこには雲ひとつない空が広がっていた。
どうも、八咫泰介です。この作品は初めて小説を書いてみようと思って、勢いのままにかいているような作品です。もしかしたら文章がうまくかけていなくても許してください。もしよければ感想お待ちしています!!