夜空の星へ
「おい、シュンどうすんだよ」
同じ部活仲間の皆神健太郎が小声で話しかけてきた。
「どうするって何のことだよ…」
「とぼけんじゃねーよ、お前叶ちゃんに告るんだろ? そのための天体観測じゃねーかよ」
そう、俺草霧俊は同じ宇宙研究部の流川さんに告白しようとしているのだ。
そのために健太郎や宇宙研のみんなに協力までしてもらって天体観測という舞台を用意してもらった。
そして今は目的の丘まで月明かりと懐中電灯の光しかない道を歩いている。
「…わかってる、解ってるから余計なこと言うな」
「いいだろ少しぐらい。で、なんて告るんだ?」
うるさい奴だ。コイツは中学の時からの付き合いだが本当にうざい。
どうなんだよ~とか言ってる姿を見ると殴りたくなる。
そうやって健太郎とじゃれていると後ろから瀬名綾香が割り込んできた。
「もう、皆神は俊くんの背中を押してあげることもできないの?」
「げ、瀬名。お前なんだよ、今いいところなんだから」
健太郎は瀬名さんの顔見るとものすごくいやそうな顔した。
「げってなによ、げって。ほら俊くんもこんな男とだべってないで早く叶ちゃんの所にいってあげなよ」
そう言って前の方を歩いている流川さんの方に背中を押してくる。
「ほら、早くっ!」
瀬名さんに背中を押され、まだ決心がついていないが流川さんの方に一歩踏み出した。
流川さんの後ろ姿、それは美しかった。
少し赤みがかったショートボブの髪が夜風に吹かれなびいている。
時折空に輝いている月見上げながら歩いているその光景はどこか映画のワンシーンのようで、ずと見ていたかった。
俺は緊張しながら流川さんの隣に並ぶ。
流川さんを見ると俺には気づいていないようだ。
「ねぇ…」
と声をかけると流川さんはビクッと驚かれた。
「あぁ、なんだ草霧くんか……びっくりしたー」
「あー、なんかごめんね急に話しかけて……」
「いやいやいや、ただ私がぼーっとしてただけだから。別に草霧くんが嫌いって訳じゃなうから……」
「あー、うん……」
その後、沈黙がつづいた。
流川さんの隣を歩いているということで頭がいっぱいになって言葉が出てこない。
何かはなそうと話題を探すがなかなか思いつかない。
変わりに心臓の鼓動だけが大きくなっていく。
俺が焦っていると流川さんから話しかけてきた。
「ねぇ、草霧くんは星……好き?」
心臓が弾け飛びそうになった。
星のことを聞いているのは解っている。だけどその一言は強烈だった。
「えっ、ああ。星? 星は好きだよ、うん。たくさん種類があって見飽きないし」
「私はね嫌いなんだよ、星」
俺は驚いて聞き返した。
「な、なんで?」
「それはね、遠くにあるからなんだ。たしかに星はきれいだと思う、だけどどうあがいても届かない……だから私は星を好きにはなれない……いや、ちょっと違うかな、好きになっちゃいけないんだよ」
そう言っているのに、彼女はどこか寂しそうな顔をしていた。
「俺はどこか遠い存在じゃない……」
「?」
「俺は流川さんのことが好きだ」
俺は言った。流川さんに思いを伝えた。あとはまつだけ。
「……」
流川さんはなにもいわなかった。なにもいわず泣いていた。
数秒の沈黙、眠っているような長いようで短い沈黙。
そんな沈黙の後、やっと口を開いた。
「わたしは……私はずっと草霧くんは星だと思ってた。だから、すごくうれしい……」
「私も好きです。草霧くん」
その一言と共に彼女が流した涙は夜空の星えと消えていった。