6話
俺達めがけて、猛突してくる漆黒のガーゴイル。
空は薄暗く、背景より濃く映るガーゴイル。
「こんなの! 勝てる数じゃないわ! 」
その景色に、アサハが大声をあげる。
確かに、まともにやりあって分があるのはあっちだ。
だが、、、、
俺にも考えがある。みるに、敵の頭とは話ができると思われる。ならば、ソイツを揺さぶってみるのも手の一つだろう。
大きな剣を振りかざし迫り来る敵を前に、
いちかばちか。
俺は息を深く吸いこみ、叫んだ。
「おい、そこのお前! 弁償できんのか、学校めちゃくちゃにしやがって! お前みたいな小娘に弁償できんのかっ! 」
凍る空気。というよりは白ける空気。
「は? 」といった表情を浮かべる少女。
自分ですら何をいってるのか分からない発言。
俺と主とのやりとりに、歩みをとめる敵。
とりあえず、動きが止まったことに胸を撫で下ろし、安堵に浸る。
よし、とにかく何でもいいんだ・・・・・・。適当に、怒らせて、時間を稼ごう・・・・・・
そして、頭を回転させ、言葉をひねりだす。
気高そうな、、感じだったよな……。なら何でも敏感に反応しそうだ。
胸をおもいっきり空気で膨らまし、
「……お前みたいな糞ガキには無理だろうな! 」
違う――もっとてきかくに!
「ぞろぞろと部下を連れてこなきゃ、大振りできないような、小心者は、さっさと帰りやがれブス!! はた迷惑なんだよ! デブ! ビッチ! 」
ピクピクと片方の口角だけが反応し、上下に動く頬。
「死にたいのかお主…………? 」
「バカっ! 怒らしてどうすんのよ!? 」
焦りを浮かべ、剣幕の表情で訴えかけるアサハ。
「ほら、これだけのことだし応援も時期にくるだろ? 時間稼ぎだよ! 」
吠える風の中。小声で、やり取りを交わし、意思を伝え合う。
っ!?
空気を裂き、突如として――轟いた雷鳴
一瞬の稲光を伴い目前に落ち、黒煙をあげていた。
それをみた俺は、危険を感じたのか。
心臓の高鳴りが、ドクンドクンと身体をかけめぐり、血の流れというものを感じさせる。
「人の話ぐらい聞いたらどうなのだ!」
「え、お前人だったの? 」
ムキーと顔を歪める少女。もう我慢の限界なのだろうか。ガーゴイル達を掻き分け前へ、前へと歩みを進めてくる。
そう、俺の役割はコイツを怒らせることなんだ。一対一に持ち込むほうが、絶対にやりやすい――
「お前たちは、下がっておれ。私が直々にっ! この男をいたぶってやるのだ! 」
「あはははは。やれるもんなら、やってみな。」
案の定、狙い通りに動いた。何と扱いやすい娘だろう(笑)
「ただでさえ、ヤバいってゆうのに、親玉怒らして! ……ガーゴイル相手にするほうがマシよ!」
怒鳴るアサハを無視して、きたる攻撃に身構える。
──刹那
視線の先にいた少女は、消え…………
何の前触れも無く、目前に現れた。
「死ぬ覚悟はできとるかの?」
にったりと笑う少女。に、この状況下でみとれてしまう。輝く青眼、、、、
右拳がとんできているだなんて知らずに──
「キョウマっ!!」
激しい痛みが頬を襲う。
ッツ、
地面に叩きつけられ、何度転がっただろうか。
身体がほてる。
口が痛い。
血がでているのだろうか。
痛みをこらえ、目を凝らす。
霞んでいた視界が、徐々に鮮明へとなってゆく。
すかさず、瞬間的にやってくる少女。
「あら、もう終わりだなんて言わんじゃろーな、少年?」
戦場の悪魔のように見下ろしている人物に、負けずと対抗心が燃える。
「っへ、これっぽっちも痛くないね……。お前のパンチなんぞデコピン以下だよ」
面前でたたずむコイツにまけまいと、重い腰を、力いっぱい持ち上げる。
「ふむ、わしの右ストレートをうけて、まだ意識があるとは、タフなやつやのぉ」
先程までおぼついていた足元に、ガッチリとした何かを感じる。
やっと、巡ってきたか。
全身にみなぎる、かんじる力。
「ふむ、お主……いや」
そう呟くと、少女が背中に手を回し、棒のようなものを取り出した。
杖――の先端にはめられたら青い石が濃く群青に輝きを放つ。
ツバメのように空を舞い、高く天に近づく少女。
「殺すつもりは、無かったんじゃがの……。こうなっては、いささか気になって仕方がないのじゃ。」
「悪くおもうでない」
天高く掲げられた杖。少女が何かを呟いている。
天空から響く、低周波を伴う轟々とした音。どこか、耳にしたことのあるような音。
「ちょっ、何よあれ……。」
アサハが、暗くなった空を見上げ指さす先に──大量の隕石がみえた。
薄黒い雨雲を突きぬけ、降り注ごうとせん石々。
これは、これはたいそうなもん落としてきやがった。
赤い蒸気を纏った石。それ一つだけでどのくらいのクレーターを作るだろうか。そんなのが無数に降ってきているんだ。もし、誰も止めることが出来なければ、ここにいる……いや、町は全壊だろう。
俺は祈った──
両手を前に。三角を形づくり、俺は祈った。
「もう、何をいまさらする気よ? あんなの止めれっこないわ」
はんば諦めているのか、降ってくる物体を眺めるアサハ。
俺は言う。
「やってみなきゃ、分かりませんよ! 」
でかでかと町に被さるように、現れた――天高く浮かぶ黒の紋印。
迫る隕石。
加速し、猛烈な速さをおび、
細かな石が紋印をすり抜け、街を破壊する――はずだった
突き抜けた物体は、勢いを失い、力無く落下してゆく。
「黒い魔法陣……。──重力使い《グラビティー》!? 」
「いや、でもそんなのありえない!彼は、つい最近この世界に来たばっかりで……」
「やはり、睨んだとおりじゃったか。」
「ふぅー」と力んでいた息を身体から吐き出すと、脱力感が身体をむしばむ。
久々の大掛かりな魔法。慣れないな。グラビティ――
次々と、宙を舞う木の葉のようにふわりと、地についていく石。
音も無く着陸するそれに、物理の常識を疑う。
「反重力を使った速度軽減。見事なもんじゃ。」
そんな中、「ちょっと!」と、怒鳴るようにアサハが語りかけてきた。
「これ、これは一体どういうことよ!? あんた新米スレイヤーじゃなかったの! あんな魔法使える人なんて、見たこと無いわよ! 」
「以前少しだけ、この手のバイトやってた時期も……ありました。隠しててすみません・・」
頭をかき、その旨を伝えた。
それを聞くなりアサハは怒りを露にし、叫んだ。
「最初から、ずっと知らんぷりしてたのね! ありえない! 私が力を振り絞って戦ってたなか、あなたはこの一ヶ月間、優雅に眺めてたっていうの!? 最低ね、このゲス男!」
たくましきガーゴイル達は、かやのそと。俺らは戦っていたはずなのに、味方からの怒声。
バッシングを受ける一方、上空からふわりと降下してくる少女。
地に降り立つなり、軽い笑みを浮かべた彼女はこういった。
「うむ! 決めたぞ! 貴様、わらわの下僕となれ!」
目を真っ直ぐと合わせて、はなさない彼女は、さらに続けた。
「否――お主に拒否権はない! 一緒に世界を救おうぞ! 」
どこかでいつか、聞いたような台詞。
片方からは、罵声。
片方からは、謎の下僕宣言。
何がどうなっているんだか……。
敵だったはずの、彼女は俺にしもべになれなんていいだす始末。誰か、俺の心の声が聞こえているなら、助けてください─―
数少ない読んでくださった方ありがとうございます。
つたない文章でしたが、一言。
この先更新は不定期となります。m(_ _)m