始まり
いくつかの駅を乗り換え、辿り着いたのは大きな施設なようなものだった。まるで、高校の上位互換とも思しき建物。なんというか高級感? が溢れているというのだろうか。門には見たことのあるような名前。表向きは、政府関連といった施設になっているのだろう。
やはり睨んだ通り、魔法研究機関。近年、魔物の人間界進出が顕著になってきたのに対し、魔力を司るものの数が追いついていないのが現状。――つまりは、一人でも多くの人材を確保したいのだ。
会話という会話はなく、大きな門を進み玄関口へと行き着く。
俺がもう少し、小さいときに来たときの記憶とは若干ことなるが……。
受付と思われる場所で、アサハが慣れた口つきで挨拶を交わす。
「あら、アサハちゃん久しぶりー。いらっしゃい。」
「どうも、ご無沙汰しております。」
と、受付の俺達よりいささか年を食ったおばさんが、こちらに目を向けて、にやついた。
「そっか~。アサハちゃんもそういう年頃だもんね~。実をいうと私ね、すこしばっかし心配だったんだよぉ~~」
何を思ったか、明らかに恋人だと思っているらしい。これには、アサハがどんな反応をみせるのか、少しばかし興味が沸く。
「おばさん、忘れたんですか? この機関には部外者は一切立ち入り禁止ですよ」
ま、当たり前といえば、あたりまえか。ちょっとばかし、期待したんだがな……。
「いくわよ。」
横目を見せ、一人歩みを再開するアサハ。受付の女性に一礼して、追いかけようとした、その時、「ちょっと」と受付から呼び止められ、
「なんですか?」と振り向く。
「頑張ってね! 」
左手の親指を立て、満面の笑みを見せる彼女に、俺は軽く笑みを返した。
「さっき、おばさんと何か話してたみたいだけど」
「いや、大したことじゃ」
左右には腰辺りから上部が、青白いガラス張りの壁。一枚の薄い壁の奥には、主に中学生あたりだろうか。幅広い年齢層にも見える人々が、せっせと魔方陣を浮かべるなり、剣術なりの特訓をしている。
広い空間ではじける爆音だったり、空を飛んでいる人だったりと、個別にやっているらしい。
そんな俺の視線に気付いたのか、アサハが前を向いたまま語りだした。
「魔法……よ。いえ、正確には私がそう呼んでいるだけで、呼称は様々よ。世の中には私達が知らないだけで、いろんな未知に溢れている。これだって、その内の一つよ。――驚いたかしら? 」
何と答えようか。――魔法。別に知らない……という訳ではない。が、今更言いづらいというのもあるし。
彼女の問いかけに対し、無言を保った。
彼女は別に気にすることなく、一歩一歩前へと進む。階段をあがり、少しばかし歩いたところで、彼女の足が止まった。
左手側の窓からは、やや小さくなった町並みが見える。
何か緊張するな……
コンコンと2回のノックの後に続け、
「天海です。彼を連れてきました。入っても宜しいでしょうか」
「どうぞ~」
少々若い、男の声が響き、アサハが親指を、ドア前のスクリーンに押し付ける。するとドアが横に、擦れるような音と共に開いた。
扉の先に見えたのは、笑顔が似あう男。茶髪と金髪の中間ぐらいだろうか? 髪型はセンター分けの男が、黒い丸椅子に座っていた。
右手側には、2つの白いベッドにシーツ。保健室が、少々神秘的になったみたいな雰囲気だった。
「やぁ、アサハちゃん、久しぶりだね。こんにちは」
「はい、ご無沙汰しております。伍堂さん」
アサハが丁寧にお辞儀をすると、男がこちらをみて言う。
「彼が、アサハちゃんの気になる男の子……かい? 」
「まぁ、間違いではありませんね」
「アハハッハッハァァッハ」
滑稽そうに笑う伍堂という男。それに驚いたのかアサハは目をまるくして、問う。
「何か……可笑しな点がございましたでしょうか? 」
いぶかしげな表情。こんな男をわざわざ、こんな所に連れて来たことにご苦労さんといいたいのか、またして別の理由なのか。前者の理由ならば、彼女も恥ずかしいことだろう。
「フゥー」と先程まで笑いをあげていた彼は深呼吸を一つついた。
「いやぁ、取り乱してごめんね。ちょっと思い出し笑いしちゃった。」
「はぁ……」
と合点がいかなそうに首をかしげるアサハ。
そんな彼女に彼が告げた。
「僕の目で見る限り、彼の体内には魔力が宿っているよ」
「本当ですかっ!? 」
「うん。本当だよ。これで、キミの仕事も少しは楽になりそうだね」
喜びはねるアサハ……。どうやら目的は、俺にもし力が宿っていたならば働かせる。ということだったみたいだ。
伍堂 信二。 魔力の流れを目で感知することのできる男。ただ感知することができる。ということだけでなく、個人に眠る素質というものを引き出す。
いってみれば、才能があれば引き出すことが可能。ということだ。
伍堂家に伝わる代々の血筋ならではの力――。
「良かったわねキョウマ! あなたもこれで、スレーヤーの仲間入りよ! 」
「あの俺の意見は……」
俺の考えなど聞く耳もたず。アサハは、嬉しそうに肩をふるわす。
「まぁ、彼女が困ってる時は助けてやっておくれよ」
小声で耳打ちをするゴドウ。
「報酬はもちろん・・・・・・でるよ。学生だしほしいものとかあるんじゃないかなぁ~? 君にとっては割の良いバイトだろ~ 」
と、何だかんだ成り行きで、スレーヤーとしての仕事を再び始めることとなった――
あれから何週間たっただろうか。
弱い魔物は俺担当。
少しばかし強い魔物はアサハ担当。
というのが、通常の割り当てとなった。
一応、毎日稽古に行っている。という設定になっている。が、上辺だけで全く通ってなどいない。
いささか、やっかい事は増えたが、お給料がでるおかげで懐があたたかい。好きな物といえば、シュークリーム。それもたくさん食べるようになったな…………
そんなこんなで、今に至ります。
空には、黒マジックで塗りつぶした様な空間の割れ目。そこからは、たくさんのガーゴイル達が、ぞくぞくと列をなして出てきている。
「ちょっ、これマジなの!? 」
その数は、ゆうに50は超えているだろう。
グラウンド上空ーー少しばかし俺より高い位置にいたアサハが、異常な光景に驚きをこぼす。
風が荒れ狂い、教室の窓は全壊。騒がしく悲鳴や、床をじたばたと揺らす音が響く。生徒達がこの異常な光景を見るなり、我先にへと非難をはかり、パニックで学級崩壊が及んでいた。
上空に現れた、空間の裂け目が少しずつ開いてゆき、暗くなる学校。そこから、現れる小さな稲妻と共に、ゆっくり、ゆっくりと親玉と思わしき者が姿を現した――
今までの者とは比べ物にならないほど、溢れ出す魔力。現に、その魔力だけで嵐が起きんと風が吹き荒れている。
俺は、みた光景に目を疑った。
視線の先にいたのは、黒い衣装に身をまとった一人の少女――ピンクのロングヘアーに、かわいいツインテールが特徴の美少女――
「やっほっ~~~~、人間共。遊びに来たぞ! 」
その言葉を合図に、ガーゴイル達が暴れだした――