4話
ちょっと詰まってきました。
雲ひとつない晴天。ちらほらと見える人影。駅周辺の道にそってタクシーが、停車している。そんな中、ほのかに冷たい春風が体感温度を心地よいものにしてくれる。
右腕にはめた腕時計。
時刻は9時55分をさしている。待ち合わせの5分前だ。
駅前の広場を目指す。
ねずみ色の地面。所々に、景色を彩る木。その木を囲むように、木製の赤いベンチが配置されている。
そこに、見覚えのある長い尻尾をたらした者が、長いすに腰掛けているのが見えた。
やべっ。待たせたかな……
変な緊張を抱えたまま、及び腰で近づく。
「遅い。」
そういって立ち上がるアサハ。
青のチノパンに白いTシャツ、片手にはハンドバッグ。シンプルな服装とはいえ、無難に着こなすのは、流石だと言える。
「これでも5分前なんですがね」
別に悪いことではないが、女の子を待たせたということに、何故か罪悪感を感じる。
「それじゃ、行きましょうか」
――歩き出した小さな背中を追いかけた。
アサハがいうには、まずはショッピング。に行くらしい。
「これなんてどうかしら? 」
そういって見せてくるのは
『100万ボルト! どんな相手も失神!』
と宣伝文句をうたう『スタンガン』
さらに、これはどうかと、もってきたのが『木刀』
彼女の思考回路は一体どうなっているのだろうか……。と思わず
「いいんじゃ、、ないですかね? 」
口走る。
結局、信じたくはないが、俺の言葉が引き金となったのか『スタンガン』一つ購入。
俺には分からない。分からない……。そんな物使わなくとも十分な力があるというのに、何の使用ルートがあるのだろうか。
心なしかご満悦の様子。
ショッピングを終え、別の目的地を目指す。道路を走る車が俺達を横切るたびに、かすかな風が生じ、髪を揺らす。
例のブツが入ったバッグを大切そうに抱えて進むアサハにたずねる。
「次はどこにいくんですか~? 」
すると、あら不思議。無愛想なアサヒの表情は柔く
「次はね~」
と続けた彼女――
に。前方、茶色い物体。見るからに最新のものと思われる。
「あ、! 」
――ブチャ
声を上げたのも、時既に遅し。
故意にだろうか? 自分に起きた出来事が飲み込めないのだろうか? はたまた気付いていないのだろうか。
笑顔を保ったままの表情が俺を直視する。
「なに……かな? 」
「いやぁ~。にしてもいい天気ですね! アハハ」
「〇ね」
雲一つ無い青空をバックに、咲き誇った彼女の微笑に、俺は狂気をさとった――
続いて、最寄りのレストランで軽く食事を済ませた俺達は、映画館へと向かった。
「何がいいか、選びなさい。」
退屈そうに、立ちすくむ彼女が映画表を見ながら俺に問う。
時刻は12時55分。
映画表と時刻を照らし合わせながら、注視する。
恋愛物は明らかにお門違いだよな……。となれば残るは季節に似合わずホラー。
「じゃ、このリングっていうヤツで。」
「っえ」
「嫌でしたか? 」
「別に。構わないけど。」
――映画上映中
真っ暗になった劇場を、大きく映しだされたスクリーンの光が、ほのかに観客を照らす。俺達はちょうど中央あたりを運よく席取ることができたのだが。
……。意外だった。先程から、一定の間隔で肩をびくつかせる彼女。それに生じて頭の長い尻尾も小刻みに揺れ、時折身を寄せる彼女。
こうしてみると、普通の――高校生。なのかも知れない。
アサハの怯える横顔を見てそう思う。どういった経緯で非日常を受け持つことになったかは知らないけど、なんか、こう感じるものがあった。
勇猛果敢に戦う少女の裏、恐怖に身を寄せる彼女に、少しばかし女の子らしさを感じることができた――
映画が終わり、ケロっとした顔で平静を装うアサハが言う。
「あれってホラーなの? コメディの間違いじゃないの」
「一応。結構怖かったと思いますけど」
言動と行動が一致していないことに、微笑ましく心でツッこむ。
そんか俺の内部的心情も知らず、
何のまえぶれもなく彼女が切り出した。
「それじゃ、今日はこの辺で。楽しかったわ。」
とだけ言い残しその場を去った――かと思うと、ほんの数十m行ったところで角を曲がり見えなくなったかと思うと、すぐに折り返して、戻ってきた。
「あれ、帰ったんじゃなかったんですか? 」
「形だけよ。形だけ。」
恐らく、後ほどの記憶消去のための保険だろう。
やはり、そういった関係の場所に行くのだろうか。大体の予想はできる。ま、行くだけいって、適当にやりすごそう……。
「では、本当の目的地にいくとしましょ」
そして再び俺達は、その目的地とやらを目指して歩み始めた――