一話
ほかの小説の続きを考えていたら、思いついたのでとりあえず文章にしてみました・・・・・・。
いつも通りの日常――だったはずの教室が、窓の外に映し出された景色のせいで生徒が群がる。周りの挙動と自らの好奇心に負けて、古文の写生を放り出すもの。一目散へと、席を立ち問題となっている外を見やるもの。
どうせ見たっていっしょなのにな――
時刻は午前十一時をまわっていた。
轟々と鳴り響く音源に、少しばかし興味が沸く。
ヤツは……Bランクといったところか。
向けた視線の先に映るのは――
筋骨隆々。全身黒。立派な頭角。分厚い胸板に、俺達の何倍をも太い手足。一対の翼竜がその図体を空に固定すべし、上下に羽ばたく。
――ガーゴイル。
一方対立するは、制服を纏った一人の少女。同じ学校の生徒みたいだ。それに気付いている者が、不思議そうに周りと対談する。
「アイツ、俺らと同じ制服きてっけど何してんだ? 映画の撮影かなんかあったけか? 」
「いやぁ~、にしても最近の技術は進んでるなぁ。あれ、めちゃくちゃリアルだぜ~」
「いや、うちは聞いてないけど・・・・・・」
そんなのお構いなしに、ヤツと彼女の戦闘は続く。
銀々しく輝く細身の剣を振るう・・・・・・がヤツにはダメージが通らない。彼女は気付いていないのだろうか。
ガーゴイル。歴史上では守り神や、門番としての役割を果たす怪物。特徴は"石"でできている肌を持つ。ということだ。
いくら打撃や斬撃を食らわせたところで、ダメージは乏しい。
苦戦を強いられる彼女に、ガーゴイルは自分が優勢だと判断したのだろう。翼の羽ばたくスピードに力が増し、捨て身の突進を繰り出す。
しかし、彼女もそれを分かっていたらしい……。
刹那――彼女を過小評価しすぎたヤツの体は真っ二つに引き裂かれた。
強化魔法。己の魂を最大にまで込めた剣が石の体を引き裂いた。
それと同時に、各クラスから歓声が起きた。
「ひゅーー! かっこいいぃ~。」
「映画みるからなーーーーーーーー! 」
「結婚してぇ~~~~」
などと、懇願する生徒。
空中を舞っていた彼女の姿は地に降り立ち、見えなくなっていた。
尚もやまぬ、声の嵐。
授業中なのにも関わらず、湧き上がる歓声。だが、それも一つずつ収まっていく。
既にアレが始まったのだろう。ついに通常の静けさが隣のクラスにまでおよんだ。
コツコツコツと一つの足音が、教室の前扉で止まる。恐らく誰も気付いていまい。不意打ちの如く――スライド式の扉が音をあげて開いた。
その音に教壇へと視線が集まる。
長い黒髪を後頭部で一つにくくった彼女。また、そのルックスに惹かれたのか、さらにテンションが増すクラス。
白髪の古文担当が、ゆっくりと、優しく、語り掛ける。
「お仕事お疲れ様。すごかったよぉ~。だけどね、先生も映画の撮影があるだなんて知らなかったからビックリしたよ。次からは許可をちゃんと取ってね。今から映画の宣伝かな? 」
そんな彼に興味一つ示さず、何やら始める彼女に尚、視線が釘付けになる。
大きく見開いていた彼女の瞳を瞼が覆う。華奢な両腕が伸び、両手の人差し指・親指で△が形作られた。
突如――黄色の薄ら輝きを示す魔法陣が床で輝いた。それは一瞬。そう一瞬の出来事だった。
それだけを済ますと、少女は次の仕事をすべくと、教室を後にした。
――彼らは何事も無かったように、古文の写生を再開する。
そう、そのとき既に、記憶は消去されていた。