第七話「デレ期」
5/25 句読点や改行にテコ入れと一部内容修正
愛姫妊娠の報はユーロ国王城とニッポンポン国王城、両方へ伝えておいた。
もしもコレが元いた世界ならばそれはただの吉報に過ぎないのだが、この世界では違う。
元々の予定として愛姫を強化出来るところまで強化して、それが終わったら即魔物の巣攻略開始という段取りであったからだ。
二国の王達も既にそのつもりで動いているはずだ。
俺はそのあたりのことが少しひっかかっていた。
何らかの特殊な事情が無ければ、一年弱待って愛姫ちゃんが出産後落ち着いてから攻略しても良いのではないか?
そう考えてそのことを我が妻達に聞いてみることにした。
クロちゃんは理由について何も知らなかった。
ジゼルちゃんは「知識としては知っていますが…」などと言葉を濁した。
この件については愛姫ちゃんに聞くしかないらしい。結局愛姫ちゃんに聞いてみた。
「妾が何度壊滅しこの身を魔物にむさぼられようとも魔物の巣に挑み続けねばならなかった理由、それがこの世界の魔物の生態に関係することなのじゃ」
愛姫ちゃんが無謀な特攻を繰り返していたのはそれ相応の理由があった。
この世界の魔物はいわゆるPOPをしないらしい。ポップというのは主にMMOなどにおいて、フィールド上の何も無い所から敵が湧いて出ることを指す。
ポップをしないということはつまりどういうことか。つまり全ての魔物は卵から生まれるなり分裂で増えるなりのしっかりとした原因があって増えていくということだ。
魔物の巣というのはただ魔物がいるというだけの場所ではなく、完全な生物としての巣でありその中で徐々に増えていくということなのだ。
通常フィールドの魔物は向こうからは一切襲いかかってこないという設定になっているがそれは何故か。
それは通常フィールドの魔物のほとんどは魔物の巣から食料確保の為に外に出ているいわば働きアリのような存在で、アリが食料を集め巣に運んでいくのと同様に、主に周辺の野生動物を襲い巣に持ち帰り食料にするのだそうだ。
そしてその際人間は完全に無視される。
野生動物を狩ることで食料は確保出来るので人間と争う必要が無く、だから通常フィールドの魔物達は人間を無視して食料を集める。
例え同族が周囲で狩られていようが気にも留めないそうだ。
少し考えてみて欲しい。もし働きアリを理由も無く殺したとして、そこが巣の周辺じゃなければ他の働きアリ達はこちらに襲いかかってくるだろうか?
俺は別にそこまでアリに詳しいわけじゃないが、徒党を組んで襲ってくることはまず無いだろう。
となると、どういうことだろうか。
魔物の巣の魔物は別に放っておく限りでは周囲の人間に危害を加えることは無いのだから気にしなくても良いのではないか?
何故危険を冒してまで攻略する必要があるのだろうか。
「そういうわけにもいかぬのじゃ。魔物を倒せば攻撃スキルがアップし、魔物の素材を得る。攻撃スキルはさておき魔物の素材はこの世界の人々の生活にとって必要不可欠なものなのじゃ。そして何より魔物の討伐は神から与えられた使命でもある。旦那様が魔物の巣攻略のクエストを受けているのと同様に、神より受けた妾のクエストも魔物の巣の攻略なのじゃ」
愛姫ちゃんも俺と同じクエストを受けていたのか。
魔物の巣を攻略しなくとも特に問題は起きない。しかしそれ相応の利益があり、尚且つ神より与えられし使命でもあるから魔物の巣を攻略する、と。
愛姫ちゃんはさておき一般兵や魔物ハンターなどは、単純にそれが食い扶持、飯の種だから戦っている。魔物討伐、魔物の巣攻略はこの世界の人々にとっての就職先、職場のひとつでもあるのか。
何もそんなに危険な仕事を好んでやる必要は無いはずだが、この世界は就職難らしい。
そういえば首都教会の一階のハローワークは人でごった返していた。
俺の家の25人の従業員さんもたったの1日で全員が集まった。
さてそれで結局、何故愛姫ちゃんは特攻を繰り返す必要があったのか?
「魔物の巣を攻略する理由そのものは理解して貰えたじゃろうか。では攻略するとなったならば次はその方針じゃ。魔物は決して理由なく増えたりするものではない。じゃから少しずつでも数を減らしていけばいつかは攻略出来るし、攻略出来ないにしてもその魔物の巣が成長するのを食い止めることが出来るのじゃ。魔物の巣にも容量というものがあるのじゃから、放っておけばそのうち成長は止まる。しかしそうやって成長した魔物の巣の攻略はとても危険じゃし、数を減らすのにとても長い時間がかかるのじゃ。じゃから、妾は発生してからまださほど成長していない魔物の巣を、これ以上成長しないように、攻略可能な状態を維持するように、例え危険であっても挑み続けていたのじゃ。もちろん完全に攻略出来るならばしたいところじゃが、それは妾の力ではかなわなかった」
なるほど。成長しようという魔物の巣を何度も何度も殴りつけて成長を妨害していた形になるのか。しかしその為に何度も繰り返し返り討ちにあってボロボロになるとは、愛姫ちゃんにはもしやマゾの素質があるのではなどと一瞬考えてしまったが…いやいや、さすがに全身バリバリ貪られるのを好むようなマゾがいるわけもないな、うん。
話を最初に戻すと、もしも愛姫ちゃんの出産を待って1年魔物の巣を放置などしてしまったらかなりの魔物の巣が攻略困難な状態になってしまうらしい。
愛姫ちゃんの特攻は、各魔物の巣をある程度攻略可能な状態まで削っておくという目的での下準備の為の特攻だったらしい。
つまり1年も放置するということは愛姫ちゃんのこれまでの努力をムダにしてしまうことになる。
今はまだ愛姫ちゃんの特攻の成果が残っている状態で、その恩恵があるうちに魔物の巣を攻略してしまう必要があったのだ。
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愛姫ちゃんの魔物の巣攻略の日程は、一週間後の五月二十二日からということになった。
俺にはよくわからないが比較的早い方なのではないだろうか。
五月二十二日に開始ということで、既に現地では大規模な攻略準備が進められているらしい。
五月二十二日に出発ではなく五月二十二日攻略開始とのことだ。
俺はこの一週間、ノーセックス生活に苦しんでいた。情けない話ではあるが事実である。賢者になれる薬を毎晩飲んで耐えているが精神的な欲求不満はちょっと溜まり気味。抜いてないからな。
クロちゃんは相変わらず妊娠中。いつ妊娠したのかしっかりと覚えていなかったのだが、それをクロちゃんに言ったらすごく怒られた。どうにも四月二十日だったらしい。
愛姫ちゃんはこの間妊娠したばかりだ。これは五月十五日。
出産予定日について調べてみたが、なんでも受精から266日後程度になるらしい。
ということはクロちゃんの子供が来年の一月十日あたり、愛姫ちゃんの子供は来年の二月四日あたりに生まれる計算になるのだろうか。
出陣までの一週間。愛姫ちゃんとジゼルちゃんの仲が随分と良くなっていた。
何故だろう、女同士の友情とか生まれてきているのだろうか。
同じ戦う女同士何か感ずるところがあるのか?戦闘訓練らしきことをしているのを良く見かける。
俺は毎晩ジゼルちゃんの家を訪ねてはみるのだが、その度に両腕でバッテンマークを作られて、
「お断りですわよ!」
と一喝、拒絶されてしまう。ぐぬぬ、これは困った。
しかしそれもそうかもしれない。やれる相手がジゼルちゃんしかいないからなどという理由で抱かれるのはそりゃジゼルちゃんも嫌がるわけである。
しかし拒絶される一方で、ジゼルちゃんからこのような話を持ちかけられた。
「ヒロ様、ヒロ様も少しは鍛えてみませんこと?わたくしと一緒に、周囲のはぐれモンスター狩りをして己を鍛えるのですわ」
ふむ。そうきたか。
魔物の巣に入るなんて絶対にイヤだけれども、周囲でじょじょに慣らしていくぐらいは出来るのかな?
あとこれはジゼルちゃんからのお誘いでもあるのかな?ちょっと期待して聞いてみる。
「もうヒロ様ったら。あまりにもデリカシーが無さ過ぎるんじゃありませんこと?わたくしも今はヒロ様の妻なのですよ?わたくしも貴方のことを好きになる為の努力は惜しみませんから、貴方ももっとしっかりとわたくしのことを愛する努力をなさってくださいな」
む、そうくるとは思わなかった。
今はそこまで好きじゃないけどちゃんと好きになる為に努力しようとしてくれているのか。そして俺もジゼルちゃんのことをしっかりと愛せと。
確かにジゼルちゃんは銀髪ドリルの典型的な完成度の高い貧乳娘であり、俺の好みではないのは事実ではあるのだが。
「ヒロ様がクロ様にメロメロなことはわたくしも既にわかってますわ。ですがその愛をほんの少しで良いのでわたくしにも分けてくださいませんこと?ヒロ様がわたくしを買った以上、夫婦なのですからもう少し素直に愛し合うべきなのですわ」
「えーっと、でも、今はそういったことは…」
「お断りですわよ!」
そう言ってバッテンマークを作られて拒否された。うーむ、なんとも言えない不思議な関係である。
俺もちょっとはそんなジゼルちゃんに萌えてはいるのだけどね。
たぶん貧乳キャラ好きな紳士の方々ならば激萌えで一発轟沈しているのかもしれん。
ところで俺もその愛姫ちゃんの魔物の巣攻略に同行することになっているのか。何故だろうか、その理由を聞いてみた。
するとジゼルちゃんは、先ほどまでの割と萌える表情から一気にマジになった。む、かなり深刻な話なのか?
「愛姫様がもしも命を落とせばお腹の子も道連れになる、そのあたりのことは既に話しましたわよね?」
うん、そこらへんは既に聞いた。もしやその続きがあるのか。
「お腹の子を失うと、例え愛姫様の体を復活させたにしてもとてつもない心の痛みが愛姫様を襲うのです。コレは程度の問題ではなく放置しておけば必ず心が壊れ、愛姫様は立ち直れなくなります。ですからすぐにでも対策を施さなければなりません。その為にヒロ様が必要なのです」
「どういうこと?」
なんだかとんでもない話だが、何故それが俺に関係するのだろう。
「対抗策はですね、子供を失った愛姫様に対してすぐにヒロ様が次の子を仕込む以外に方法が無いのです。出産以外によって妊娠状態が解除されてしまうと、この世界の女性は皆半狂乱の状態に陥ります。これはもはやある種の呪いとも言うべきものですわ。心を襲う痛みは、行為の最中や気を失っている間、睡眠中のみ襲ってきません。もしも愛姫様が子を失われてしまったら、愛姫様が起きている間中ヒロ様が愛姫様を抱き続けすぐに次の子を仕込まねばなりません。そうしなければ愛姫様の心が壊れてしまうのですわ」
うわぁ…なんだかすごい話だ。この世界において女性が子を守る為の本能は呪いとしか言えないものらしい。
だから妊娠した途端に完全ノーセックス状態にもなるわけだ。
全ては生まれてくる子供を守る為、か。そして守りきれなければ心が死んでしまうと。
「とはいっても、今の愛姫様ならば命を落とす危険性は低いはずですわ。何しろヒロ様がそれはもうすごい勢いで愛していましたからね。だからといってわたくしにまでその毒牙を向けないでくださいなまし。今はまだ早いですわ」
最後にそういって、ジゼルちゃんの顔が緩くなった。
あまり深刻には考えず、もしもの保険程度の気持ちで良いのだそうだ。だからその間にジゼルちゃんと一緒に少しは鍛えておこうとのこと。
俺用の武器はジゼルちゃんが事前に選んで現地で渡してくれるらしい。
そうかそうか、それじゃあジゼルちゃんに任せてしまおうかな。俺が選ぶよりもっと良い物を用意してくれるだろう。
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「それで、なんでこの武器なのか説明して貰いたいのだが」
時刻は900/5/22 9:03
ついに魔物の巣の攻略が開始され、出撃する愛姫ちゃんを俺とジゼルちゃんで見送った。
クロちゃんは今回もおうちでお留守番である。妊娠しているのだから仕方ない。
攻略は一日で終わるようなものではなく、数日かけて徐々に敵の数を減らしていくことで進むらしい。
ちなみにやり方はかなり徹底しているそうだ。魔物の卵や幼体がいる部屋でひたすら卵を破壊する役とかいるらしいぞ。
攻略というか侵略というか、決して綺麗事ではないグロ世界が広がっている模様。ちょっと俺は見学とかするの絶対ムリだわ。マジで勘弁して欲しい。
今回の作戦はニッポンポン国とユーロ国の共同で行われている。コレだけの戦力があれば数日で攻略可能だそうだ。
愛姫ちゃんとジゼルちゃんの購入費合計千億円が投入されているはずだ。マネーパワーとはいえ、マネーパワーだからこそ純粋な強さがあるだろう。
話を戻して、俺はジゼルちゃんと修行である。ジゼルちゃんの用意してくれた武器を早速装備する。装備はしたのだが。
それは大盾とそして片手棍だった。片手棍である。いわゆるメイスとかその類だ。
「あら、何かご不満でも?」
ジゼルちゃんの表情が何やら小悪魔風である。うん、そういう表情も萌えるっちゃ萌えるのだが俺はそうでもない、すまん。いや今はその話ではない。
「いや、だってさ。片手棍だよ?メイスだよメイス。俺こういうファンタジー物の主人公がメイス振り回してる作品とか聞いた覚えないんだけど。普通剣でしょ?剣」
「もう。何を言ってるのかさっぱりわかりませんことよ?わたくしが選んだ武器に間違いはありませんわ。王城での決闘の際ヒロ様の太刀筋見せて貰いましたが、ヒロ様には剣は完全に向いてないですわ。ヒロ様にはメイスがお似合いですことよ」
「ぐぬぬ」
おそらくはジゼルちゃんの言うとおりなのだろう。しかしここは俺だってこだわりたい。主人公がメイスマンとか色々おかしいだろそれ。
なのでとりあえず最初は鉄の剣を使うことを了承して貰った。
ジゼルちゃんはすんなり許してくれた。どうせすぐに向いてないことに気づくから問題無いらしい。ジゼルちゃんと、あとお供の騎士達と一緒に出発した。
騎士達は基本後ろで見ているだけらしい。騎士達もかなり強いので、仮に死んでもちゃんと蘇生して貰えるってことだ。安心して戦えるだけマシなんだろう。
パーティーは俺が前衛でジゼルちゃんが中衛。
ジゼルちゃんは生娘なのでHPがほぼゼロで敵の攻撃がそのまま貫通してしまう。
一方俺は体力だけならとんでもなく高いらしい。
ジゼルちゃんいわく不思議バリアの耐久力がHPで、体力スキルが上がればそれがどんどん堅くなるからHPが切れるまでは肉体は安全なのだそうだ。
「大盾を持ち片手棍で殴りつけるのは、伝承に良く出てくるトロールの騎士そのものですわ。格好悪いなどとは思わないでくださいまし。およそ実用という面においては非常に有効ですし、わたくしも好きですわよ」
そういってジゼルちゃんがウィンク。見た目より実用を考えろということらしい。とはいっても最初は片手剣を使わせてもらうが。
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最初に出てきたのはスライム的魔物だった。ん?具体的にどんなスライムだったかって?お前それ以上言うな、消されるぞ。
小さいスライム程度ならば鉄の剣でもちゃんと倒せた。俺がこの世界に来た時から所持していた相棒である。
初めてまともに活躍したかもしれん。よしよし、これからも愛用してやろう。
次に出てきた魔物はデカイカブトムシみたいなやつだった。んー、堅そうな気がする。
しかし特に気にせず剣で叩いてみた、随分堅い、全然刃が通らん。それでも思い切り斬りつけたら、鉄の剣がバキッと折れた。
あっれー?俺の相棒の寿命、ちょっと短すぎっ!?
「ヒロ様、グズグズしない!防御に専念してくださいませ、わたくしが仕留めます!」
魔物が攻撃してきた、大盾ですかさずガードする。
どうなることかと思ったが、今の俺だととんでもない衝撃の攻撃も簡単に防げてしまうらしい。
おお、なんか余裕かもしれんなコレ。俺すげー強いんじゃね?
魔物からの攻撃のガード後、ジゼルちゃんが俺の後ろから躍り出る。
魔物の装甲の薄い部分を的確に突剣で打ち抜いていく。
魔物はあっという間に倒された。ゲーム的なしぶとさはさほど無いらしい。
「ふぅ…ご覧のように、剣による攻撃ではどこを攻めて良いということにはならないのですわ。ですからこの世界において剣が絶対だとは思わないことです。とはいっても人族は全般的に刃物大好き、鈍器大嫌いではあるのですが。そのメイスもこの東大陸では不人気というよりむしろ忌み嫌われるものなので、手に入れるのが大変でしたのよ?」
そう説明するジゼルちゃん。なんだ、剣大好きなことは何も間違ってなかったのか。
いやしかし、だからってそこまでメイスを嫌う必要はあるのか?
「メイスなど鈍器類はドワーフ族が主に使うものです。ドワーフは鈍器大好きで逆に刃物が大嫌いなのだそうですわ。人族とドワーフの仲の悪さはそれはもう酷いものですのよ。特にこの武器において、決して譲れないところがあるのだとか」
うーむ?何か深い因縁があるらしいな。何か他にも聞いてみようか。
そういえば、武器に関してはメイスと大盾だったわけだが防具についてはジゼルちゃんから革防具を渡された。鉄防具よりは軽いし着心地も良い。まさか防具についても何かあるのだろうか。
「革防具は南大陸の獣族が好むものですわ。その革防具は猫族領地から内海貿易によってもたらされたものです。我が国はエルフの国と海越しに接していますから、少量ならば逆貿易によりエルフの鉄防具も流通してはいるのですけれどね。獣族は革防具を好み、エルフは鉄防具を好みます。この両者もすごい対立で、絶対に譲歩しない構えらしいですわ」
ふむ。なんだか色々と新しい単語を聞いた気がする。逆貿易?エルフと獣族の防具戦争?色々と気になるが今はジゼルちゃんとの修行に専念することにしよう。
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メイスは確かに俺に向いているようだった。悔しい、でも使っちゃう。
今日は弱い魔物を中心に倒した。特にピンチに陥ることもなく少しは成長出来た。
攻撃スキルのスキルアップログを俺のシステムメッセージ、スメスさんは通知してくれなかった。
何故だ。俺は戦いに向いてないから教えてあげないよってことなんだろうか。
ジゼルちゃんの方はちゃんと通知されているらしい。俺のスキルアップも通知されているらしくジゼルちゃんからちゃんと上がってますよということを教えて貰った。うん、なんだか嬉しい。
夕方になりキャンプに戻る。しばらく待っていると愛姫ちゃんが戻ってきた。
愛姫ちゃんは片腕がもげていた。少しギョッとしたが、愛姫ちゃん自身は笑っていた。
俺のおかげで体力が大幅に上昇していたおかげで腕がもげただけで済んで良かったと笑っていた。お腹の子さえ無事ならそれで十分過ぎるとのこと。
愛姫ちゃんは国道に触れ、その身を癒した。失った腕が骨、血管、筋肉、そして皮膚と順に再生していった。
俺はその様子をそばで見守っていた。治療の終わった愛姫ちゃんをなでなでしたら喜んでくれた。
愛姫ちゃんは次の日の攻略の為の作戦会議などで忙しいようだった。俺は基本ジゼルちゃんと一緒に行動することになる。
なんだかんだで彼女も俺の妻の一人だし、このように人が多い場所では常に一緒にいるのが当然らしい。
俺は後ろからジゼルちゃんを抱きかかえる形で座っていた。
なでなでするとジゼルちゃんも照れながらも満更でも無さそうな様子である。
「仲良きことは美しきかな、ですわ。わたくしもヒロ様に好かれるのは嬉しいですし拒否したくはありません。だからといってまだ、手を出されるのはお断りですわよ」
「そうかそうか」
「もう…ちゃんとわかっていますの?もっと深く、そういった行為抜きでわたくしのことを愛してくださいませ。今日のように二人で一緒に戦っていれば、絆も深まりますわよ」
システムメッセージのスメスさんがログウィンドウに黄文字を出力していた。
Smes:ヒロとジゼルの絆値が0.3アップ
なるほど、確かにこうやって一緒に過ごしているとそれだけで結構な信頼関係を築けてきている気がする。
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そんな日が続いて4日目。
今日あたりから強めのはぐれモンスターに挑んだのだが、ジゼルちゃんが大きな負傷をした。
ちょっとした負傷はこれまでにもありそのたび国道の回復効果で癒していたが、今回の負傷はでかかった。
魔物の攻撃を盾で防いだ俺の後ろからジゼルちゃんが飛び出し、突剣で敵の急所を突く。しかし魔物はとっさのカウンターを繰り出してきた。
ジゼルちゃんの利き腕が武器ごと吹き飛んだ。
「姫様っ!」
お供の騎士達が後ろから一斉に前に出る。熟練のコンビネーションで魔物をすぐに排除した。
すぐに治癒担当の神官も前に出てくる。
「ッ!…はぁ…ハァ…」
「ジゼル!しっかりしろ!」
「今すぐ止血魔法をかけます。この程度で命を落とすことはありません、落ち着いてください二人とも」
神官がすぐに止血魔法をかけてくれる。傷口を封じ、発生する痛みを完全に封じる魔法だ。
その意味で効果が高い代償なのか、実質の回復効果は一切見込めないらしい。
損傷部位の治療は、神の恩恵である国道の回復効果に頼るしかないそうだ。
俺達はすぐにはぐれモンスター討伐を打ち切って国道まで引き返した。
ジゼルちゃんは痛みこそ完全に取れたはずだが震えていた。小さな体で震える彼女を俺が支えながら二人で歩いた。
ジゼルちゃんの腕が蘇生される様子をしっかりと見ておいた。
ジゼルちゃんは「無理して見なくてもいいですのよ?」と元気無く言ったが、俺は見ると言った。
ジゼルちゃんの腕が骨、血管、筋肉、皮膚の順で修復されていく。修復が終わると、ジゼルちゃんが抱きついてきた。
ジゼルちゃんは泣いていた。震えながら泣いていた。利き腕を吹き飛ばされることはそれだけとても恐ろしいことだったのだろう。
俺は彼女を優しく抱きしめ、ずっと撫で続けた。
夜になり、ジゼルちゃんは落ち着いていた。
愛姫ちゃんは夕方頃帰ってきたらしいが、愛姫ちゃんの出迎えをするのをすっぽかしてしまった。
もっとも今日は五体満足な状態で帰還したらしい。
俺とジゼルちゃんに何があったのかという話を聞いて、それならば仕方ないと納得したのだそうだ。
「はぁ…まさか利き腕を失うとは思いもしませんでしたわ。わたくし、これまでもはぐれモンスターの討伐はして参りましたが、ここまでの大けがは初めてですことよ」
「そうか…俺がもうちょっとフォローとか出来れば良かったのかな」
「ヒロ様、ヒロ様がそこまで気負う必要はありませんわ。ヒロ様は出来る範囲で頑張ってくださいな。無理に私をかばおうとしてヒロ様が大けがだなんて、それはわたくしがイヤですわよ」
今日もジゼルちゃんを後ろから抱きしめる形で過ごしていた。この形で過ごしていると、段々と愛情が深まっていく気がする。
ジゼルちゃんは銀髪ドリルの典型的貧乳キャラだが、体のバランスは取れているしなんだかんだで可愛い。はじめはこう典型的生意気キャラかと思いきや、全然そんなことはなく非常に良い子だ。
うん…体は未発達ではあるが、男を受け入れるのがムリというほどではないだろう。俺自身が既にかなり、ジゼルちゃんのことを愛してしまっていることを自覚せざるを得ない。
しかしそうするとどうなるかというと、この体勢である。ジゼルちゃんを抱きしめている状態なので、その、体の柔らかさなど感じてしまう。
そしたら自然とその、下の方が反応してしまった。突然完全に戦闘状態になった。
当然それはジゼルちゃんのおしりにあたる。うん、完全に気づかれたね。
しかしジゼルちゃんは逃げない。そのままじっと俺に抱きしめられている。
「えーっと…その」
「なんですの?もうちょっと素直に言ってもよろしいのですのよ?」
「うん、そろそろいいのかな?ジゼルちゃんとそういうことをしても」
ジゼルちゃんが少し考えているようだ。
こちらからは顔が見えないが、もしかしなくても真っ赤になっているのかもしれない
「…まだ、ダメですわ」
「ふむ」
「もう少し、もう少し何かきっかけが必要だと思いますの。とりあえず今日は何より、わたくしが落ち込んでいるこのタイミングでわたくしを抱くというのは、なし崩し的で絶対にダメですわ。今日はこのままお預けですわ。その上でわたくしともう少しお話を続けるべきだと思いますの」
そんなわけで、そのまま会話を続けることになってしまった。
「腕を失っただけでこんな気持ちになるだなんて思いもしませんでしたわ。もしも死んでしまったらだなんて絶対に考えたくありません、少し考えただけで泣きそうになってしまいますわ。…愛姫様は改めてとても強いお方ですわ」
「ジゼルちゃんは、死んだことはまだ無いんだね」
「えぇ、もちろんですわよ。…それに、今だって私のこの右腕が、自分のものだという自信が持てていないのですわ。もしも愛姫様のように腕のみになどなってしまったら、わたくしは自分自身の体を信用出来るのか、自信が持てませんわ。まるで自分の体が人のものではない、化け物に変わってしまうようで」
「ええっと、それは」
それは愛姫ちゃんも似たようなことを言っていたな。そしてそのことが今俺を愛してくれている理由でもあると。
「えぇ、わかっています。愛姫様もきっとそのあたりのことを気になされているでしょうから私も以前から気をつけていましたわ。しかし知識で知るのと身を持って体験するのとでは大きな開きがありますのね。身を持って知りましたわ」
うん、やはりジゼルちゃんはそのあたり配慮してたんだね。やはりこの子はいい子だ。そこらの生意気キャラなんかじゃない。
「しかしそうなると、やはり力は欲しくなりますわね。この恐怖を克服する一番の方法がソレだということが良くわかりましたわ」
む?話の流れが変わったか?
「ええと、どういうこと?」
「もう!デリカシーが無いにも程がありますわよ!ケガしない為に、死なない為には、男性との性行為が必要ってことですわよ!」
「あ、あぁ、うん」
なんだなんだこの流れは。
「ええとつまり、俺に抱かれたいと?」
「~!…そうではありますけど、今はまだダメですわ」
「どうして?」
「力が欲しいが為に抱かれるだなんて、それではヒロ様の力を一方的に利用しているだけですわ。例え実際に愛し合っているにしても、もう一押し、何かしらのきっかけが欲しいところですわ」
「ふーむ?」
何やら色々と複雑らしい。しかしジゼルちゃんが俺との関係を真剣に前向きに考えてくれていることはよくわかった。
そのきっかけがいつ来るのかはわからないが、今はこの関係を続けておけば良いのだろうか。
その日の夜は奴隷商人のザンギさんから融通して貰った賢者になれる薬を飲んでおいた。
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900/5/28 14:43
討伐七日目、昼過ぎ。
魔物の巣攻略は既に大詰め。本日中に最後の決着をつけてくるそうだ。
俺は朝、愛姫ちゃんを見送った。愛姫ちゃんの瞳には強い決意の光があった。
愛姫ちゃんはこれまで、一度も死ぬことはなかった。
愛姫ちゃんがもしも死んでしまった時の為に俺は来ていたわけだが、無事に済んで本当に良かった。願わくば今日も無事帰ってきてくれることを願おう。
俺とジゼルちゃんの修行の方はここ数日順調だった。ジゼルちゃんも前回の件から大きなケガはしていないし立ち直りつつある。
今日は最終日だから強めのはぐれモンスターと戦ってみようという話になった。
護衛の騎士達はベテランだしいつもしっかりついてきてくれている。全滅する危険はない。危険ではあるが大丈夫だということで出発した。
俺は、愛姫ちゃんの無事だけでなくジゼルちゃんの無事も祈るべきだったのだろうか。
昼過ぎに遭遇したはぐれモンスターはこのあたりでは珍しいらしい、トロールだった。重厚な防具の類はつけておらず巨大な棍棒を装備していた。
あまりそこらへんの容姿について細かくつっこんではいけない。
俺の体力スキルや防御スキルは相当高いらしく、トロールの棍棒も普通に防げるようになっていた。
この盾の性能もある。随分と良い盾だったらしい。
俺が敵の攻撃をガードするとすかさずジゼルちゃんが前にでて突剣で攻撃する。このコンビネーションでこれまでも数々の魔物を倒してきた。
ジゼルちゃんの華麗な刺突が相手に決まる。そろそろフィニッシュにして下がる場面だ。
と、最後に突き刺した剣が突然抜けなくなったらしい。
ヤバイ、と思った次の瞬間トロールがその大棍棒を叩き下ろしてきた。
ジゼルちゃんの上半身が吹き飛んだ。
一撃だった。あまりにも呆気ない、しかし圧倒的な死。
完全に即死だ。ミンチにされてしまった。
すぐに後方から騎士達が飛び出て、すぐにトロールにトドメを刺した。俺達はジゼルちゃんの死体をすぐに運び国道へと引き返した。
以前愛姫ちゃんの蘇生を見守ったテントにジゼルちゃんの死体は運びこまれた。防具類はジャマになりそうだということで死体から外された。
残った下半身に下着をつけているのが見えたが、今はそれどころではない。国道の上に死体をのせると、すぐに蘇生がはじまった。
愛姫の蘇生を見た時と同様に、骨、内臓、血管、筋肉、皮膚の順で修復が進んでいく。俺はその一部始終を見守った。
無理に見る必要は無いはずだが、愛姫はこれを見ていたからこそ俺を信頼してくれたらしい。ならばやはり見ておくべきだと判断した。
蘇生が終わり、ジゼルちゃんの体がそっと国道の上におかれる。
上半身は裸である。裸ではあるがいやらしいことを考える気にはならない。
既に蘇生が終わっているはずだが、ジゼルちゃんは目を開けない。呼吸はしている、しかしその呼吸は随分と荒い。彼女は震えていた。腕を失った時よりもより強く震えている。
どうしようかと考えていたら係の人が着替えを持ってきた。既につけている下着も一応替えておけとのこと。
死体が身につけていた下着を俺が脱がせて、ついでに少し肌を清めてから新しい下着を履かせた。
そして一応上にもブラをつけさせておく。うまくつけられてるかどうかは自信がない。その間もずっとジゼルちゃんは目を開けずブルブルと震えていた。
その他にも用意された服を一通り着させると、係の人から休息の為に寝所を用意したのでそちらに移るように言われる。
俺はジゼルちゃんをお姫様だっこして寝所へとうつり、彼女を寝かせて、一緒に添い寝した。
ジゼルちゃんはずっと目を開けずブルブルと震えていたが、俺の方に抱きついてきた。
俺は彼女を抱きしめながらずっとなで続けることになった。
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夜になった。
魔物の巣討伐は無事成功し、愛姫ちゃんも五体満足な状態で帰還したらしい。
本当ならば彼女の労をねぎらってやるべきところなのだが、俺はずっとジゼルちゃんのそばにいた。また愛姫ちゃんの相手をすっぽかしてしまった。
しかし事情を知った愛姫ちゃんは、寝所にいる俺にジゼルちゃんと一緒にいるようにしろと声をかけて去っていった。
何度も死んだことのある彼女には、現在のジゼルちゃんの状態の理由もよくわかっているということなのだろう。
900/5/28/ 20:17
ようやくジゼルちゃんが言葉を発した。
「…うー」
最初はそれすら言うのが精一杯だったらしい。俺はずっと彼女を撫で続けている。
「怖かった」
「そうか」
「すっごく怖かった…怖かったのよぅ…」
ぐすんぐすん泣いている。
「剣が抜けなくて、視界がかすかに暗くなったことだけ覚えているの。これが死ぬってことなのね。あまりにも呆気なさ過ぎて、それが逆に怖くて、でもなんだろう、魂は確かに死を覚えているの。生き返った時に、死んだことを痛感させられて、あまりの恐怖で全然体が動かなくて、死んだはずなのになんで私は生きているんだろう、この体は本当に私のものなんだろうかってすごく怖くて、自信が持てなくて、それで」
うーむ、なんとも生々しい。
俺は絶対に死にたくないな。魔物の巣に入るとかはマジ勘弁して欲しい。
この世界の魔物の強さおかしすぎるだろう。一撃即死とかどこのクソゲーだよ。
少し落ち着いてきたはずだが、ジゼルちゃんの体はまだ震えている。
何がまだ足りないのだろうか。
「ねぇ、ヒロは私のことが怖くないの?」
「ん?怖くないよ?」
「ほんとう?本当に?」
今わたし、とかいったね。いつもわたくし、なのに。
色々と心に余裕がないことの現れだろうか。
あとついでに名前も呼び捨てにされた気がするが。
ジゼルちゃんは何か悩んでいるらしい。しかし体の震えは治まっている。
「そっか…うん、そうよね、愛姫に対してもそうだものね」
「うん、そうそう」
「あまり調子に乗らないでよ。でも、うん、ありがと」
うーむ。今日は随分とジゼルちゃんの別の一面を見ている気がする。とはいっても根底はそう変わらないんだろうけども。
もともと良い子だしな、うん。
などと考えていたらどんどん話が進んでいく。
「キスして」
「ん?」
「キスしなさいよ、イヤなの?イヤじゃないでしょ?」
「はいはい」
よくわからんが大事なことらしい。ジゼルちゃんの顔を見て、そして唇にキスしとく。
泣き腫らした顔をしてた。でもかなり表情は柔らかくなっている。
まぁこの寝所は暗いからさほど良くはわからないのだが。
「ちゃんと唇にキスするのね。…見直しましたわ」
「うん、可愛い俺のお嫁さんだからね」
「もう、そういうことはあまり普段から言うものじゃありませんことよ。価値が下がりますわ」
大分立ち直りつつあるらしい。口調も普段のものに戻ってきているようだ。
どういう心境の変化なのだろうか。
「この間の件なのですけども」
「ん?」
「合格ですわ。今回の件はきっかけとして十分だったと認めますわ」
「ふむ」
「そのふむ、って言う癖はやめてくださいまし。それでどうしますの?」
ふむ、そうだな。
改めてジゼルちゃんを抱きしめてみる。ジゼルちゃんはこちらをじっと見つめていた。
銀髪ドリルの幼い顔。
そういえば今日は結構このドリルを触ってみたけど、意外と柔らかい髪質で気持ち良かった。
相変わらず体も幼い。うん、俺の好みではない、好みではないが、ジゼルちゃんのことは十分過ぎるほど好きになっていた。
そのあたり意識したからなのかどうかわからないが、突然下の方が反応して一気に完全な戦闘状態になりジゼルちゃんに当たってしまう。
しかし今夜の彼女は何故か嬉しそうだ。
「いいですわよ」
「えっ」
「だから、いいですわよ。これ以上わたくしに恥ずかしいことを言わせるつもりですの?」
「いや、だってなし崩しはイヤだとか前言ってたし」
うん、どうしたものかな。既にかなり気分は高まってきているが。気分の高まり以上に下の方はギンギンだが。
「なし崩しも…悪くはありませんことよ」
ジゼルちゃんがそう言って、もう一度俺にキスしてきた。
その日の晩は、優しく一回だけプレイしておいた。
今回の話どうでしょうか、グロ過ぎたでしょうか
いやしかし、魔物ってそれぐらいの勢いの圧倒的強さの方が恐怖の対象になると思うんですよ個人的に
グロさに対する対抗手段として無償の完全復活設定を入れた感じです